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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その04

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「ここが花の都か……意味は違うけど」


 石や樹木で作られた建物は存在しない。
 あるのはすべて、花に関する材料から作られた建物ばかり。

 久しぶりに感じるファンタジーなここは、まさに花の都と呼ぶべき場所だろう。
 そんなことを考えていると、地球の技術が好きなリアが訊ねてくる。


「たしか、パリとかいう国の名前だっけ?」

「違う違う。パリは都市の名前、国の名前はフランスだ」

「そうなのかい? けど、都市名が国名と同じくらい広まるのは凄いと思うよ」


 まあ、二文字だし……そういうことだろ。
 そんな会話をしている俺たちは現在、花の上に建てられた都市にやって来ていた。

 作戦が上手くいき、案内されたからだ。
 最初の公共放送で察してはいたが、何かしらの方法でこちらを見ていたんだろうな。


「貴様、何をやっている。早く来い」

「……っと、すまないね。この都市があまりに素晴らしい場所だったからつい」

「そ、そういうことなのであれば、仕方がない。だが、こちらも貴様を連れて行かねばならない身。観光はすべてが終わった後、また行ってくれ」

「分かったよ」


 俺とユラルは相も変わらずただの普人族では見えない状態なので、交渉役のリアは傍から見れば痛い人状態なのだ。

 なんてことを考えていると、念話で直接リアが話しかけてくる。


《今、変なことを考えていなかったかい?》

《痛い人、ぐらいなら》

《……まあ、それぐらいなら別に構わないけど。そういうの、すぐに分かるんだよ》

《そこ、構わないんだ……》


 最後にツッコんできたユラルをスルーし、先ほど攻撃してきた隊長(男)に連れられて巨大な建築物に辿り着く。

 もともと夢の中に引き籠もっていたリアなので、耐性があるのかもしれないな。
 ある意味、人生経験が長……あっ、いえ、なんでもありません。


「ここだ」

「凄い高さだね。ぼくはいったい、ここのどこに行くことになるんだい?」

「最上層だ」


 この花でできた都の中でも高い建築物──雄蕊っぽいヤツを使って作られた物の中に入ることになった。

 雄蕊の数は六本だったので、そっち系の華だったんだろうな。
 雌蕊の方は城だったので、いきなり目的地が見つけられたらいいのに。

 といった風な考え事をしていると、男は扉の前に立ち……両面のドアが勝手に横にスライドする。


「これは?」

「貴様の居た場所には無かったのか? これは昇降管という物だ」

「昇降管か……覚えておくよ」

「ふんっ、いいから中に入れ」


 まんま昇降機みたいなヤツを使い、俺たちは上へ上へと昇っていく。
 待つこと数十秒、自動的に開いたそこは丸い天井をした広い場所だった。

 そこには一人の偉そうな服を来た男が座っており、俺たちをジッと見つめている。
 案内をしていた男は、バッと片腕でもう片方の腕を掴むと昇降管に入って出ていく。


「──いらっしゃい、他所の華都より来たりし者よ。私は──」

「そうじゃない。ぼくはその華都とやらのことは知らないんだ」

「……どういうことかな?」

「そのままの意味さ」


 いつまでも知らぬ存ぜぬを貫こうと、どうせバレるだろうから先に言っておく。
 あと、どうせその存在を知ったので、以降はいくらでも誤魔化せる。

 変身魔法で顔を偽っている以上、それを見抜くのは困難だしな。
 ここでどういった反応をされるのかも含めて、すべてが糧になる。


「君は……『魔粉』ではないんだな?」

「それも知らないよ。もしかしたら、同じモノだけど違うことのことを言っているのかもしれないけど」

「魔粉とは、地上に咲く花々が生みだした化身のようなもの。私たちに花粉を届けるために、進化した結果発生した存在だ」


 花が進化すると粉が強化されるのか。
 よく分からない理屈ではあるが、今は話を続けさせる必要がある。

 それっぽい台本をユラルとリアと念話で相談し合い、即興で対応していく。


「ぼくの居た場所では魔物と呼んでいたよ」

「魔物か……正体を知らない者が見れば、たしかにそう思えるかもしれないな。殺した時に核を残して粉になる、これは同じか?」

「……そうだね」

「ならばそれが、この華都『ラーバ』における正式な呼称だ。違和感を抱かれたくなければ、覚えておくべきだろう」


 華都とやらの名前はラーバだったのか。
 わざわざ都の名前を出す必要が無かったのか、移動中は聞けなかったんだよ。


「その華都はいくつあるんだい?」

「……大小差があるが、この華都ほどの人を誇る『空花』は十にも満たない」

「空花というのは?」

「その名の通り、空を舞う花のことだ。魔粉が現れる古代に咲いていた花で、現存する物しか確認されていない……君はもしや、記憶喪失なのかな?」


 基礎知識が足りてないため、そんなことを聞かれてしまった。
 まあ、バカなのかと問われるよりはマシな質問だろう。


「……ぼくにも分からない。ただ、自分の名前は覚えているんだ。魔物という言葉も、ふと頭に過ぎった言葉なんだ」

「外で使っていた謎の力は?」

「ぼくは何もしていない。ただ、彼らをどうにかしたいと思っただけなんだ」

「……参考にさせてもらおう」


 嘘は何も言っていない。
 記憶を喪失しているかなんて本人には分からないし、魔物という単語だって知っているからこそ言っただけ。

 聖霊がやったこともそう──リアは思っただけで、俺とユラルが行ったのだから。
 すなわち、たとえ相手が嘘を見抜くなんらかの能力を使っていようと無駄なわけだ。


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