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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と魔族前線基地 その04

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 決闘を経て、俺は魔族たちの隊長として君臨した。
 ……まあ、いろいろあって歯向かう者も現れないまま、無事に就任できたのだ。


「──ここが隊長の部屋か。うむ、なかなかで悪くは無いな」

「…………」

「どうした、前隊長・・・? せっかくくれてやった余生、それに不満でも?」

「……私は、死んでいるのか?」


 その理由こそ、前の隊長だ。
 少々青白くなったものの、相も変わらずイケメンフェイスでこちらを見ている。

 質問に馬鹿正直に答えるならば、その答えは──YESだ。
 だが、それではつまらない……今の演技に合わせた言い方にしないと。


「それは仮初の生。私が生きているからこそ前隊長も生きている。それは、妄執的に生を求めるアンデッドよりも、忠実な駒を創ることに必要なことだろう」

「……なるほど。つまり、私が私のままでいたいのであれば、貴様に忠実であらねばならないということか」

「その通りだよ。数々の兵たちを潰し、その地位に在り続けた実力……簡単に失うのは、少々惜しいと思っただけのこと」


 まあ、殺して蘇らせないと騎士も納得しなかったという理由が真実だけど。
 俺と騎士による会議の結果、折衷案として取ったのがこの半死半生であった。

 殺した後にアンデッドを使って体を動かして、生きているように振る舞わせている。
 とはいえ憑依は霊体のアンデッドによるもので、魂魄は元の隊長自身のものだ。

 ただまあ、俺の意に反する行動をすればその霊体アンデッドが暴れる。
 魂魄にもしっかりとダメージがいくので、基本的には抗うことはできないはずだ。


「逆らう駒であれば不要だが、有用であれば使う。これは戦において、ごくありふれた常識だろう? 私もいずれはネロマンテ様のように、多くの軍勢を引き連れるつもりだ。有用な人材は確保しておくべきだろう」

「……仮に私が死にたいと言っても、手放す気は無いのだろう?」

「当然だ。死にたいというのであれば、その魂魄を表に出すことは止める。死んでしまうと、スキルの質が下がるからな。貴様は討伐されるまで、未来永劫闇の中で眠るだけになる……それでもよいのか?」


 成仏させるのは面倒だし、やっていることがアイにバレるとな……ネロとアイのやり取りを思い出すと、なんとなく気まずくなりそうでつい隠してしまう。

 さすがのアイも、ネロが貯蔵しているアンデッドすべてに気づいているわけじゃない。
 ……一部は気づいているが、それでも隠せているネロも凄いよな。

 そして、そんなアンデッドの持ち主であるネロ曰く、魂魄は代用よりも本人のものを利用した方が劣化が少ないんだとか。

 ケアを怠ると発狂して壊れるらしいが、それはアンデッドに維持させればいいらしい。
 うんうん、ちゃんと気を使うことができる辺り、だいぶ試したんだろうなー(適当)。


 閑話休題マッドサイエンティスト


 死霊術師としての俺は、割と残虐非道っぽく振る舞わなくてはならない。
 だがそれは、事実と違おうと外聞的にそう思われればいいという話。

 自分の上司を殺し、こき使うという行いを他者はどう思うだろうか。
 一時は血による悦楽で満足するだろうが、やがて冷静になって認識を改めるはずだ。

 しかもその手駒は増えていくし、いつ自分に牙が向くか分からないわけだしな。
 ある意味生への冒涜をしており、考え方から狂っていると思われているんだろうな。


「……ガイスト、気づいているか?」

「うむ、分かっている──“死屍蒐集ゴーストコレクト”」

『──出番か』


 ぽっかり開いた闇の穴の中から、甲冑を装備した騎士が出てくる。
 前回と違い、今回は生身で現れた騎士は腰に提げた剣を抜く。

 わざわざ呼びだし、そして臨戦態勢を取らせている理由はシンプル。
 それをする相手が、もう間もなくこの場所に訪れるからであった。

 そのことには前隊長も気づいており、わざわざ諫言している。
 言ってくれるのは、優しさだろうか……それとも、他に何かあるのだろうか。


「まあいい。役に立つが良い、騎士よ」

「……了解した」

「ふむ、とはいえ何もしないというのも主として問題があるか──“闇幕ダークカーテン”」


 周りからこの後の展開が知られないようにするため、闇魔法を施しておく。
 これで諦めるなら、それはそれでいいんだが……まあ、無理だろうな。


「うむ、入ってきていいぞ」

「「「…………」」」

「前隊長、アレは?」

「いや、私も知らされていない。おそらく、貴様を警戒した上層部が手配したのだろう」


 魔族一人、人族二人で構成された暗殺者の部隊である。
 ただ、人族の方には首輪が付いており、それを見た騎士が軽く憤っていた。


「我が騎士よ、一つ言っておくことがある」

「……なんだ?」

「死を操る私には分かるぞ。従わされているとはいえ、奴らは殺しに頓着などいっさいしていない。誰の下で殺しを行うか、それが変わっただけのことよ」

「なるほど、理解した。魔族を屠る刃ではあるが、悪を屠る刃でもあることを見せよう」


 人族を守るといった考えを持つ騎士だが、さすがにすべての人族が対象ではない。
 暗殺者たちの経歴は、間違いなくロクでもないモノ……さて、どうしたものか。


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