魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第3話 苦戦! 勇者パーティ

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「はあ。こんな時に転移結晶があってよかった」

 僕の手の中にあった結晶が砕けて消えた。

 僕たち勇者パーティは今、ダンジョンを脱出し入り口に戻ってきていた。

「なんなのよあれ」

 マジュナが額に汗を浮かべながら言った。

「わかりません。ですが、私たちの手に負えない何かだということはわかります」

 普段から祈るように手を合わせているヒルギスも、慌てているのかまだ辺りを警戒している。

「ああ。あれはマジだぜ。触れちゃいけないこの世の終わりみたいなもんだ」

 いつも、誰にも負けないみたいな様子でいるガードンですら身震いしている。

「やはり、あそこで話をして正解だったな」

 僕はダンジョンの入り口を見ながら言った。

 勇者パーティは魔王を倒すだけでなく、人材の育成も担っている。

 パーティに入れたからには、たとえ冒険者を辞めたとしても、他のことで活躍する人間を育てなければならない。

 カイセイの実力ではそれは無理と悟った僕たちはカイセイ暗殺を企てた。

 もっとも、何かの事故で死んでくれないと困るから、今のような手段をとったわけだが。

「危うく本当に全滅するところだった」

「筋書きをなぞるのはカイセイだけでいいってのに、前の層の敵と比べ物にならないのが出てくるなんて予想外だったわ」

「ですが、これであの人の件は終わりました」

「だな。あとは俺たちがいつもの奴らと戦って帰ればいいだけだ。奮戦を装うためにな」

「ああ」

 と言っても、あんなやばいのを見た後じゃ、特別強いのと戦おうなんて気は起きない。

 ほどほどのやつと戦って、いい感じに自分たちの体力を減らして帰れば国もわかってくれるだろう。

 サポーターも別のやつを探せばいい。駆け出しの頃はとにかく誰でもいいと思っていたが、過去の自分に何か言えるならそいつはやめとけって言ってやりたい。

 まあ、その辺を見ていても、カイセイより見込みのあるやつはゴロゴロいたから問題ないだろう。



「見つけた。リザードマンだ。今日はあれくらいでいいだろう」

 ダンジョンから歩いてすぐ、リザードマンを数匹見つけた。

 群れで何かしていたようだが、俺たちの敵ではない。

「普段なら物足りない相手だけど、いいんじゃない?」

「ええ。今日はちょうどいいレベルだと思います」

「まあ、サポートなしも久しぶりだしな。足手まといがいないとどうなるか。試運転といこうじゃないか」

「ああ。そうしよう。みんな戦闘準備!」

 僕のかけ声でマジュナたちはそれぞれの立ち位置にバラけた。

 リザードマンたちも僕たちを警戒するように構え始めた。

 睨みつけてくるが逃げ出す様子はない。

 よかった。ここで実力差を理解して逃げ出されては僕たちの計画が水の泡だ。

 まあ、また別のモンスターを探せばいい話だが、それも面倒だ。

「いくぞ。これでもくらえ!」

 僕は勢いよく駆け出すと、先頭に立つリザードマンに向け剣を振り下ろした。

「なにっ!」

 だが、僕の剣はからぶった。

 普段ならこの一撃で倒せていたはずだが、今日のリザードマンは動きが速い。

 今まで戦ってきたのとは動きのキレが違う。

「どうしたバドン。足手まといがいなくなって気が抜けたのか? まあ、気持ちはわかるが、あんまり油断するなよ?」

「あ、ああ」

 ガードンは笑いながら言ってくるが、別に油断していたわけではない。

 今いるのがリザードマンの得意とする湿地帯とは言え、動きが速すぎる。

 僕の攻撃当たらないなんてことがあるわけない。

「そっちに行ったぞ」

 僕の攻撃をかわしたリザードマンはガードンの方へと向かって行った。

 その後ろにマジュナとヒルギスがいるから、二人を狙っているのかもしれない。

「む。今日のリザードマンは速いな」

 ガードンの表情が硬くなった。

 あのガードンが警戒している。やはり、今日のリザードマンはおかしい。

「ぐ」

 あまり重装備とも言えない武器ながら、ガードンはやっとといった様子で攻撃を止めた。

「ふんっ!」

 しかし、すぐに押し返すとリザードマンは群れへと戻っていった。

 僕たちも体勢を整える。

「思いの外強敵と遭遇してしまったみたいだな」

「そうね。たかがリザードマンと油断したけど、バドン様の攻撃がかわされるなんて。あれは上位種に違いないわ」

「ああ。あんなに攻撃の強い個体は初めてだ。上位種なんだろ? ヒルギス」

「……」

 僕たちの視線を受けたヒルギスだったが、すぐには答えない。

 ヒルギスの知識ならあのリザードマンが上位種かわからないはずがない。

「どうしたんだ? ヒルギス」

 僕が聞くと、ヒルギスは言いにくそうにしながらやっと口を開いた。

「あれは、リザードマンです。正真正銘。ただのリザードマンです」

「何?」

「本当なの? こんな時に冗談はよしてよね?」

「いえ、本当です。上位種でもネームドでもなく、ただのリザードマンの群れです」

「おいおい。嘘だろ。それじゃあ、今まで戦ってきたリザードマンはなんだったんだよ」

 信じられずにリザードマンを見るも、確かに、特別変わった見た目をしている個体はいない。

 どれも見慣れたリザードマン。

 一度も苦戦したことのない僕たちからしたら雑魚敵のはずのリザードマンだった。

「今苦戦している理由はおそらくですが、カイセイさんの天気予報や出現予測のおかげで、私たちに有利な環境で戦えていたことが原因だと考えられます」

「カイセイのおかげだって?」

「じゃあ何? あたしたちはあのカイセイにおんぶに抱っこだったってこと?」

「おいおい嘘だろ? あいつはなんの才能もないただの雑用係じゃなかったのかよ。バドン。あいつに才能なんてなかったんだろ?」

「僕の目に狂いはない。他の人には見える才能が一切なかったんだ」

 でも、この状況は僕が間違っていたってことか?

 才能がなくても十分な力を持っていたのか?

 それとも、僕の力を持ってしても才能を見抜けない天才だったってことか?

「そんなことあるはず」

「関係ないわ。まだ私の魔法は試してないもの。詠唱を終えてるから使うわよ? 『アイスランス』!」

 マジュナの魔法がリザードマンたちに直撃した。

「やったか?」

 しかし、霧が晴れると何事もなさそうにこちらを見ているリザードマンたちがいるだけだった。

「氷属性はリザードマンの有効じゃないの!?」

 悔しいが、僕たちはとんでもない間違いを犯してしまったのかもしれない。
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