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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その09
しおりを挟む第四惑星
木星を模した迷宮に辿り着いた俺とソウ。
そこは霧……というかガスに包まれた惑星であり、視界も覚束なくなっていた。
「ソウ、把握できているか?」
「うむ、儂の龍眼にはばっちり映っておる」
「そうかそうか……あの、どうせなら手でも繋いでくれないか?」
「ほお、主様から御手を……承知した、儂に任せておくがよい」
ソウの龍眼も内包されている神眼なので、当然視ようと思えば視ることはできる。
だが、また意味もなく(時間も無いのに)やる気になったので、縛りを設けてみた。
……いちおう、アンに夕飯は遅くなるから先に食べてくれていい、という所帯染みたことは伝えておいてあるんだがな。
神眼に頼らず、その他のスキルも使わないでこの障害を突破したいと思ったわけだ。
「して、主様よ。儂はいつまでずっとこのようにしていられるのかのう?」
「もう最初の時点で霧がガスだって認識できていたし、その成分の差を視れるようになるまでやっておきたいから……そうだな、だいたい五分ぐらいじゃないか?」
「むぅ……短いのう。もう少し、どうにかできぬのか?」
「どうこうするものじゃないと思うが……とりあえず、クジラをどうにかするか」
最初に見つけた『ガーディアン』の擬似職業種だけでなく、今回は『シーフ』という隠蔽能力が高いクジラも混ざっているらしい。
らしい、というのはソウが代わりに視てくれたから分かったことだからだ。
気配だけは分かったのだが、細かい違いを見つけるのはまだ無理だったからな。
「ガスと気配を隠すクジラ……これって、何かの組み合わせなのか?」
「そうじゃのう……しいて伝えておくことがあるとすれば、そのクジラたちは仄かに雷を放っておるように見えるのう」
「…………静電気からの爆発、ってか? 成分的に爆発するかは微妙だが、とりあえず結界ぐらいは張っておくか──“守護結界”」
近づく前にソウが退治するとは思うが、ガスの影響範囲が分からないので対策はしておく必要があった。
近づいてきたクジラがソウに瞬殺され、最後の足掻きに火花を散らす。
すぐに下がらせたソウは俺の結界の中に入り──それとほぼ同時に、ガスが爆発する。
まさに『エクスプロージョン!!』と呼べるその爆発だったが、相応に魔力を注いだため被害はゼロだ。
「うーん、普通のパーティープレイなら、前衛後衛関係なくやられるぐらいだな。距離もその程度だし、迷宮側で被害範囲を調整しているのかもな……」
「主様、距離を空けたうえで排除することも可能じゃぞ」
「そうだな、ならそれで頼む。結界越しだと練習の邪魔になるし……ソウができるなら、それに越したことはないな。頼んでおこう」
爆発に関してはいっさい問題なかった。
緻密に構成された魔力の壁によって、その被害はいっさい内部に届かずに終わる。
あと、結界は俺の知覚とリンク可能で、その間はクジラを把握できてしまった。
もちろん触れているので、ガスも同様……なのでできるだけ解除しておきたい。
結界っていろいろと便利すぎるんだよな。
そりゃあ【怠惰】の武具っ娘であるスーが愛用する魔法でもあるのだから、ある意味当然ではあるんだが。
一定領域と定まってしまう欠点はあるが、その内部では神のように振る舞える。
速度を変えたり力を底上げしたり、探知したり癒したり……うん、マジチートだろう。
閑話休題
ガスの視認に関しては、とりあえず魔力で視力を強化するぐらいはやることにした。
擬似魔眼、というか魔技の一種である瞳術はこれを基礎として発動する。
だが、それをしてしまったら難易度なんてガクンと下がってしまう。
時間が経てば経つほど、把握できる情報の量が増えていく。
「今回はこれぐらいで終わりにするか……そろそろ目的地を探すぞー」
「──むっ、了解した」
「千里眼も再現できたらよかったけど……望遠鏡みたいな使い方が限界か」
「龍眼であれば、主様の望むだけの力を得ることが可能じゃぞ」
竜族の眼は複数の魔眼の効果を発揮し、認識できる視覚の距離なんて自在に伸ばすことが可能だ。
ただまあ、せっかく使わずにいるのだからそのままを維持しておきたい。
片方の目で千里眼モドキを頑張り、もう片方の目で異なるモノを視ていく。
ガスによって隠されたものを暴く、万物を見透かす力──つまり透視眼だな。
迷宮核が隠されているであろう場所を求めて、魔力全開で捜索を行っている。
ただ、木星は太陽に次いで二番目に大きさな太陽系惑星だからな……そのせいか、全然見つからない。
「ソウ、ヒントくれないか?」
「そうじゃなあ……主様より下にあるのう」
「ありがとう、調べてみる」
捜査範囲を狭める、それだけで力を濃縮することで看破の成功率が上がる。
感覚的に、少しずつガスが晴れていき視界が良好になっていく感じだ。
そうなればなるほど、探す範囲を狭めることができるので……ソレを見つけた。
「見つけた。ソウ、運んでくれ」
「うむ、心得た──やはり邪魔じゃのう、主様の修業も終えたようじゃし、一気に払ってしまおう」
軽くふぅと息を吐くソウ。
ただそれだけ、それだけのはずなのに──暴風が吹き荒れ、ガスが一掃される。
「これで目的地にも向かいやすい。では向かおうぞ、主様よ」
「……あっ、うん」
本当、邪魔をしてばっかりだな。
そんなことを思いながら、俺はこの迷宮を踏破するのだった。
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