TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK

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第107話 ダッシュ!

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 桜の切り替えという言葉に嘘偽りはなかった。
 衣替えで楽しんだ様子の後、実行委員を決める時がやってくるなり、最初に手を挙げたのが桜だった。
「今度も秋元を推薦するのか」
 などと冗談を言われ、クラスの中から笑いが起こったが、はっきりと、
「いえ、あたしが立候補します」
 というように、意思を表明すると、皆が笑うのをやめていた。
 一応なのか確認された楓も、もちろん異論などあるはずもなく、結局のところ、実行委員は文化祭の時に引き続き、桜と歓太郎の二人に決まったのだった。
 楓としては、遊び相手の性別に衝撃を受けたということだったが、話を聞くのと実際に体験するのとでは大きく違うのだろう。桜のやる気がひしひしと感じられた。
 いや、今目の前でひしひしと感じていた。
「特訓だよ!」
 と言って桜に集められた三人。楓、向日葵、椿はジャージ姿で桜の前に立っていた。
 単に運動の秋ということで集められた訳ではなく、体育祭で勝つための基礎体力作りだという。数人のチームに分かれ特訓を行い、クラス全員の能力アップを図る目的らしい。
 最初は簡単に女子全員、ましてや男子も含めたクラスメイト全員も集められそう桜が、珍しくいつものメンバーしか集められなかったのかと考えたが、そうではなく元から少人数制ということだった。
 一つのチームは、だいたい半分くらいずつに、実力の高低が組み合わさるようになっているらしかった。
「僕達は誰が高くて、誰が低いってことなの?」
 疑問に思って楓が口に出すと、桜は、
「高い、高い」
 と言いながら向日葵と自分のことを指さし、
「低い、低い」
 と言いながら楓と椿を指さした。
「そもそも楓たんは、普段から疲れた疲れたって言ってるからね」
 ニヤニヤ笑いを浮かべながら桜は付け加えた。
 異性に囲まれてたら誰だってそうだろ。とは言えない楓だった。代わりに、
「桜って運動得意だったの?」
 と聞いた。
「だから備えてるって言ったでしょ?」
「あれは衣替えのことじゃなかったの?」
「あの時はそう言ったけど、日常的に女の子を追うのに体力は必要でしょ」
 えっへんと胸を張りながら、桜は言ってのけた。急に追われたら怖いだろうと思ったが、不純な理由でも体力があることに変わりはない。相当自信があるのだろう。
 逆に、楓自身は低いと明確に言われるほど、運動に自信がない訳ではなかったが、基本的に普通。今回は下位の方に分類されてしまったことも簡単に受け入れられた。
 そして向日葵は、どんな運動をやらせてもピカイチだ。
 だが、
「椿は別に運動下手じゃないと思うけど」
「まあね。でも、あたし達のチームでは引く方だよ。楓たんにしてもそうだけど、二人ともインドア派でしょ?」
「そうだけど」
「否定はしないわ」
 桜の問いに楓も椿も素直に頷いた。
「ってなったら、どちらかと言えば運動能力は低い方だよ。それに、楓たんは最近ぷにぷにになってきたしね」
「……!」
 気づくと背後に回り、腕と腹回りを摘み出した桜に、楓は目を丸くした。同時に振り払うようにしながら、右足を一歩後ずさった。
「ま、待とうか。体重はそんなに変わってないはずだよ。見た目もそこまで変わってないはずだし」
「でも、肉付きはよくなったでしょ?」
「そ、そうだね」
 震える声でも楓が認めたことで、納得したように桜は首を縦に振った。
「別に責めようってんじゃないから安心して。運動ついでにスマートボディーを手に入れよう!」
 ガッツポーズで励ましてくる桜。
 元からどういうわけか、寒くなると体重が増えるタイプだった。理由は知らない。転生してもそれが受け継がれているだけだった。ぷにぷにになるほど変わったかというと、そんなつもりはなかったが、よっぽどこの間の実世の方が、筋肉はありそうだった。
 運動量を特別減らしたわけでも、食事量が増えたわけでもなかった。だが、体重計の数字は前より増していた。
 相変わらずの情報の早さ。
「ダイエット手伝おうか?」
 という向日葵のささやきに楓は静かに頷いた。
「じゃ、これメニューね」
 と言って桜から手渡されたのは四つ折りの紙。
 パラパラと開くと、中には手書きの文字で運動内容が書かれてあった。
 集合場所に来た時から嫌な予感のしていた楓だったが、書かれていた内容によるとそれが的中した形となった。
「あの、桜? これはなんでもキツイんじゃない?」
「大丈夫だよ。不安かもしれないけど、やればすぐに終わるから。それに、体力がなかったら、競技をやり切ることもできないわけだしね。ダンスとか踊りきれないよ?」
「ダンス……」
 楓にとってほとんど未知の領域。そういえばそんなものもあったな、と思いながら、楓は再びメニューに目を落とした。
 初日だからか、階段ダッシュ十本というものだけだった。だけだった。回数は少ないが、楓の目の前にある階段は見たかぎり、体力がある人間でなければ一息に登りきれなさそうな段数だった。
 どこにでも、体力トレーニングに使えそうなものはあるんだなと感心しながら、楓は向日葵に顔を向けた。
「向日葵は余裕なんだろうね」
「うん。なんか今のままでも大丈夫みたいだし、応援頑張るよ」
 向日葵の手の中に収められたメニュー表には、フリーと書かれていた。楓はそうだろうなという思いで、ただ紙を見つめていた。

 ミニチーム。桜と約束し隊は、さらに桜、椿チームと向日葵、楓チームに分かれて、階段ダッシュを始めた。
 言い出しっぺだけあり、桜自身も階段を駆け上がっていた。
 偉いというか、真面目というか、自分で決めているのだから甘くなりそうなところで頑張る姿勢が、なんだかんだで普段の姿とギャップになって、余計にかっこよく見えるのだろうな、と思いながら楓は桜から視線を外し、空を見上げた。
 今日は絶好の運動日和である。
 子供がはしゃぎ回るように、簡単に階段を登り終える向日葵。真面目に回数をこなす椿。
 三人を見ている楓はというと、三回を終えたところで、疲れ果てぜえぜえと肩で呼吸していた。
 元から体力はそこまである方ではなかった。引きこもりというほどではないが、運動量は少なかった。
 とはいえ、長距離走でビリになることなどなく、他のことと変わらず真ん中辺りだった。もし違うところがあるとすれば、やり慣れていない分、負荷が大きいということだった。
「走り終えて座り込むと心臓に悪いよ」
 向日葵の忠告にコクコクと首を縦に動かすも、今の楓にはそれが限界だった。
 もう少し動けるかと思っていただけに、今の自分に絶望していた。
 しかし、楓の肉体の調子を見抜いた桜の観察眼は本物のはずだ。十回というのは、何もテキトーに決められた数値ではなく、楓ならできると見込んでつけられた数字のはずだ。
 約束した以上、楓も桜の期待には応えたかったが、気持ちが先行して体が動かなかった。
 先ほどから全く足に力が入らず立てないでいた。
 ちょいちょいと手招きして、向日葵を呼び寄せ、肩を借りてなんとか立ち上がったほどだった。
「大丈夫? 無理にこなす必要はないんじゃない?」
 心配そうな声で言う向日葵に楓はゆっくりと首を横に振った。
 やっと少し呼吸が落ち着いてきたことで楓は口を開いた。
「確かに、やりたくないようなことは言ったけど、やらないとは言ってないからね。ここはやっておかないとかっこがつかないでしょ」
 ハアハアと息を切らしながら、楓は言葉を紡ぎ出した。
「それに、見た目は変わっても、いや、前以上に、前できなかったからこそ、女の子にかっこいいところは見せたいからね。向日葵だってやりきった僕の方が、やれなかった僕よりいいでしょ?」
「うん」
 向日葵の頷きを見ると、楓は向日葵の肩から腕を外し、階段を降りるため駆け足で階段まで近づいた。あと七本。始めたらすぐ終わるなんて言っていたが、とんでもない。だが、諦めない。
 意気込んで、楓は一歩また一歩と階段を降りた。

 何度見ても下から見上げる階段は高かった。
 フリーというだけあり、向日葵は少しでも精神的な負担を減らそうと、先導するように先を走ってくれた。一人じゃないと思えるだけでも、途中でへばってしまった楓は、また一本やろうという気になれたが、追いかける方がラクということもあった。。
 いつの間にか終えたのか、椿も桜も階段を登り終えたところで息を上げていた。向日葵は誰よりも走っているはずだが息を切らしていない。
 終えていないのは自分だけ。だが、変に気負うようなこともなかった。
「うおおおおお」
 気勢を上げ、腕を振り、楓は足を上げた。
 途中から気づくと前よりもラクになっている自分に気づいていた。慣れたのか、それともハイになっているのかわからなかったが、勢いのまま楓は九回を終え、そして今、十回目を走り終えた。
 体の動きに意識を向けていると、気づいた時には登り切り、膝から崩れ落ちていた。体に悪いとわかっても、終えたとわかると、それ以上立っている気力を失ってしまった。
 だが、悪い気分ではなかった。与えられた課題をやりきった達成感で、自然と笑みがこぼれた。
 息は切れ切れだが、これもまた諦めなかった証だと思うと、どこか誇らしささえ感じられた。
「お疲れ様」
 と頬が急激に冷やされ、思わず飛び上がりそうになってから、いたずらっぽい笑みを浮かべた向日葵が視界に入った。
 楓は頬に当てられたペットボトルをひったくるように受け取ると、すぐにキャップを外し、全て流し込む勢いで口の中に入れた。
 少し口からあふれ、頬を伝う分を袖で拭ってから、
「ありがとう」
 と言った。楓はその言葉を今までで一番爽やかに言えた気がした。
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