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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と死者の都 その01

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 街としては登録されていないらしく、あくまでそこは勝手に造られた街なんだとか。
 なにせ、表面的には無人の街だ……生きとし生きる者などいっさい存在しない、死者のみが巣食う負の世界だからな。


「さしずめ、『死者の都』かな? うん、とてもいい街だと思うよ」

「そう言っていただけると、我々としても嬉しい限りです。どうにか木材を伐りだし、家屋にするまで長い時間がかかりました」

「大工さんとかはいなかったの?」

「……木工経験者は居たのですが、さすがにそれほどの方は居なかったのです」


 そりゃあ、『戦場跡』だからだろう。
 大工ではなく大工の真似ごとができる者は居ても、さすがに大工関連の職業のまま死地へ赴くことはしないか。


「そういえば、職業を変更する水晶が街の中にはあるの?」

「いえ、主が持つ御業によって死の直前に就いていた職業にのみ戻ることができました。先ほど居ないと言ったのはそのためです」

「なら、いいお土産があるよ」


 そう言って俺が地面に置くのは──台座に乗った翡翠色に輝く巨大な水晶玉。
 それがいったいどういった物なのか、理解した彼らは驚く。


「な、なぜ貴方がそのような物を!?」

「ふふーん、神の職業持ちが集まって生みだした完全摸倣品だよ。本当に使えるけど……まあ、触るだけ触ってみる?」

「「…………」」


 罠でないことは、一流の──である彼らならすぐに理解しただろう。
 そもそも神器って、一部を再現することはできても完全な摸倣ってほぼ不可能だし。

 二人は同時に頷き、おっかなびっくりと水晶に触れ──認識した。
 俺の用意したこの水晶が、間違いなく本物と同じ機構をしていると。


「間違いありませんでした……疑ってこと、お詫び申し上げます」
「大変申し訳ありませんでした」

「あははっ、それが普通だよ。けど、それがあれば少なくとも新しい職業に就くことはできそうだよね? たとえ元が隷属系の職業だとしても、今はそれが無いんだから」

「ええ……あっ、はい。そう……なります」

「うんうん、これで安心して中に入ることができるよ」


 最悪、【呪骨王】因子でも流し込もうとも考えていたが……それはせずとも潜入できそうである。
 都の入り口には見張りが居たが、二人が取りなしてくれたお蔭で簡単に入れた。


「けど、綺麗な石造りの街並みだね……変形しなきゃだけど」

「大工が居ませんので」


 大工という生産職は居なかったが、代わりに土属性の魔法使いや錬金術師は居たのだ。
 魔法で加工した石を使い、錬金することで建物に組み替える。

 そうして造られたのが、ここにある死者の都(仮)なんだとか。
 また、ここの住人は霊体化できる者が多いので……うん、使い方はさまざまである。


「商人とかは居るの?」

「ええ、居ますね。ただ、ここに住まうのは食糧を必要としないアンデッドですので……嗜好品しか扱うことができず、一部の者はここから旅立ってしまいましたが」

「そもそも戦場に商人が居たんだね」

「ここで行われた戦場はとても苛酷なモノでしたので……」


 そういえば、『アニワス戦場跡』でいったい何が起きたのか把握していなかったな。
 すぐにでも神眼を開眼すれば分かることなのだが、神気を使う必要があるので止めておくことにしよう。


「……ちなみに、今も売っているの?」

「栽培などは行っていますよ。食べる必要が無いだけで食べられますし、食べることで発動するスキルもありますので。しかし、絶対量は少ないですね。もちろん、過去の物資などの流し物ではございません」

「うん、それはなんとなく分かったけど……そうじゃなくて、品質をね?」

「ご安心ください。優秀な魔法師によって、時空魔法の保護を受けております。食料の他にも武器やら魔道具やらございますが、そのすべてが確かな品質を保証されていますよ」


 時空魔法の使い手も戦場に駆り出されていたのか……それとも、あまりに暇すぎて時空魔法まで習得したのか。
 いずれにせよ、アンデッド状態なら何度でも魔法での防腐処理が行えるだろう。


「住民の数は?」

「時折減ったり増えたりしていますが、おおよそ千を超えることはありません」

「結構多いんだね」

「あなたたちが言うレベル四からレベル五へ渡り、馴染むことができれば我らの同朋となるのですから……条件はかなり緩いですよ」


 瘴気の量が薄い四から濃い五へ行くことはできるが、逆はできてもやらないだろう。

 アンデッドにとって、負の魔力の塊である瘴気は生命線といっても同義である。
 それが薄い場所に行くということは、酸素の薄い高い場所に逝くのと同じことだし。


「けど、アンデッドなのに賑やかだよね。とても楽しそう……」

「偉大なる『還魂』様のお膝元ですので、争うことがまずありません。そして、何より望めばそれを行うだけの時間がありますので」

「ああ、そういえばそうだったね」


 ようやく気になっていたワードが彼らの口から出てきた。
 偉大なる『還魂』──アイドロプラズムと呼ばれる『超越種スペリオルシリーズ』。

 どんなヤツなんだろうか……今から少し、わくわくしているよ。


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