機械の森

連鎖

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③ガーベラ(常に前進。散歩。)

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「ドンドン。はなこぉぉお。起きてるかぁあ。ドンドン。」
「。。」「ドンドン。朝じゃぞ。。ドンドンドンドンドン。」
「ふあぁっ。。カッチャ。。。。お父さん。うわぁぁぁ。。何よ。。」

 お酒を飲んだ時に思い出した昔の記憶が頭を駆け巡り、
 それを発散する為に、朝方まで起きている生活をしていたので、
 最近はずっと、朝まで起きて昼まで寝ている生活をしていた。

 しかし、そんなことを知らない甚八は、朝6時に花子の家を訪れていた。

「いつも。。言ってい。。」
「煩い。ワシが、何故そんな面倒な事するんだ。早く起きろ!」

 もちろん、他の友達と同じようにスマホに連絡して欲しかったが、

「あー。。あーー。。あぁぁ。。じゃあ、入って。。」

 昔と同じようにしてくる相手の好意が嬉しくて、
 朝来るのは迷惑だと、嫌な顔をしなくてはいけなかったが、
 つい引きつった笑顔ではあるのだが、優しく答えていた。

 靴をぬいで部屋に入ると、友であっても挨拶は必要なので、

「邪魔するぞ。」「。。。」

 何を邪魔するのよ。。邪魔するなら帰って。。とかの、
 昔なら花子も違う反応をしていたが、
 今回は何も答えずに、リビングに向かって真っ直ぐ歩いて行った。

 そんな花子の背中を見ているのが苦しくなったのか、
 それとも、久しぶりに入る部屋は薄暗く湿っている感じがして、
 何かないかと探していると、
 洗っていない衣類が見えたので、すぐに反対を向いてしまった。

「(はぁぁぁぁ)。。。(あっ)。。。。。。。」「。。。。」

 反対側を見ると、今度は部屋の扉が見えてしまったので、
 慌てて視線を花子の背中に向けていた。

 一度あの扉を見ると、本当は数秒で着くリビングまでの距離が、
 とてつもなく遠く男にも感じていた。

 そんな事を思っていると知らない花子が、リビングの扉を開けると、

「あ゙?アァァァ!。。。花子。。お前なぁああ。」

 今度は女独特の体臭が部屋の中から流れ出したが、
 目線の先には、開いていない宅配品の箱。中身が入ったゴミ袋。
 丸まったティッシュ。さっきまで寝ていたシワが残った布団。

 どう見ても、女性が生活していると言うよりも、
 独身男性が、一人で暮らしているという部屋になっていた。

 男の部屋と言えば、転がっているのは酒の缶や瓶が普通だが、
 花子の部屋では、
 水のペットボトルが転がっているのを見て、少し安心していた。

 そんな呆れた姿を見て、
 何か小言でも言われそうなので嫌がっているのか、

「あーー。うぅうるさい。わかってる。わかってるって。。いいから。」

 寝て忘れようとしているのか、
 少し前と同じように、布団にくるまって話を辞めようとしていた。

「わかっているならいい。。ジャ。。ジャアアア。ほら見ろ!
 今日も天気がいいんだ。仕事でもして来い。外に出るんだ。。花子。」

(最近は、外にも出ているだろ?
 買物も行けるようになったんじゃないか?
 頼むから、元気になってくれ。空元気でもいいから、笑ってくれ。)

「もぉおおう、
 一人暮らしの若い女の部屋のカーテンを開けるって、お父さん!
 何を考えているのよ。ジャッ。。危ないでしょうがァァアアア。」

 花子も布団を被りながら、自分が過去に戻ろうとしていることに対して、
 前向きになるようにと、思ってくれる人がいることに感謝していた。

「人は、お天道様を見ないといけないんだ!ジャァァァ。
 わかったか。は。。な。。こ!!!」

 曇った顔を笑顔に変えるためには、苦しくても他に選択肢はないと思い、
 カーテンを開けて、部屋に日の光を取り込んでいた。

 。

 あれから無理矢理に部屋を追い出された花子は、
 暑い日差しの中では浮くが、いつもの綿混の青いツナギを着ていた。
 もちろん、いつもの様に鳩尾まで開いているファスナーの間には、
 シャツから透ける色気のないブラジャーが見えていた。

 この前と違うのは、後ろ髪を留める時間もなかったのか、
 髪を肩まで下ろしたままにして、黒髪を揺らしている事だった。

 今日、お父さんから頼まれた仕事は、
 家から10分ほど歩いた手入れされた大きな庭がある家で、

「ピンポーン。。スミマセーン。やまだでーす。
 おとう。。。。甚八さんの紹介で、来ましたぁアぁぁ。」

「ブツ。。はーい、今行きます。ちょっと待ってください。」

 優しい声で、花子が訪れた事を歓迎していた。

 少しだけ待っていると、家主のお姉さんと一緒に、
 綺麗な毛並みのゴールデンレトリバーが、リードに捕まってやってきた。

「ハッハッハッハ。スリスリスリ。ハッハッハ。」「。。。。」
「山田さん。ほんっとうに大丈夫?この子、とってもお茶目だから。」
「ハッハッハッハ。」
「もう、ダメよ。ダメったら。ぐぃぃいい。
 だから、プレス。待て!。まてって。待ちなさい!」
「ハッハッハ。。ハッハッハ。スリスリスリ。」

 扉が開いて二人が出てくると、オスが直ぐに花子に駆け寄り、
 飼い主の指示など無視して、顔や身体を擦り付けていた。

 そんな発情したオスが、メスにマーキングしている姿に、
 二人とも、申し訳なさそうな顔で話を続けていた。

「大丈夫?」「あはは。仕事ですから。」「ふぅううう。はっはっはっ」

 そんな飼い主の気持ちなど知らないのか、
 もしかして、花子がメス犬に見えているのか、
 今度は身体全体で抱きつくように、身体を伸ばして脚に掴まり、
 腰のあたりを擦り付けて、強烈な臭いをマーキングしていた。

「お父さんなら、いつも大人しくしているけど、娘さん?。。だと。。」
「あはは。腰がですねぇえ。」
「もう。待て!。。まてったら。だから、待ちなさい。プレス。」

 必死にリードを引くが、少しも気にしていない犬の行為は続いていた。

「あっ。。。すみません。名前は、花子です。
 この子も、早く走りたくて興奮しているだけなので大丈夫ですよ。」
「本当に?」
「とても賢そうな子なので、大丈夫です。
 私も、やんちゃな子は大好きなので、安心して任せて下さい。」
「そうですか?」「はい、大丈夫です。ね。。ブレス。」「ワン!」

 甚八よりは背は高いが、筋肉がついて力強い感じもしないし、
 見た目には華奢で美しい女性から、
 安心して欲しいと言われても、少しは心配しそうだが、
 何故かその言葉が、本当のように心に響いていた。

「じゃあ、お願いね。」

 リードを渡す時に、彼女の顔を真っ直ぐ見て話しても、
 自信の表れなのか、視線を少しもぶらさずに見てくるので、
 素直に大丈夫だと安心していた。

 犬もリードが渡されたのが、とても嬉しかったのか、

「ハアハア。。ハッハッハ。。スリスリ。ハゥゥウウ。ハッハッハ。」
「さあ、おいでぇええ。あはは。こっちよ。プレス。」

 一段と激しく跳ねたり、跳んだりしていたが、
 猛獣でも飼い慣らした事でもあるのか、
 花子がリードを軽く引くと、素直に言うことを聞いて近づいてきた。

「さあ、プレス。。。ここにおいで。。」「ウォン。」

 リードを花子が手にしたままでしゃがむと、
 嬉しそうにちかよって、大きな胸に向かって顔を埋めていた。

「いいよ。プレス。ワサワサ。あはは。どう?ワサワサワサワサ。」
「うぉおおおん。。ペロペロ。ウオオオん。ペロペロ。ぺろぺろ。」
「良かったわ。ほんとうに大丈夫そうねぇ。」

 プレスは嬉しそうに、大きな胸を嘗め回しているが、
 そんな行為をされても、花子は少しも動揺していないので、
 飼い主は、嬉しそうに笑っていた。

「この子、気に入らない人だと、すぐに突進して突き飛ばしちゃうのよ。
 小さい頃も、色んなものを押し潰しちゃってね。。。」

 今も昔も、色々な物を踏みつぶしている可愛い子供を見ると、
 楽しい思い出が蘇って、思わず笑って二人を見ていた。

「大丈夫ですよ。とっても可愛くって、賢いから。安心してください。
 じゃあ、行こうか?プレス。。」
「おぉぉおん。」「じゃあ任せたわ。二時間ぐらいお願いね。」

 二人の楽しそうな話し声に安心して、飼い主も家に戻っていた。

 。

 二人で道を歩くだけで目立っていたが、
 花子は、楽しそうに前進するプレスを見ているだけで、

「いくよ。プレス。さあ行こう。」「ウオオオオン。」

「さあ行こう。もっと速く。さあ。もっと先まで。」
「アハハハハハハハ。もう終わりなの?もっと行こうよ、」
「こんなに気持ちいのに。もういいの?もっとよ。もっと。」

「プレス。」「うぉおおおぉぉおおおん。」

 なんだか元気を貰っているように感じて、
 少し遠いが、河原の土手まで二人で走っていた。

 。

 さすがに遠かったのか、
 それとも、飼い主の家に戻って安心したのか、

「プレス。。楽しかった?。」「はっはっはっ。。ぼう。はっはっはっ」

 飼い主の前で伏せをしたまま、息を切らしていた。

「花子さん。ありがとうねぇぇぇ。ワサワサ。」「はっはっは。。」
「こんなにいい子なら、何時でも歓迎です。
 本当に楽しかったです。ありがとうございました。」

(少し遠かったかな?
 でも、これから私一人で。。これからは、ずっと一人で。)

 プレスが辛そうに息をしているのもあるが、
 家に戻ることを考えると、憂鬱な気持ちが心を満たし始めていた。

「ほら。。プレスもお礼を言って。」「はっはっはっ。はっはっはっ。」
「アハハハ。。じゃあね。プレス。」「うおおおぉおん。はっはっはっ。」

 新しい友達から前を向けと応援されているようで、
 また少し、自分の心が軽くなったように感じていた。

 。

 家に戻ると、何時ものように美代ちゃんが、

「お姉ちゃん。元気ィィ?」「今日は楽しかったぁあ。アハハハ。」
「また今度、遊ぼうねぇええ。」「待たねぇええ。」

 そんな他愛無い挨拶の中で、お屋敷に咲いていたガーベラの美しさと、
 友達の応援を思い出して、少し嬉しい気持ちになっていた。


 ③ガーベラ(常に前進。散歩。)
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