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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と自己紹介 その23
しおりを挟む夢現空間 居間
ペラペラと紙を捲る音が鳴り続ける。
それは俺と彼女──今回のインタビュアーが本を読んでいる証であった。
「ところでさ、聖霊が使役できるようになった奴って増えたか?」
「増えたか? と突然言われてもですね、はいできましたと増えるわけないじゃないですか。メルスさんとユラルさん以外、まだ誰もできていませんよ」
「そんなものか……」
「あっ、でも。ドゥルさんは何やら新しい機能が追加できるようになった、とか言っていた気がしますね」
ああ、それに関してはもう聞いた。
なんでも属性が無い武器に限って、召喚した際に一種類の属性が自動付与できるようになったんだっけか?
ティルみたいな属性魔法に長けない戦士系の眷属にとっては、嬉しい情報だろうな。
「リュシルは精霊の使役とか、できるか?」
「……試したことがありませんでしたね。本だけ読んでいれば、それで良かったですし」
「結構便利だぞ。読書にだって、風精霊と光精霊が使えれば捲る作業と灯りを調整する作業を勝手にやってくれるからな」
「メルスさん、それは少し精霊が可哀想じゃありませんか? ダメじゃないですか、そういう理由で精霊に頼み事をしては」
いやいや、あっちもあっちで俺から魔力が貰えるとあって喜んで働くんだからな。
魔力を集めて中級へ、そのためであれば本能のままに協力せざるを得ないのだ。
「知らないのか、リュシル? まあ、双方に益がある取引なんだから気にしない気にしない。その気になれば、俺だってあの手を使えばパッパと全部解決できるさ」
「……理不尽ですよ」
まあ、【怠惰】だからな。
「──さあ、そろそろ始めてまいりましょうか例の時間! 第二十三回質問ターイム! 今回のゲストはこの方、神の秘密を暴いた優秀な学者──リュシルさんです!」
「よ、よろしくお願いします……」
「緊張をされているようですね。しかし、ご安心を。ご質問にお答えしていただくだけ、それだけですから」
リュシルみたいなタイプは珍しい。
いや、緊張という点では前回のネロでも同じだけどさ……癒し、というか和むんだ。
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「問01:あなたの名前は?」
「リュシル=デュールです」
「問02:性別、出身地、生年月日は?」
「女性、魔国ハイウェル、神暦1946年5月7日です」
「……前に聞いたときも思ったが、成長速度が違うんだな」
「魔人の中でも私の種族は、成長が普人族に比べて三倍ほどかかる種族なんですよ」
「問03:自分の身体特徴を描写してください」
「灰色の髪、碧と蒼の瞳……ああ、片方は魔眼ですね。それと……ほんの少しだけ、低い背でしょうか?」
「問04:あなたの職業は?」
「世間一般では学者を。ステータスの表記では(学究者)という職に就いています」
「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」
「分からないことがあったら、何でも本で調べる……本の虫、というヤツですね。考え事があると、すぐに自分の世界に入ります」
「問06:あなたの趣味、特技は?」
「趣味は読書です、特技としてゴーレム造りができますね」
「問07:座右の銘は?」
「自学自習、誰にかに教わるのではなく自分で学ぶことでしょうか? 今では私以上に優れている皆さんがいますが、昔はそうしなければ何もできませんでした」
「問08:自分の長所・短所は?」
「一度やる、と決めたことに専念できることかもしれません。良くも悪くも、これが原因で終焉の島に送られましたので」
「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」
「どちらも実験の成功と失敗です。解が見つかるのはいいんですけど、それはその実験の終わりと同意ですので」
「問10:ストレスの解消法は?」
「実験をすることです」
「問11:尊敬している人は?」
「メルスさんもそうですけど、やはり解析班の皆さんでしょうか? 嫌味になるかもしれませんが、私以上の頭脳を持っている人はこれまでいませんでしたので」
「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」
「研究のやり方、ですね。私なりの流儀というか、特別でもないんですけど……強引に調べたくはないんですよ」
「問13:この世で一番大切なものは?」
「これまでの自分が、証明してきた研究でしたね。私の生き様、といっても過言ではないのですから」
「でした? 過去形なのか」
「娘のようなマシューもいますし、今は家族が大切ですよ」
「問14:あなたの信念は?」
「相手がたとえ神であろうと、自分の研究を穢すような行為はしません」
「それで飛ばされたんだから、物凄く実感があるな」
「問15:癖があったら教えてください」
「本の選び方です。気に入った作者の本を、重点的に読んでいます」
「問16:ボケですか? ツッコミですか?」
「ツッコミですよ?」
「問17:一番嬉しかったことは?」
「自分の研究が認められたときです。誰かが自分の成果を、価値あるものと評価してくれることはとても嬉しかったです」
「俺や眷属はみんな認めてるけど……魔族にも居たのか? 認めてくれる奴」
「はい。仲の好い研究仲間が居ました」
「問18:一番困ったことは?」
「困った、というより悲しかったことですかね? 自分が平和目的で作り上げた研究を使い、軍事的な利用をしていたことです」
「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」
「研究に支障が出ますし、ノンアルコールのお酒を嗜みます。銘柄などは、あまり考えたことがありませんね」
「問20:自分を動物に例えると?」
「動物、と言われても……研究をする動物に心当たりはありません。ですので、人族としか言えませんね」
「なら、どの人族だと思う? というか、今度から人間系の解答にしたら、これを聞いていくことにしよう」
「……さすがにみんな、そこまで特定されたら自分の種族しか言いませんよ」
「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」
「スキルの名前でもある、<禁忌学者>と呼ばれていた時期もありました。神を暴くなどとなんてことを、などと言われた結果だったと思います」
「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」
「強く神に反発しすぎた、という点ですね」
「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」
「いつか分からないことがないほどに、自身の研究を深めたいことです」
「問24:自分の人生、どう思いますか?」
「研究をするため、ですよ。たとえどんなことがあろうと、私はその先で研究を続けていきます」
「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」
「いえ、ありません。失敗も成功も、研究には必要なことですから」
「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」
「研究を続けます」
「問27:何か悩み事はありますか?」
「少し行き詰った研究です……ですが、他の解析班の皆さんと進めています」
「問28:死にたいと思ったことはありますか?」
「それはありません」
「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」
「生まれ変わっても研究者でありたいです」
「問30:理想の死に方があればどうぞ」
「自分が作り上げた研究に埋もれて、死んでみたいですね」
「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」
「そうですね……メルスさん、それじゃあ貴方に。私はこれまで、独りで何でもやってきました。それで満足していましたし、それ以外の充実を知りませんでした。ですが、貴方が私を図書館から連れだしてくれてからは、たくさんの楽しさを知れました。本当に、感謝しています」
「問32:最後に何か一言」
「ですから、私は暴いてみたいです。メルスさんが何をしたくて、何のために偽善をしようとしているのか……もちろん、迷惑であれば止めますけどね」
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「はい、カット! ……まあ、調べるのは好きにやってくれ。グー辺りに訊けば、記憶から探った情報を教えてくれそうだけどな」
「メルスさん、それじゃあ意味がないじゃありませんか。あくまで自分で、それかメルスさんから直接訊いて答えを見つけることが、私のモットーですから──その答えが分かるまで、私は貴方の傍で研究を行います」
自分でも何を言っているか理解しているようで、彼女の顔は赤くなっていた。
そして、それは俺も同じようで……。
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