雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~

梅雨の人

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セガール

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「残念ながら奥様は間違いなく記憶喪失ですな。」

「そうですか…」

 
ラシータが記憶喪失になったと医師に告げられてから、ラシータから私たちの愛の記憶がなくなったのだという事実に焦燥が募っていった。

しかしもう一方で、私が触れていないとはいえ女に奉仕させていた現場を見た目撃した妻が記憶を亡くしたことは都合がいいことだとも思う。


(ああ、そうだ。そのまま何も思い出せなければそれでいい。またラシータに愛してもらえればいいだけの話だ。誠心誠意彼女に尽くし、ラシータに愛されていく過程を再び味わえると思うだけでぞくぞくする…。) 



それなことを考えているなんて知る由もないラシータに呼び出されて急いで彼女の部屋に向かった。
 
「その、先ほどはあなた様のことを拒絶してしまい申し訳ございませんでした。記憶がなくなって迷惑をかけているうえに、夫であるあなたのことまで忘れてしまてしまい申し訳ございません。謝罪申し上げます。」

そう私に告げてきたラシータは心から申し訳なさそうにしていた。

(記憶がなくなってもラシータは変わらない。美しく聖女のように心が美しい…。)

「謝罪など必要ないよ、ラシータ。私たちは夫婦なんだ。どんな試練も一緒に乗り切ろう。」

ラシータの髪を救ってキスを落とした。

さわやかなにおいがフワッっと香る艶やかな黒髪をすくい、無意識でキスを落としていた。

震えるラシータを抱きしめるだけで満たされる。


「申し訳ございません」

「謝ることはない。私たちは夫婦だ。君が記憶をなくしてしまう前まで毎日のようにこうしてお互いに抱きしめあっていたのだから。

ーーー大丈夫だ、ラシータ。君に記憶があろうとなかろうと君が私の妻であることに変わりはないのだから。さあ、
もう少し体を休めよう。」

名残惜しくはあるが、ラシータにシーツをかぶせて部屋を後にした。

 

外は相変わらず白銀の世界だ。 

冬の雪景色も、春の花々に覆われた花壇も、夏の真っ青な空も、秋の落ち葉で地面が埋め尽くされた景色もすべてラシータのためにあるようなものだと、つくづく思う。

綺麗な景色もラシータの前ではかすんで見えてしまうのだから。

執務に戻った私は、いつの間にか資料から目を背けてそんなことを考えていた。

私の考えることはいつだってラシータのことばかりだ。



ーーー油断していたのかもしれない。記憶喪失のラシータが私のことを思い出そうと部屋でじっとしてくれているのだから。


だから知らなかった。

暖炉に煌々と火が付いた暖かな部屋の窓辺で外を眺めるラシータに、ショールを肩に乗せてやる護衛騎士 がいたことに。 

ラシータの頬に伝う涙を拭うために思わず頬に触れてしまったそのごつごつした指先を、とっさに握りしめたラシータとそんな彼女を見つめる護衛騎士に。 



ーーーそしてラシータが気になって仕方のない私は、ノックもなしにラシータの部屋に入った。

「ラシータ?なぜその男の指を握っているんだい?ロナルド離れろ。ラシータは私のものだ。」
 

「ーーー連れ去ってもいいですか?」 

「ーーーお願い… 」

苦しそうに絞り出したラシータの声が深く私の心を抉ったのだった。
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