今更あなたから嫉妬したなんて言われたくありません。

梅雨の人

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良い夫ルーカス

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品も教養のかけらもないプリシアを前に、エルザが第二妃として自分に嫁いできてくれていなかったら、今頃自分達はどうなっていたかと考えるだけで背筋が凍る思いのルーカスだった。 

「じゃあ、私のことを愛してくれているのね?!ふふっ。可哀そうなエルザ様、ルーカスが私ばかりを構って未だ初夜さえ行われていないなんて。幼いころからルーカスの婚約者として頑張ってきたエルザ様にほんっと申し訳ないわぁ!」 

「…ああ、君は優しいんだな。エルザをそこまで心配するなんて。本当に可愛そうだよ、エルザは…。でもお願いだ、どうか王太子妃の仕事の件は少し考えてほしい。…プリシア、君を愛しているのだから…。」 

そう言葉を発したルーカスは、いつまで仮面をかぶって良い夫を演じなければならないのかと途方に暮れた。 
 

プリシアが聖女でなかったら、絶対に見向きもしなかったーーーー。 

プリシアがいなければ、今頃愛しのエルザと順調で幸せな日々を送っていたはずなのに―――。 
 
しかし扉の向こうでエルザがこの二人の会話をじっと聞いていたとは知る由もないルーカスは、後に己のこの発言を深く後悔することになるのだった。 

 

「エルザ様…また出直しましょう。」 

ルーカスの執務室の扉の前に呆然と立ち尽くすエルザは、優しく背中を押してくれるダグラスに流されるままその場を立ち去った。 

急を要する案件でエルザがルーカスに直々に承認を得る必要があったため、ルーカスの執務室をわざわざ訪ねてきたというのに。 

普段ルーカスを避けているのであろうエルザがルーカスに会いに行くことなどこれまでほとんどなかった。

それなのになんて最悪なタイミングでエルザを傷つけるようなあの二人の会話を立ち聞きさせる形になってしまったのだろうかとダグラスは内心大きく舌打ちした。
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