魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第2話 魔王出現

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 ダンジョン奥深くに出現するような見上げるほどの黒い巨体。

 ダメだ。これは勝てない。

 恐怖で身動きが取れない。

 バドンたちはどこへ行ったんだ。食われたのか。それとも。

「あ」

 いつの間にか腕が振り上げられている。

 見えなかった。

「終わった」

 俺は思わず目をつぶった。

 何でこんなことになるんだ。

 俺が何をしたって言うんだ。

 いや、色々やったか。俺のこの力がいけなかったのか。

「何をしているのじゃ」

 壁に何かがぶつかるような大きな音がしたのに、どれだけ考えても攻撃が届かない。

 あれだけのスピードなら、痛みを感じる前に体が二つに裂けていそうなのに。

「あれ?」

「あれ? じゃない。何をしていると聞いているのじゃ」

 黒いのの代わりに目の前に立っていたのは、短めの金髪に碧眼の可愛らしい女の子。

 全身を紺色のドレスに身を包み、まるで城から抜け出してきた王女様のような姿は、なぜか今いる場所と雰囲気が合っていた。

 大きな魔法陣を展開し、黒いモンスターを壁まで吹き飛ばしたところを見ると、相当強いのだろう。

 しかし誰だろう。俺の所属していたパーティにはいなかったし、俺の知り合いではないはずだ。

 何より今まで誰もいなかったじゃないか。

「ボケっとしてないで応戦しないか」

「え?」

「いい加減にしないか。ぐずぐずしている暇はないのだぞ。やつは」

 女の子が何かを言いかけたところで再び大きな音がした。

 見ると、黒いのが魔法陣めがけて攻撃したようだ。

 先ほどまで壁にいたはずだが、一瞬で距離を詰めてきたらしい。

「おい。いくら我でもここまでの相手を一人で受け止めるのには限界があるぞ。もう我の攻撃は見抜かれているようだしな。だが、お主の力を使えばすぐに倒せる相手だろう。力を使え」

「いや、どこの誰だか知りませんけど、俺にそんな大層な力はありませんよ! できて落とし穴に落とすくらいですって!」

 突然現れたかと思えば、こいつを倒せ? 無茶な話だ。

 俺にそんな力があれば出会い頭にやっている。

「そんなわけなかろう。スキルも使わずに落とし穴をポンポン作れる人間がいてたまるか。本気でスキルを出すのじゃ。ここには我とお主。それにダンジョンのモンスターしかおらぬだろう」

 誰だか知らないが、俺の過去を知っているのか。ひた隠しにしてきた過去を。

 いや、それも昔の話だ。慣れない力なんて使っても仕方がない。それに、女の子を巻き込んでまで助かろうとするほど心根は腐ってない。

「どなたか知りませんが、俺に期待してくれてありがとうございます。助けてくれたお礼に、俺が囮になるのでその隙に逃げてください。あなたなら俺よりも人の役に立てるはずだ」

「その人の役に立つというのは、魔王を倒すということだろう?」

「どうしてそこまで?」

「ふ。我ならそれくらいのことを知るのは容易い。なぜなら我こそが魔王だからな」

「魔王!?」

 いや、どこからどう見ても可憐な女の子じゃないか。

 黒いドレスに身を包み、長い金色の髪を下げ、発光する魔法陣によって照らし出された姿は、今まで見てきたどんな人よりも美しい。

 美女と噂される勇者パーティの二人よりも俺としてはキレイだと思う。

「どうだ。魔王なら巻き込んだところで構わないだろう。それに、魔王ならば倒せば勇者だ。いい話だと思わないか?」

「いや、おかしい。魔王なら俺を助けるメリットがないじゃないか。取引ってのは得をするから持ちかけるんだろ?」

「我はお主を生かす方が得だと思ったのだがな。魔王を巻き込む度胸もないか」

「いや」

 俺は元より力を使うことなんて考えにも及んでいなかった。

 二度と使ってやるかと思った。憎んだ力だからだ。

 ただ、目の前の名も知らぬ魔王の姿に見とれてまともに考えていなかったことも嘘ではない。

「でも、助からないんじゃ得もクソもないんじゃ。俺だけ助かったら何もできないし」

「魔王であると聞いても恩を返そうというのか。面白い。だが、我はその言葉を待っていた。ならば、我も助かれば、お主は我が配下に下り魔王城の防衛に努めよ。我が助からなければ、その時は人類に好きなように報告すればいい」

「ま、待ってくれ」

「待てぬ。この黒いのももう限界らしい。次の一撃で我ら二人の首が飛ぶだろうな」

「な」

 速すぎて何が起きていたのかわからないが、いつの間にか魔法陣が削れ、形を変えていた。

 黒い巨大なモンスターの高速攻撃は、俺が無駄に会話を引き伸ばしている間にも続いていたらしい。

 今はまだ腕が振り上げられていない。

 やるなら今しかないのか。

「まだためらうか。なら聞け。我は雨を司る魔王。パトラ・ウォータール! お主の力くらい軽く耐えてみせるわ」

 そうか。あの日から見かけなかった幼馴染と同じ名前。

 偶然だろうが、信じてもいいか。

 人類への未練も捨ててしまえ。

「ああもう! どうなっても知らないからな! 魔王パトラ!」

「構わん!」

 俺はヤケクソで自分の胸を思い切り叩いた。

 自分で自分にかけた封印。誰にも見破られないようにしていた。俺の本当のスキル「環境操作」の封印を解除した。

 わかる。確かにこの層には俺とパトラ、そして目の前にいるのとそれと同じような黒いのだけだ。

「全部洗い流してやる! 『ウォーターフォール』!」

 俺のスキル天候操作は天気を操る。本来なら、外で使うスキルだが、どこでも似たような効果を得られる。

 問題は、出力を最大にすると周りを巻き込み、自分以外が助からないこと。

 俺は幼少期このスキルを暴走させ、自分の住んでいた村を壊滅させてしまったことがある。

 それ以来、俺はスキルの使用を自分で封印していた。

 今も、もう一度同じことを起こすつもりで、俺はスキルを発動した。

「ブボボボボボ」

 黒いのが溺れたような音を漏らすと、水の勢いに乗せられ壁まで流された。

「フハハ! たぎる。みなぎるぞ! これだ。これを求めていたんだ。動きが鈍い今なら一撃で蹴散らしてくれる!」

 俺の想定外なことに、パトラは俺の起こした滝のような雨の中を自由に動いていた。

 いや、すでに一層全体を水で満たしたはずだが、まるで魚のようにすいすいと動いている。

 黒いのはもうすでにぐったりとして、動いていないというのに。

「嘘だろ?」

「ハハハ! ハハッハハハ!」

 笑いながら、今度はパトラが見えないスピードで動き、黒いのを一瞬で粉々に切り刻んだ。とどめというよりオーバーキルだ。

 俺としては、解除してしまおうと思ったが、このままでいいのかもしれない。

「あらかた片付いたな」

「え、もう?」

 同じような黒いのが、今目の前にしていたの以外にもいたはずだが片付けたのか。

 というか。よく考えればなんでこの魔王は水の中で普通に話せているんだ?

「驚いたようだな。だが、ここまで我の想定内だ。我の力を存分に活かせる存在。それでいて勇者の部下。我が目をつけないはずがないだろう」

「俺の力を見抜いていたのか?」

「当たり前だろう? 我は魔王ぞ? あのひよっこ勇者とは潜り抜けてきた死線が違うわ。お主のことは最初から全て知っておるよ。我の目に狂いはないからな」
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