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第44話 食べたかったあのパンを
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しっかりした感じのお食事は日々一緒にさせてもらっているけれど、外で姫様と食事ってしていいのだろうか。
しかも、二人だけで。
よく考えたら、あまりよろしくないのでは……?
「リストーマ様、姫様をよろしくお願いします」
「は、はい! セスティーナのことは僕が守ります」
「ふふっ。大丈夫ですよ。街の皆さんは優しいですから」
「ですが、万一のこともあります。気をつけてください」
「そんな時は、リストーマ様が守ってくださりますからね」
「それもそうですね。リストーマ様がいれば安心です」
「あ、ありがとうございます」
こればっかりは僕の本職。
命をかけてでもお守りするのみだ。
とはいえ、ヴァレンティ王国の城下町は治安がいいらしく、今回の外出も誰にも止められることはなかった。
実際、治安のよさは街を歩くだけでも感じている。
僕のように、捨てられている子もいなければ、親からご飯をもらえないような子もここにはいない。
外にはいるのだろうけど、そのことに対しても、できることをやろうとしているらしい。
そう考えると、姫様に情けで拾われたようなものの僕は、やはり、この身に代えても姫様をお守りしなくては。
「難しい顔をしていますが大丈夫ですよ。お勉強と言っても、難しいことではない、と思います」
「えっと、思います?」
「あの、恥ずかしながら、私も基本的にお城の中でしか生活したことがないので、お金を使うときの実感がないのです」
……。
そういえばそうだ。
以前姫様と歩いた時も、街の様子は伝え聞いたことばかりといった様子だった。
けど、それも仕方ない。
今日はこうして社会勉強に出ているけども、普段は様々なことの勉強に時間を費やしている。
お金を直に触る機会なんてなさそうだ。
「フロニアさんから聞いた事前の話だと、これがこの国で流通している、貨幣なんでしたっけ」
「そうです。と言っても、私もこの色のものは今日初めてみました」
「確か、銅、銀、金、と」
「ミスリルですね」
「あの。別の種類を試したときの」
「はい。私は金とミスリルしか知らなかったもので……」
僕は最近になってようやく知ったから姫様と状況は同じだ。
小さい頃はどれも触らせてもらっていなかったから、貨幣というものをよく知らなかったけど……。
「つまるところ、色々なものと交換ができるということでしたね」
「そうです。なので、あ、あの店です!」
「はい!」
約束のパン屋さん。
匂いにつられて自然と足が向いていた。
僕もこのお店の方には借りがある。
今日の分で返せるといいけど。
「おや、いらっしゃ……。おお、あんたかい! 久しぶりだね。お金は稼げたのかい?」
「はい! お金を持って来ました」
「ちょっと待ってな」
お金を稼いできたのに、お店の人引っ込んじゃった。
「なんですかね?」
「さすがに私もわからないです。一つ一つのお店がどのようにしているかまでは、頭に入っていないもので」
「そうですよね」
どうしたんだろうと待っていると、特に変わった様子もなく、再びお店の人が出てきた。
「待たせたね。さ、中へお入り、ここで食っていくといいさ。祝いだ」
「え、お祝いなんですか?」
「……。あぁ。たっはっはっは!」
「……?」
え、本当にこの人はどうして笑っているんだろう。
何か面白いことでもあったかな?
「あんた。面白いね」
「え!? 本当に僕が面白いんですか?」
「いやね、話し方がさ。世間をまるで知らないみたいだから面白いんだよ。あんたが稼いできたから祝うってなったら、あんたの祝いに決まってるだろ?」
「僕のですか!?」
「そうだよ。他に何があるってんだい。ほっとんどのやつが稼いでも戻ってこないってのに、こんなところまで稼いで戻ってきてくれたんだ。嬉しくて仕方がないんだよ。それに、かわいい子まで連れてきてくれちゃってさ」
「か、かわいいなんて、そんな……」
「かわいいと言われて照れるようなかわいらしい子。この辺じゃいないだろう。よく見つけたね。ほら、入ってゆっくりしてきな。ごちそうしてやるよ」
思わず、姫様と顔を見合わせる。
僕たちはおばさんの純粋な優しさに、自然と頭を下げていた。
「「ありがとうございます!」」
お店に入ると、店の前まで香っていたパンの匂いが店中に立ち込めていた。
「とうとう食べられるんですね!」
「そんなに楽しみにしてくれてたのかい。ありがたいね。さ、たーんと食べてくれよ」
「……お金はあります。食べましょう!」
「はい!」
目をかがやかせ、今すぐにでも食べたそうにしている。
姫様、かわいらしい。
「「いただきます!」」
前にもらったパンもシンプルで美味しかったけど、今日食べるのは格別に美味しい。
姫様と一緒だからか、なんだか上品な感じがする。
それに、パンに囲まれているせいか、なんだか前回とはまったく違う感じだ。
「あれ、これって……」
「気づいたかい? 前回食べたのは、本来、ジャムをつけて食べるんだけどね、そうする前に食べちまったからさ。そういったジャムがついてるパンの方がうまいだろう?」
「僕は前のも好きですけど、これも美味しいです」
「ありがたいことを言ってくれるねえ!」
姫様も手でちぎって、一切れずつ口に運んで食べている。
ゆっくりと味わうようにしながら、嬉しそうに目を見開いている。
「そっちのお嬢さんはずいぶん育ちがいいんだねぇ」
「そ、それなりに……」
「ははっ。この辺じゃそんな食べ方するやつは見たことないよ。勉強になるねぇ」
「そんな。私の方が勉強させていただく方です」
「そうかい? ま、学びになるんなら、じゃんじゃん学んでってくれよ」
「……いい人ですね」
「……はい」
街にこんな世界が広がっているなんて知らなかった。
美味しいご飯、優しい人。
いつものお城でのご飯も美味しいけど、なんだろう、これはこれで心が温まるというか。
「美味しいですねリストーマ様。街の皆さんは普段このようなものを食べているのですね」
「そうですね。セスティーナが美味しそうに食べていて、僕も嬉しいです」
「あ、その、これは美味しくてついつい食べ進めてしまうだけで、そこまでたくさんいただこうとはしてないですからね。普段からいっぱい食べてるわけではありませんし」
「大丈夫ですよ。わかってますから」
「うぅ……」
見かけによらずいっぱい食べる姫様が好きだ。
しかも、二人だけで。
よく考えたら、あまりよろしくないのでは……?
「リストーマ様、姫様をよろしくお願いします」
「は、はい! セスティーナのことは僕が守ります」
「ふふっ。大丈夫ですよ。街の皆さんは優しいですから」
「ですが、万一のこともあります。気をつけてください」
「そんな時は、リストーマ様が守ってくださりますからね」
「それもそうですね。リストーマ様がいれば安心です」
「あ、ありがとうございます」
こればっかりは僕の本職。
命をかけてでもお守りするのみだ。
とはいえ、ヴァレンティ王国の城下町は治安がいいらしく、今回の外出も誰にも止められることはなかった。
実際、治安のよさは街を歩くだけでも感じている。
僕のように、捨てられている子もいなければ、親からご飯をもらえないような子もここにはいない。
外にはいるのだろうけど、そのことに対しても、できることをやろうとしているらしい。
そう考えると、姫様に情けで拾われたようなものの僕は、やはり、この身に代えても姫様をお守りしなくては。
「難しい顔をしていますが大丈夫ですよ。お勉強と言っても、難しいことではない、と思います」
「えっと、思います?」
「あの、恥ずかしながら、私も基本的にお城の中でしか生活したことがないので、お金を使うときの実感がないのです」
……。
そういえばそうだ。
以前姫様と歩いた時も、街の様子は伝え聞いたことばかりといった様子だった。
けど、それも仕方ない。
今日はこうして社会勉強に出ているけども、普段は様々なことの勉強に時間を費やしている。
お金を直に触る機会なんてなさそうだ。
「フロニアさんから聞いた事前の話だと、これがこの国で流通している、貨幣なんでしたっけ」
「そうです。と言っても、私もこの色のものは今日初めてみました」
「確か、銅、銀、金、と」
「ミスリルですね」
「あの。別の種類を試したときの」
「はい。私は金とミスリルしか知らなかったもので……」
僕は最近になってようやく知ったから姫様と状況は同じだ。
小さい頃はどれも触らせてもらっていなかったから、貨幣というものをよく知らなかったけど……。
「つまるところ、色々なものと交換ができるということでしたね」
「そうです。なので、あ、あの店です!」
「はい!」
約束のパン屋さん。
匂いにつられて自然と足が向いていた。
僕もこのお店の方には借りがある。
今日の分で返せるといいけど。
「おや、いらっしゃ……。おお、あんたかい! 久しぶりだね。お金は稼げたのかい?」
「はい! お金を持って来ました」
「ちょっと待ってな」
お金を稼いできたのに、お店の人引っ込んじゃった。
「なんですかね?」
「さすがに私もわからないです。一つ一つのお店がどのようにしているかまでは、頭に入っていないもので」
「そうですよね」
どうしたんだろうと待っていると、特に変わった様子もなく、再びお店の人が出てきた。
「待たせたね。さ、中へお入り、ここで食っていくといいさ。祝いだ」
「え、お祝いなんですか?」
「……。あぁ。たっはっはっは!」
「……?」
え、本当にこの人はどうして笑っているんだろう。
何か面白いことでもあったかな?
「あんた。面白いね」
「え!? 本当に僕が面白いんですか?」
「いやね、話し方がさ。世間をまるで知らないみたいだから面白いんだよ。あんたが稼いできたから祝うってなったら、あんたの祝いに決まってるだろ?」
「僕のですか!?」
「そうだよ。他に何があるってんだい。ほっとんどのやつが稼いでも戻ってこないってのに、こんなところまで稼いで戻ってきてくれたんだ。嬉しくて仕方がないんだよ。それに、かわいい子まで連れてきてくれちゃってさ」
「か、かわいいなんて、そんな……」
「かわいいと言われて照れるようなかわいらしい子。この辺じゃいないだろう。よく見つけたね。ほら、入ってゆっくりしてきな。ごちそうしてやるよ」
思わず、姫様と顔を見合わせる。
僕たちはおばさんの純粋な優しさに、自然と頭を下げていた。
「「ありがとうございます!」」
お店に入ると、店の前まで香っていたパンの匂いが店中に立ち込めていた。
「とうとう食べられるんですね!」
「そんなに楽しみにしてくれてたのかい。ありがたいね。さ、たーんと食べてくれよ」
「……お金はあります。食べましょう!」
「はい!」
目をかがやかせ、今すぐにでも食べたそうにしている。
姫様、かわいらしい。
「「いただきます!」」
前にもらったパンもシンプルで美味しかったけど、今日食べるのは格別に美味しい。
姫様と一緒だからか、なんだか上品な感じがする。
それに、パンに囲まれているせいか、なんだか前回とはまったく違う感じだ。
「あれ、これって……」
「気づいたかい? 前回食べたのは、本来、ジャムをつけて食べるんだけどね、そうする前に食べちまったからさ。そういったジャムがついてるパンの方がうまいだろう?」
「僕は前のも好きですけど、これも美味しいです」
「ありがたいことを言ってくれるねえ!」
姫様も手でちぎって、一切れずつ口に運んで食べている。
ゆっくりと味わうようにしながら、嬉しそうに目を見開いている。
「そっちのお嬢さんはずいぶん育ちがいいんだねぇ」
「そ、それなりに……」
「ははっ。この辺じゃそんな食べ方するやつは見たことないよ。勉強になるねぇ」
「そんな。私の方が勉強させていただく方です」
「そうかい? ま、学びになるんなら、じゃんじゃん学んでってくれよ」
「……いい人ですね」
「……はい」
街にこんな世界が広がっているなんて知らなかった。
美味しいご飯、優しい人。
いつものお城でのご飯も美味しいけど、なんだろう、これはこれで心が温まるというか。
「美味しいですねリストーマ様。街の皆さんは普段このようなものを食べているのですね」
「そうですね。セスティーナが美味しそうに食べていて、僕も嬉しいです」
「あ、その、これは美味しくてついつい食べ進めてしまうだけで、そこまでたくさんいただこうとはしてないですからね。普段からいっぱい食べてるわけではありませんし」
「大丈夫ですよ。わかってますから」
「うぅ……」
見かけによらずいっぱい食べる姫様が好きだ。
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