415 / 2,515
偽善者なしの偽善者戦 七月目
偽善者なしの偽善者戦 その09
しおりを挟む「……あ、そういえばノイズが走るって言ってたな。多分、お前の考えている名前で合ってるから――ここでは口にしないでくれ」
「どう、して?」
間違いない、彼がメルスだ。
そう思った彼女だが、その発言を不思議に感じた。
メルスは結界の外側を指さすと、笑いながら理由を告げる。
「いや、他のプレイヤーに隠してるからさ。あんまりバレたくないんだよ」
「……うん、分かっ、た」
そういう理由ならば納得ができた。彼の正体を知る者は極めて少なく、一部のみを知る者にはただの厄災でしかない。
彼女はそう理解し、口を閉じた。
メルスはコホンッと咳を一度してから、彼女へと質問を行う。
「……さて、答えは見つかったか? あ、念話にしてくれて構わないぞ。ある程度見ていたから、使っていたのは分かる」
「(なら、そうさせて貰う。貴方は私に何かさせる気は無いのですね。自分がやりたいようにやっているだけ……それ以上でもそれ以下でも無い。まるで――子供みたいです)」
「子供ね~。そんなに精神年齢が低そうに見えるのかな? ……っと冗談冗談。まぁ、子供の基準をちょいと変えれば良いからそこら辺は置いておくよ。それで、君は俺の眷属を辞める?」
ヘラヘラとした表情を一変し、メルスは彼女へと問う。
体の弱い者ならばショック死してしまう程の威圧感が、メルスを中心に吹き荒れる。
彼女は一旦念話を解除して、自分の言葉で気持ちを伝える。
「い、いえ。私、にも、力、が必、要です。だ、から、私、はやり、続け、ます」
「……そっか。俺としては、眷属が眷属のままでいてくれるだけで、嬉しいことだよ。これからも、みんなと仲良くな」
「(は、はい……? って、体が……)」
その言葉に疑問を感じた彼女であったが、それ以上にメルスの変化が気になった。
――体が少しずつ薄れ、透明になっているのだ。
「ん? おっと、もう時間か。この体は一時的に創られた器であって、本体は今も運営に封印されてるからな。全くもう、俺なんかを封印する暇があるなら、主人公達を大切にしてやれって話だよな?」
「(どういうことですか?)」
「ナックルに渡しておいた水晶……それは俺の【晶魔法】で創られた俺の分身だ。使用することで、一時的に俺の分身が具現化して働く……ってことにしたかったんだがな。色々と問題があって、俺自身の魂だけがこっちに来て働くアイテムになったんだよ。今はそれの効き目が切れて、元の場所に戻るってワケなんだ」
「(問題?)」
「……まぁ、そこら辺は気にしなくて良いから。全部俺が悪いって話だ。
――さて、眷属の諸君。結界の外側で何を言っているかは分からないが、"断絶結界"を破らない限りは言葉は伝わらないぞ。念話も繋がらないから壊すしか方法は無い」
『………………!!』
「(そのままで良いんですか?)」
後ろを見てみると、自分と同じ状況下にあるプレイヤー達が集まっていた。
全員が色々なことを言ってそうな雰囲気なのだが……どうやらメルスの新たに張った結界の影響で、全く伝わっていない。
「どうせ来るのは罵詈雑言だけだよ。
ほら、怒鳴りつけるように攻撃をしてきてるだろう? 絶対、怒ってるだろ。だから、今は話さない。すぐに消えちゃうんだしさ」
実際、彼女達は武器や魔法を用いて結界への攻撃を始めていた。
しかし、彼女達はただ怒っている訳では無く、何かを伝えようと必死になっているように見える。
彼女は思う――どうして理解していないのだろうかと。
付き合いが短い彼女でも、メルスへと彼女達が向ける気持ちが分かると言うのに、メルスはそれに気付いていない。
……いや、違う。
気付いていないんじゃない。
気付いていないことにしているだけだ。この人は正の感情を受け入れられていない。
なんとなく――だがはっきりと、彼女はそう察する。
そのままの言葉で伝えても、恐らく何も答えてはくれない。
そういう風にしているのだから。なら……
「(貴方は……人を信じていますか?)」
「……急にそれを訊くか? ほら、今の俺、凄い感動的に消えるシーンだぞ?」
「教、えて、くださ、い」
外套の下から見える真剣な眼差しを見て、メルスは諦めたのか、やれやれといった仕草とため息を吐いた後、口を開く。
「――信じてないよ、これっぽっちも。
別にアイツらが悪いって訳じゃ無い。ただ俺が心の奥底で人を信用してないだけだ。
今はちょっとずつ改善されてるけど……それでも肝心の部分はまだまだ変わってない。
なぁ、信じるって一体なんなんだ? 信用するって――信頼するって一体なんなんだ?
俺にはそれが分からない。大切だと思えるからこそ、それは自分で守れば良い。周りの手では無く、自分自身で守るんだ。大切なものに――本当に重要なことは任せられない。
アッチのみんなは俺の事情を観ることはできるからあまり関わってこなかったけど……最近は結構迫って来るな。お前みたいに考えるようになったからか?」
最後は冗談のように、笑いながら話す。
……やっぱり、彼も同じなのかな?
それを聞いた彼女は、深く被っていた外套に手を付ける。
「(……私はこの見た目だから、いつも奇異の視線を受けていた)」
「おい、何を言って――」
そう言って彼女は、外套を外す。
メルスは慌てて結界を外側から内側が見えないように改変して、彼女の容姿がバレないようにする。
外套を外した彼女は――ふんわりとした綺麗な金髪と、左右異なる色をした瞳を晒し、メルスを見つめていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
494
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる