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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と感情共有

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夢現空間 生産室


 え? 秘湯での話?
 ――そんなの話す理由があるのか?
 ただただ湯に浸かって、会話をしていただけだったぞ。
 ……というか、偽装系のスキルも使えるからモザイクを体に掛けることもできるし、全世界共通の最強の存在である湯気様もいらっしゃるのだ。
 サービスシーンなんて存在……しなかったワケでもないのだが。
 眷属との、濃厚で濃密なあの日々に比べると……なあ。

 世界内の風呂に関してはインフラを大体既に整えてあったので、俺が本気で行いさえすれば直ぐにできた。

 少しずつ現代知識を国民たちに理解できる範囲内で教えてあったので、電力による加熱も可能である。
 <常駐魔法>で発電所擬きもできるし、【理学魔法】で世界の理を地球風に弄ることもできるしな。

 まぁ、そんなハイブリッドな技術を使い、一家庭に一つ風呂が配備できた。
 公衆風呂に関しては、最近手に入れたダンジョンコアをレンに頼んで入浴レジャー施設風に改造してもらったぞ。

 {夢現空間}の方はあくまで眷属か俺が認めた者しか入れないが、そっちなら子供から大人まで、誰もが楽しめる感じに改造できた。

 ……はっちゃけ過ぎて、効能とかが半端無くなってしまったのは、内緒だぞ。


「う~ん、良い出来だな」

『おっ、メルス。今日は一体何を作ってたんだよ』


 本日は、最近暇な時間に考え付いたアイデアを形に起こす作業を行っていた。
 いやー、最近は色々とあったからなー。
 裏バザーで売る商品も含め、沢山作った。

 そして、そうした作業を行っていると、転生TS黒森人であるカナタがやって来る。

 相も変わらず綺麗な褐色の肌を殆ど曝け出し、作り出したアイテムを覗き込んできた。

 ……例え男であろうとも、こいつが何を考えていようともその暴力的な可愛らしさは変わらないワケなので、少しだけビックリしてしまう。


「……とりあえず、視てみるか? 現在進行形で見ているが」

『お前のアイテムって、DPで買う最高級品よりも効果があるから凄いよな。うちの魔物に生産をやらせても、そんな風にならないんだけどな』

「そりゃあ加護を貰ってるからな。そうでも無ければ、俺は技術も何も持たないただのモブ生産職だよ。それなら多分、今もE階級のポーションぐらいしか作れないと思うぞ」


 実際、俺は波縫いもできないような不器用さの持ち主である。
 例えどれだけBPで能力値内のDEXを上げようとも、ただの凡人のままでは何もできず才能の限界に直ぐに達したであろう。
 能力値を向上させるという行為は、あくまでプレイヤーの器の性能を向上させるに過ぎないのである。

 ――補正は補正であり、実力では無い。

 どれだけそれを振るおうと、それは自分自身の何らかの行動の結果では無く――ただただ道具によって引き起こされた必然である。

 ……ここまで言ってなんだが、俺の意見ってコロコロ変わる気がするな。
 まぁ、人間二十歳までなら考え方を変えられるって言うしな。
 まだまだ高校生だし、(不老)で年齢は停止している。
 恐らくいつまでも、俺の考え方は【矛盾】することになるだろう。


 狂人? いいえ、偽善者です。
 一つの考え方に囚われていては、自分の本当にやりたいことに手が届くワケが無いじゃないか。
 そもそも俺が家族を、認めてくれる者を欲しかったということは事実なのだが、そこからハーレムに派生するかどうかだって俺の人生から生み出された答えの一つでしかない。
 ……うぷっ、これ以上を考えるのは気持ち悪いな。

 というか、今の俺は生産の話をしていたのに、どうして人生の話にまでスケールアップしているんだろうか。話を戻さないとな。

 丁度カナタがツッコミを入れてるし――


『……お前、自分のこと卑下し過ぎじゃないか? 加護があったって、それを使わないようにする奴だっているだろ? そうやって力から目を逸らそうとする奴よりは、お前は充分立派だよ』

「いや、そういうのってさ、なんか代償付きとか忌み嫌われる力系じゃん。俺のはただただ便利なだけだろ。カナタが持ってたら、俺よりきっとうまく使えてただろうよ」

『……いや、俺だって一応加護は持ってるけどよ、そんなお前みたいにTueeeって思えるようなことは無いぞ。大体メルスって、訓練とかだって欠かさずやってるんだろ? チートに胡坐を掻く奴だっているんだし、その便利な加護でもしっかりと性能を引き出しているんだ。自信を持てよ』


 やれやれ、いつもみんな俺のネガティブ発言に付き合ってくれるよな。
 偶にそうして謝罪の念をほんの少しでも放とうとすると、それに気付いてお説教に入るから、あんまり考えないようにしているけどな(隠蔽している筈なんだけど……)。


 ――しかし、この現象が[眷軍強化]によって引き起こされるものであり、そのスキルの誕生に俺の心の有り様が関わっているとなると……少々罪悪感がな。

 {感情}と[眷軍強化]の相乗効果――経験値の共有的なものは勿論、感情のリンクも含まれているらしい。
 ……リオンから{感情}について、最初に聞いた時以上のビックリだったよ。


「まぁまぁ、自信はともかくとりあえず作った物を視てくれよ。結構面白い効果を持ってるのもあるぞ」

『……また、話を逸らされたな(ボソッ)』


 何か言った気がするが、今はカナタにベストセレクションを紹介する方が先だな。

 今日はそんな生産と紹介だけで、一日は終了していった。


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