愛を知ってしまった君は

梅雨の人

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ノア1

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ルビーが何事もなかったかのよう離れに戻っていってしまった。
ルビーが眠りについたのを確認して、一人寂しく横たわる寝具はいつも冷たい。 


ルビーがあの男と頻繁に出かけるようになってまだ日は浅い。 

それなのに、二人が連れ立って楽しそうに出かけていく様を黙って見送ることしかできない状況に、既に窒息しそうなほど苦しくなってきている。

それなのにいつしかその状況に段々慣れてきてしまっている自分が理解できない。 

 
ルビーが離れに移り敷地内別居となってしまったのは私の自業自得だ。 

自分の過ちがただの悪夢であればと何度願ったことか。
 

「お休み、愛しいルビー…。」 

毎晩、ルビーのいる離れの光が消えるのを確認して、一人寂しくベッドに横になる。 

あの日以来、夫婦の寝室の天井から壁紙、床に至るまで全てを一新した。 

そのことをルビーにはまだ告げてはいない。 

彼女に今更どの面下げて夫婦の寝室について言及出来るのかずっと頭を悩ましている。 

もう夫婦の寝室や私たち当主夫妻の部屋自体の場所自体を移動すべきなのだろう。 

真新しい調度品や壁紙、家具、全てをルビーの好みそうなもので揃えたが、彼女がここにいないという現実に虚しい気持ちで居た堪れなくなる。

どうしてあんな馬鹿なことをしてしまったのかと目を閉じれば後悔ばかりが押し寄せてくる。 


意を決してルビーにあの男ともう会わないでくれと頼んだ時のことを思い出す。 

ルビーは私を罵ることもなく淡々としており、私の願いもむなしくさっさと離れに戻っていった。 

以前のような表情豊かな彼女はもう目にすることが出来ないのだろうか。

最後に夫婦の寝室でルビーと共に過ごした幸せな記憶を思い出して、つかの間の虚しい幸福に浸る。 

柔らかな肌、必死に私をつかんでうるんだ瞳で私の名を呼ぶ声、その全てが愛おしい。 

 

どうしたらルビーとやり直せるのだろう。 

どうして私は間違えてしまったのだろう。 

どうしてあんな男とルビーは会うことにしたのだろう。 

どうして、どうして、どうして…。 

 

私は心からルビーを愛しているのに…。  
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