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偽善者と公害対策 二十五月目

偽善者と東の北奥 その03

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「捕まえたぞ」

「さすがネロだな……うん、猿轡までしてくるとは予想していなかったが」

「こういう輩は自身の主張を曲げぬからな。必要になるまでは、このまま放置しておいても構わぬだろう。魔物には不要だったが、うるさく喚くので封じておいた」

「……まあ、いいか。困るわけじゃないし」


 俺の邪縛付きの顔を見てしまったため、恐怖と嫌悪感から俺たちを襲った人族と魔物。
 彼らをネロがアンデッドを使って捕縛し、俺の居る場所まで移送してくれた。

 全員がモガモガと口を動かし、何かを主張している。
 今の俺は存在を偽り、顔を認識されても彼らはなんとも思わないだろう。

 だが、自身を捕縛した者と共に居る男に抱く感情は……少なくとも、好意ではない。
 敵意を爛々と光らせた瞳で、俺とネロを睨みつけているのだから。


『むぐむぐ!』

「何を言っているんだろうな」

「先ほど捕まえる際は、吾らの所属と目的を聞いていたな」

「集団組織はまだ成立していると……さて、そろそろ始めるとしよう」


 まずは魔物の下に近寄り、その頭に手を当てて意識を集中する。
 血を止めるイメージで、『知』を止め、記憶に干渉していく。

 それらを水属性を強く発現させた状態で行いながら、そこに名を与える。


「──“洗状ウォッシュ”」


 留めた俺たちに関わる記憶を、そのまま洗い流すようにして魔物から消す。
 魔法を受けたその個体は、ボーっとした眼で周囲を見渡し……驚愕した。


「ネロ、離してやれ」

「ああ──やれ」

『きゃ、キャイン!』


 アンデッドが纏う負の瘴気の影響を受け、魔物は恐れおののきこの場から逃走する。
 魔法は成功した感じがしたが……実際はどうなっているのか、まだ分からない。


「……もう少し、魔物で試しておこう」

「今の術式は、魂魄には影響が及んでいないようだった。完全には、記憶の抹消ができていなかったようだぞ」

「記憶は脳、そして星辰の領域にある魂魄に書き込まれるからな。一時的には忘れるかもしれないが、思い出そうとすればそのバックアップから思い出すってことか……いや、その方がいいかもしれないな」

「いずれにせよ、それらを使い分けれるようにする必要があるのではないか? ──ちょうどここには、実験用の生物が多くいる」


 言い方がアレなので、ビクッとする人族と魔物の双方。
 ネロは狙っているのか、わざと彼らが怯えそうな言葉をチョイスして語る。


「失敗しても、記憶を失うだけだ。死なない上、吾らを襲ったことの対価と思えば安いものだろう。なに、『失敗は成功の母』という言葉がある。最後の最後に成功すれば、過程などどうでも良い」

「おいおい、そんなこと言うな。ネロ、一つも失敗していいものなんてないんだぞ」

「むぅ……すまない」


 俺の発言に、なんだかよく分からないが助かった……みたいな反応をしてくれる。
 自分の命が懸かっているからか、隠さずにリアクションしてくれるので少し楽しい。

 ──だから、少し煽ってみた。


「俺は失敗しても、ちゃんとリサイクルする主義なんだよ。多少見た目がボロボロになっても、動けばいいんじゃないか? 脳みそを弄繰り回して壊れるのは内側だけだし、外側は有意義に使ってやれば成功なんだよ」

「おおっ、さすがであるな! ならば、少しばかり失敗……いや、別の実験に回しても構わないということか!」

「そういうことだな。うーん……まあ、男女一人ずついればさっきの実験は上手く試せるわけだから、残りは死霊術の実験にでも回すことにしようか」

「腕を増やす、正気を消す、存在を書き換える……うむうむ、やることはたくさんだな」


 一部の奴は、それだけで股が汚れ始める。
 ネロの発言は百パーセント本気なので、たとえ嘘を見抜くスキルがあったとしても、それは恐怖を高めるスパイスにしかならない。

 俺も嘘は吐いておらず、ただ予定を言っているだけなのでスキル持ちは勝手に絶望して顔面が蒼白くなっていく。


「まあせめて、情報を吐いてくれるなら生かしてやってもよかったんだけどな。何も教えてくれないし……しょうがないよな」

「むぐむぐと言っているだけで、情報を伝えますと正直に言ってこない。この島国の者たちは、とても内気な者ばかりだの」

「まっ、縄で縛っているんだから話せるわけもないよな。あっははははは!」

「ふふふ、ふははは、ふわーっはっは!」


 自分でもドン引きな演技だが、観客たちは大いに反応してくれるので続ける。
 何度も言うが、ネロは素でやっている……本当に、『狂科学者マッドサイエンティスト』っぽいんだよな。

 そんなネロの狂気もあって、観客たちもスタンディングオベーションの準備をしようと必死に体を動かしている。


「何か言いたげだな……ネロ、一番右の男を解放してやれ」

「仕方ないな……」

「──ぶはぁっ! た、頼む、どんなことでも答えるから! だから、助けてくれ!」

「……誰を? ああ、そこの女性か。分かった、任せておけ。お前の死は無駄にはしないからな──ネロ」


 いや、違うと藻掻く男の口には、再び縄が付けられて話せなくなった。
 逆に、指名された女は救われたという表情になっている。

 ……もともとネロが、魂魄眼で彼らの性格診断を行っており、誰が一番正しい情報を吐いてくれるのかは分かっているのだ。

 恩を売っておけば、それに応える……女がそういう魂魄の持ち主だったので、生かして情報を吐かせるわけだな。


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