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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目
偽善者と夢現祭り二日目 その15
しおりを挟む迸る黒い雷が体を蝕み、周りには身の毛もよだつ絶叫が響き渡る。
だが、誰もそれを気に留めない……なぜならそれが、すでに半刻ほど続いていたから。
「ギャァアアアア!」
「て、テメェ……」
「ギャァアアアア!」
「もういい、いつまでやってやがる!」
ちょうど男の“轟雷斬”も、消費していた精気力が切れたようで停止した。
俺の方もそろそろ喉が渇いたなぁと思い始めていたので、ナイスタイミングである。
「よいしょ──“浸透勁”」
「ぐへっ!」
「はははっ、ぐへだって……ずいぶんと面白い鳴き方をするんだね」
「テメェ……何をしやがった!」
男の質問は無視して、ようやく水が確保できると“水は流れ”を使う。
……栄養とかは無いんだが、喉に通る水の感覚だけは本物なので、それで満足する。
「ぷはぁあ、美味しい! えっと、なんでか聞きたいんだっけ? もちろん、僕のために決まっているじゃないか」
「…………」
「相手が本気で殺しに来てくれれば、その分スキルの熟練度は上がりやすい。ねぇ、こんな常識も知らないの?」
自分のことを棚に上げて、俺は男をからかうためにそんなことを言う。
……だがまあ実際、彼の復讐心が俺をまた強くしてくれた。
具体的には──気闘術、魔闘術、並列思考や細胞活性スキルなどを獲得している。
いろいろとおかしいと思うが、苦痛の中で物事を考えるのは結構大変だったぞ。
ちなみに彼の攻撃自体で習得したのは──斬撃耐性、苦痛耐性、電撃耐性、怨念耐性、被虐、電導体、狂叫、絶叫、我慢など……受ける側のスキルだな。
「最初から、それが目的だったのか!」
「うん、じゃないと僕たった独りでのんびりしているわけないじゃないか。バカなの? ああ、バカだからこうなったのかぁ」
「クソがぁああ!」
「もう、武技を使う分も精気力が残ってないみたいだね──『水鏡反響』」
わざと受ける必要もないし、魔術で対応することに。
男が突きつけてきた剣は、俺が展開した水鏡に映し出される。
そこから出現した鏡写しの剣が、男の剣と衝突して──競り負けた。
俺が魔力を籠めた分、威力は向上するためこうなるのだ。
「いやー、これでまた新しいスキルが手に入るよ。ありがとうね…………えっと、どこかの誰かさん」
「──うおぉおおおおおお!」
「……あっ、そういえば今はアイテムを使えるんだっけ?」
何でもありなルールにしたせいか、一定数なら使用可能な回復ポーション。
回復量に制限はあるが、それでも武技を使うぐらいには回復したことだろう。
「──“轟雷斬”、“兆電撃”!」
雷の刃、加えて今度は異常な電圧を誇る雷が俺を襲う。
降り注ぐ雷は刃に籠り、その威力をより高めている。
また“水鏡反響”を使えばいいんだけど、何か企んでいそうだよな。
……まあ、それを超えればいいか。
「魔法も覚えてたんだ……なら、二人にも使えば良かったのに──『水鏡反響』」
「バカめ、同じ手を何度も喰らうわけねぇだろうが──“土壁”!」
水鏡の前に土の壁がそびえ立ち、男の姿が映らなくなる。
たしかにそれも、防ぐために使える手段の一つだな……今回はこのままでいいか。
並速思考、そして高速思考を冴え巡らせれば対応するまでの時間が引き延ばす。
並列行動スキルとなった同時操作も、短時間でいろんなことを行えるようにした。
まずは純魔法“無純障壁”を構築、攻撃を強制的に無効化する。
刃がそこを通ると、すべてが純属性の魔力でゼロにされるからだ。
内包魔力もベクトルも、ありとあらゆる力が起動中に限り停止する。
要するに剣が宙で引っこ抜けなくなった男なので、そこを狙う。
……今ので魔力がかなり減ったし、多重起動でもう精気力なども少ない。
最低限の精気力だけで使える武技、直接体内に打ち込むタイプがベストだ。
「──“博命闘”!」
「がぁ、ぐっ、ごほっ……!」
「おりゃああああああ……げふっ!」
命を博い闘う、格闘術の武技“博命闘”。
格闘術で使える武技の中でも、最高峰の火力を誇る武技だが……対価が存在する。
名前の通り、一撃ごとに生命力を消費。
いかに命力耐性スキルを持っていようと、消費をゼロにすることはできない。
けどこれ、精気力の消費があんまり無いから使いやすいんだよな。
どんどん殴り続け、再生が追い付かない勢いで命が減っていき……やがて、尽きる。
「覚え、て、ろよ……」
「もういいよ、だからありがとう──あっちに行ってもそれを忘れないなら、もう一度相手をしてあげるよ」
死に戻りのエフェクトが男を包み、この場から消し去った。
俺はそんな彼に……感謝の念を籠める。
「よし、これでまた新しいスキルをゲットだね! 復讐心を抱かれて、それを撃退するとか面倒臭い条件だったから、もう諦めてたんだよねぇ……」
一時的に、畏怖嫌厭スキルをこっちでも使えるようにしておいてよかった。
過剰に悪感情を俺に覚え、その果てに復讐まで誓うとは……恐ろしいな、このスキル。
「フーラ、フーリ」
「「はい!」」
「見ててくれたんだね。それじゃあ、また三人で頑張ろうか。憂いも亡くなったし、しばらくは大丈夫だよ」
そんな会話をしながら、俺たちはコロシアムでの戦闘を続けることに。
……だがせっかくなので、あそこの様子を見に行っておこう。
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