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第一章 勇者パーティ崩壊
第1話 君とは今日、ここでお別れだ
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「カイセイ・アークランド。君とは今日、ここでお別れだ」
ダンジョンの奥深く、勇者であるバドラ・カリバーは急に、俺を説得するようにそう言った。
真剣な表情を見ると、どうやら嘘で言っているわけではないらしい。
しかし、何だって? ここでお別れ?
「え、どういうこと?」
思わず聞き返す俺に、バドンは困ったような笑みを浮かべた。
勇者の血筋を引くと言われ、本人も勇者であるバドンの普段は見ない表情だ。
そんな、勇者を困らせた俺に対し、隣でわざとらしげにため息をついたのは、魔法使いのマジュナ・アルビナだ。
バドンの出身地、一番の魔力を有するとされる彼女は俺にキツイ視線を向けてくる。
「そんなこともわからないの? せっかくバドン様が言葉を選んでくださっているのに、理解が悪いと直接的な物言いでしか状況を把握できないのね」
「仕方のないことです。彼はこれまで自分のサポートの腕を上げることしか考えてこなかったのですから」
聖女のヒルギス・ローラーまで厳しいことを言ってくる。
普段、誰にでも優しく慈愛に満ちていて、その性格と同じようにパーティ全体に加護をもたらす彼女だが、今日はどことなくいら立っているように見える。
俺、もっとみんなと仲良くできてたと思ってたんだけどな。
ショックを受けるも、よくわからないままクビにされるのは嫌だ。
「さすがに俺がクビにされたってことくらいはわかるさ。でも、なんでここでそんな話をする必要があるのさ」
俺の疑問ももっともだと思う。
今、俺たちがいるのは世界最難関と言われるダンジョンの奥深く。
前人未到の47層だった。
ここでは、誰もたどり着いたことがないだけあり、事前情報がなく、少しの油断が命取りになるような場所だった。
そんなところで俺のクビを宣告するなど、一体何を考えているのか。
「ここじゃなきゃダメだったんだ」
「は?」
「ガハハ。サポーターにはわからんだろうな。勇者パーティのメンバーがどういう道を歩むことになるのか」
豪快に笑っているのは戦士のガードン・ベルベモット。
基本的に大らかだが、戦いになれば誰よりも頼りになる巨漢。
しかし、こんなところで大声を出せばモンスターに見つかってしまうんじゃないのか。
「ふ、普通にやめればいいんじゃないの?」
恐怖で思わず声が震えるも、俺だけ逃げればそれこそ助からない。
「そういうわけにはいかないんだよ」
「バドン様の言う通りです。一度勇者パーティに加わった者の道は主に二つです。勇者により真の実力を見出され、勇者と共に進むか、他の者を支援するか」
「俺の真の実力?」
でも俺ができるのは、近くの空気を湿らせて相手の体調を崩したり、天候を的中させて有利な状況で戦えるようにしたりするくらいだ。
やってきたことは他にも炊事、洗濯、道案内にテントの設営など、地味だが必要なことだったはずだ。
思わず期待の眼差しを向けるも、バドンは首を横に振っていた。
「君はダメだ。何の力もなかった。物理攻撃も攻撃魔法も、ましてや回復魔法も使えない。何の適性もなかった」
「そんな……」
「唯一使えたのは地味なサポート魔法だけだしね。そんな無能はあたしたち勇者パーティには必要ないの」
「だからってここでクビだって言う必要はないんじゃ」
「さっき、ヒルギスが言ってたでしょ? 勇者パーティに加わった者には道があるって」
「一緒がダメなら、他の人を支援すればいいんだろ?」
「残念だが、君にそれは任せられない」
肩に手を置き、バドンはまたも首を横に振りながら言った。
「どうして?」
「言ったでしょ。あんたにできるのは地味なサポート魔法だけだって。そんなので他の人の支援をされたら、この程度しか育てられなかったのに俺たちのとこに連れてきたのかってあたしたちの評判が落ちるでしょ?」
「名声の方が重要なのか?」
「名声があれば自由にできることが増えるからな」
楽しそうに笑うガードン。
他のみんなもそれ以上何も言わないが、きっと似たようなことを考えているのだろう。
なんだか、勇者パーティのメッキが剥がれ落ちた気分だ。
俺がサポートしてきた人たちはこんな人だったのか。
「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ」
「言ってない最後の道があるのよ」
「最後の道?」
「そう。それは」
ヒルギスが言いかけたところで、この世のものとは思えない、言語化できない叫びが聞こえてきた。
「大きい声で話してるから気づかれたんじゃ」
「これでいいのさ」
いつもガサツなガードンはそんな呑気なことを言っている。
「どうして?」
俺の質問に口を開いたのは勇者バドンだった。
「これが、最後の道だからだ」
「は?」
「まだわからないの? 勇者パーティを抜ける最後の道は死しかないってこと」
「何でそうなるんだよ」
「最難関ダンジョンの前人未到の階層で強敵と遭遇。奮戦するもパーティメンバーのうち一人が死亡。残りのメンバーは命からがら帰還した」
「何も起きてないのに?」
「これから起こることなのですよ」
ヒルギスが言った。
それはもはや、俺に対する死の宣告と言って差し支えなかった。近づいてくる音を聞けば、ただの作り話とは思えない。
そうこうしている間にも唸り声はぐんぐんと近づいてくる。
「なあ、せめて今来てるやつはどうにかするんだろ?」
全員黙って俺の言葉に首を横に振った。
「そんなことしたら、俺だけじゃなく全員が無事で済まないじゃないか」
「カイセイがそう思うなら、そうなんだろうな」
バドンが投げやりな雰囲気でそんなことを言った。
「どうするんだ?」
「……」
俺の言葉に答えず、バドンが歩き出す。
パーティメンバーもそれにつられるようにして歩き出す。
唸る声の近づく声の方へと曲がり角の方へと歩いていく。
「ま、待ってくれ!」
俺は慌てて走り出した。
俺のサポートがあれば、多少は戦えるかもしれない。
いくらクビにするとは言え、俺が勝手に力を貸すぐらいなら問題ないだろう。
それに。
「う、嘘。だろ……」
角を曲がった時、そこにいたのは闇がモンスターの形をしているような真っ黒いただただ大きな悪魔だけだった。
ダンジョンの奥深く、勇者であるバドラ・カリバーは急に、俺を説得するようにそう言った。
真剣な表情を見ると、どうやら嘘で言っているわけではないらしい。
しかし、何だって? ここでお別れ?
「え、どういうこと?」
思わず聞き返す俺に、バドンは困ったような笑みを浮かべた。
勇者の血筋を引くと言われ、本人も勇者であるバドンの普段は見ない表情だ。
そんな、勇者を困らせた俺に対し、隣でわざとらしげにため息をついたのは、魔法使いのマジュナ・アルビナだ。
バドンの出身地、一番の魔力を有するとされる彼女は俺にキツイ視線を向けてくる。
「そんなこともわからないの? せっかくバドン様が言葉を選んでくださっているのに、理解が悪いと直接的な物言いでしか状況を把握できないのね」
「仕方のないことです。彼はこれまで自分のサポートの腕を上げることしか考えてこなかったのですから」
聖女のヒルギス・ローラーまで厳しいことを言ってくる。
普段、誰にでも優しく慈愛に満ちていて、その性格と同じようにパーティ全体に加護をもたらす彼女だが、今日はどことなくいら立っているように見える。
俺、もっとみんなと仲良くできてたと思ってたんだけどな。
ショックを受けるも、よくわからないままクビにされるのは嫌だ。
「さすがに俺がクビにされたってことくらいはわかるさ。でも、なんでここでそんな話をする必要があるのさ」
俺の疑問ももっともだと思う。
今、俺たちがいるのは世界最難関と言われるダンジョンの奥深く。
前人未到の47層だった。
ここでは、誰もたどり着いたことがないだけあり、事前情報がなく、少しの油断が命取りになるような場所だった。
そんなところで俺のクビを宣告するなど、一体何を考えているのか。
「ここじゃなきゃダメだったんだ」
「は?」
「ガハハ。サポーターにはわからんだろうな。勇者パーティのメンバーがどういう道を歩むことになるのか」
豪快に笑っているのは戦士のガードン・ベルベモット。
基本的に大らかだが、戦いになれば誰よりも頼りになる巨漢。
しかし、こんなところで大声を出せばモンスターに見つかってしまうんじゃないのか。
「ふ、普通にやめればいいんじゃないの?」
恐怖で思わず声が震えるも、俺だけ逃げればそれこそ助からない。
「そういうわけにはいかないんだよ」
「バドン様の言う通りです。一度勇者パーティに加わった者の道は主に二つです。勇者により真の実力を見出され、勇者と共に進むか、他の者を支援するか」
「俺の真の実力?」
でも俺ができるのは、近くの空気を湿らせて相手の体調を崩したり、天候を的中させて有利な状況で戦えるようにしたりするくらいだ。
やってきたことは他にも炊事、洗濯、道案内にテントの設営など、地味だが必要なことだったはずだ。
思わず期待の眼差しを向けるも、バドンは首を横に振っていた。
「君はダメだ。何の力もなかった。物理攻撃も攻撃魔法も、ましてや回復魔法も使えない。何の適性もなかった」
「そんな……」
「唯一使えたのは地味なサポート魔法だけだしね。そんな無能はあたしたち勇者パーティには必要ないの」
「だからってここでクビだって言う必要はないんじゃ」
「さっき、ヒルギスが言ってたでしょ? 勇者パーティに加わった者には道があるって」
「一緒がダメなら、他の人を支援すればいいんだろ?」
「残念だが、君にそれは任せられない」
肩に手を置き、バドンはまたも首を横に振りながら言った。
「どうして?」
「言ったでしょ。あんたにできるのは地味なサポート魔法だけだって。そんなので他の人の支援をされたら、この程度しか育てられなかったのに俺たちのとこに連れてきたのかってあたしたちの評判が落ちるでしょ?」
「名声の方が重要なのか?」
「名声があれば自由にできることが増えるからな」
楽しそうに笑うガードン。
他のみんなもそれ以上何も言わないが、きっと似たようなことを考えているのだろう。
なんだか、勇者パーティのメッキが剥がれ落ちた気分だ。
俺がサポートしてきた人たちはこんな人だったのか。
「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ」
「言ってない最後の道があるのよ」
「最後の道?」
「そう。それは」
ヒルギスが言いかけたところで、この世のものとは思えない、言語化できない叫びが聞こえてきた。
「大きい声で話してるから気づかれたんじゃ」
「これでいいのさ」
いつもガサツなガードンはそんな呑気なことを言っている。
「どうして?」
俺の質問に口を開いたのは勇者バドンだった。
「これが、最後の道だからだ」
「は?」
「まだわからないの? 勇者パーティを抜ける最後の道は死しかないってこと」
「何でそうなるんだよ」
「最難関ダンジョンの前人未到の階層で強敵と遭遇。奮戦するもパーティメンバーのうち一人が死亡。残りのメンバーは命からがら帰還した」
「何も起きてないのに?」
「これから起こることなのですよ」
ヒルギスが言った。
それはもはや、俺に対する死の宣告と言って差し支えなかった。近づいてくる音を聞けば、ただの作り話とは思えない。
そうこうしている間にも唸り声はぐんぐんと近づいてくる。
「なあ、せめて今来てるやつはどうにかするんだろ?」
全員黙って俺の言葉に首を横に振った。
「そんなことしたら、俺だけじゃなく全員が無事で済まないじゃないか」
「カイセイがそう思うなら、そうなんだろうな」
バドンが投げやりな雰囲気でそんなことを言った。
「どうするんだ?」
「……」
俺の言葉に答えず、バドンが歩き出す。
パーティメンバーもそれにつられるようにして歩き出す。
唸る声の近づく声の方へと曲がり角の方へと歩いていく。
「ま、待ってくれ!」
俺は慌てて走り出した。
俺のサポートがあれば、多少は戦えるかもしれない。
いくらクビにするとは言え、俺が勝手に力を貸すぐらいなら問題ないだろう。
それに。
「う、嘘。だろ……」
角を曲がった時、そこにいたのは闇がモンスターの形をしているような真っ黒いただただ大きな悪魔だけだった。
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