魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

文字の大きさ
4 / 48
第一章 勇者パーティ崩壊

第4話 勇者帰還

しおりを挟む
「はあ、はあ。まさか、たかがリザードマン相手に、勇者家秘伝の技を使うことになるなんて」

 ヒルギスの回復、マジュナの魔法攻撃、ガードンの耐久。そして、僕の必殺技まで、全ての力を使って、リザードマンたちをなんとか倒すことができた。

「なんなの? 話と違うんですけど。一体どういうことよ」

 マジュナも不満があるらしく、僕を見る視線がキツイ。

「仕方ありません。バドン様の力も絶対ではありませんから」

 ヒルギスはフォローしてくれるが、それって僕が無能ってことじゃないか?

「まあ、失敗は誰にだってあるからな。しっかし、こいつはどうしたもんかね?」

 ガードンが壁をなぞりながら言った。

 僕たちは今、洞窟にいる。

 探索を始めたのではない。リザードマンとの戦いがギリギリだったせいで、マジュナの魔力が切れ、テレポートで帰ることができなくなったのだ。

 雑用係としてカイセイに荷物を任せていたせいで、ポーションがないため魔力の補給もできない。

 できるだけ移動したものの、王都まで帰ることはできず、野営をする羽目になった。

「あたしが悪いって言うの?」

「いや、俺はそうは言ってないだろ?」

 パーティの雰囲気が悪い。

 それもそうか。余裕で勝てると思っていた相手に苦戦したのだ。みんな気が気じゃないんだろう。

「まあまあ、落ち着いてくれ。いらだつ気持ちもわかるが、こんなところで言い争っても仕方ないだろ?」

「バドン様がそう言うなら」

「そうだな。俺たちは仲間なんだ」

「でも、バドン様が最初からあの技を使ってくれていたら、こんなことにならなかったのに」

「う」

 マジュナの小言が胸に刺さる。耳が痛い話だ。

 弱い敵だからと手を抜いて戦ったせいで、どんどんと力を入れることになり、結局全力で戦うことになった。

 これは、僕の判断ミスか。

「ですが、バドン様が倒してしまっては私たちが疲弊せず、命からがら逃げ帰ったことにできません」

「だな。これでよかったんだよ。まあ、少しの辛抱だ。大人しくしてようぜ」

「そうね」

 なんとかまとまりがついたらしい。

 しかし、少しの辛抱か。

「ここでも、カイセイがいないことが痛手になるなんて」

 カイセイがいた時の野営は快適だった。

 予報だけでなく、実際に空間を支配していたのはカイセイだったんじゃないかと思うほど、これまでの冒険は運がよかった。

 湿地帯でリザードマンと遭遇したことなど、今までなかった。

「あいつ、なんで力隠してたの?」

「そうですね。運がいいことが力だったのでしょうか?」

「死んだやつの話なんて今しても仕方ないだろ。クソ。ウジウジしてても何も解決しやしない。こういう時は無理やり寝るのがいいんだよ」

「みんなあんたみたいにガサツにできてないの」

「うるせえ」

 ガードンは何も敷かずに地面に横になった。

 野営の道具もカイセイに持たせていたせいで、僕たちの野営はただ外を警戒しながら寝るだけ。

 まともな食料もなければ、明かりを灯すこともできない。

 マジュナの言ったように、僕たちはカイセイにおんぶに抱っこだったらしい。

 勇者でありながらこんな屈辱を味わうことになるなんて、家族に知れたらなんて言われるかわからない。

 だが、バレることはない。カイセイはもう死んだんだ。僕は安心してそっと目をつぶった。



「まさか本当に命からがら帰ってくるとはね」

 なんとか夜を耐え忍び、マジュナの魔力が回復したことで、僕たちは無事王都に帰還することができた。

「でも、どういうことかしら、あたしたちを見ても誰も声をかけてこないんだけど」

「なんだか慌ただしくしていますね。一体どうしたんでしょうか」

「まあ、俺たちがいつになくボロボロだから、誰かわかっていなんじゃないのか?」

 ガードンの言う通りかも知れない。

 実際に、通りの向こうにいた男はこちらに向けて駆けてきた。

「やや、バドン様。お帰りになりましたか。待っておりました」

 そこらを歩いていた大臣は僕たちに気づいたらしく、街に来てやっと声をかけられた。

「どうもダジーンさん。待っていたってどういうことですか? 何かあったんですか?」

「どうしたもこうしたも。いえ、それよりまずはみなさんの方です。バドン様ほどのパーティが一体どうしたのですか? そんなボロボロになられて。それにカイセイ様の姿が見えないのですが」

「それは……」

 僕たちは互いに頷き合い、予定通り話を進めることを確認した。

 黙り込み下を向く。

 そんな、なかなか言い出さない僕たちに大臣はハッと息を漏らした。

「まさかやられてしまったのですか?」

「言いにくいのですが。はい。ダンジョンの47層は僕たちの想像以上でした。警戒していたのですが……」

「そう、ですか。冒険者は冒険の最中に死んでも仕方がないとは言え、バドン様たちがいながら、なおダメだったとなると今後誰が言っても望みは薄いでしょうね」

「ですが、いずれ最下層まで攻略して見せます。カイセイの仇を取るためにも、そして、魔王を倒すための何かを手に入れるためにも」

「ありがとうございます。民衆も安心すると思いますよ。帰りが遅く、ボロボロになっても生き残った勇者様ですからね」

「もちろんです。それで、その民衆は一体どうしたと言うんですか? 街の様子がおかしいじゃないですか」

 僕の質問に、今度は大臣の方が言いにくそうにうつむき出した。

「まさか、魔王軍が攻めてきたんですか?」

「いえ、そうではないのですが、魔王軍に関することではあります」

「何があったんですか?」

「あれです。魔王城周辺の天候が荒れているのです」

「そんなのいつものことでは?」

「見てください。ここからでも確認できるほどの大荒れなんです」

 大臣の珍しく出した大声に、僕はつられて指さす方を見た。

 確かに、王都からも天変地異、嵐の様子がうかがえるほど、魔王城周辺が荒れているようだった。

「あれは?」

「わかりません。先遣隊を向かわせたのですが、まだ情報は入ってきません」

「なるほど、そういうことね。帰ってきたばかりでボロボロなあたしたちに、偵察に向かってほしいから言葉が詰まったのね」

「……」

 返事がないところを見るとどうやら図星らしい。

「それくらいのこと。私たちなら受けて当たり前のことです。ねえ、バドン様」

「もちろんだ」

「そうこなくっちゃな。こんな事態に俺たちが向かわないで誰が行くってんだ」

「皆様。カイセイ様を失って心の傷も癒えていないでしょうに。なんて心強い」

「ここで足踏みしてたんじゃ。カイセイにも顔向けできませんからね。彼も勇者パーティの一員だったんですから」

「ありがとうございます。ありがとうございます。サポートは全力でさせていただきます」

 大臣に頭を下げられ、僕たちは大臣と魔王城偵察の約束をしたことになってしまった。

 本当は後一週間くらいは仲間が死んだことを言い訳にゆっくりダラダラとしたかったが、こうなっては仕方ない。

 カイセイについて細かいことを聞かれなかったことをよしとして、向かうことにしよう。

「まずは準備からだな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...