24 / 28
セガール
しおりを挟む
「残念ながら奥様は間違いなく記憶喪失ですな。」
「そうですか…」
ラシータが記憶喪失になったと医師に告げられてから、ラシータから私たちの愛の記憶がなくなったのだという事実に焦燥が募っていった。
しかしもう一方で、私が触れていないとはいえ女に奉仕させていた現場を見た目撃した妻が記憶を亡くしたことは都合がいいことだとも思う。
(ああ、そうだ。そのまま何も思い出せなければそれでいい。またラシータに愛してもらえればいいだけの話だ。誠心誠意彼女に尽くし、ラシータに愛されていく過程を再び味わえると思うだけでぞくぞくする…。)
それなことを考えているなんて知る由もないラシータに呼び出されて急いで彼女の部屋に向かった。
「その、先ほどはあなた様のことを拒絶してしまい申し訳ございませんでした。記憶がなくなって迷惑をかけているうえに、夫であるあなたのことまで忘れてしまてしまい申し訳ございません。謝罪申し上げます。」
そう私に告げてきたラシータは心から申し訳なさそうにしていた。
(記憶がなくなってもラシータは変わらない。美しく聖女のように心が美しい…。)
「謝罪など必要ないよ、ラシータ。私たちは夫婦なんだ。どんな試練も一緒に乗り切ろう。」
ラシータの髪を救ってキスを落とした。
さわやかなにおいがフワッっと香る艶やかな黒髪をすくい、無意識でキスを落としていた。
震えるラシータを抱きしめるだけで満たされる。
「申し訳ございません」
「謝ることはない。私たちは夫婦だ。君が記憶をなくしてしまう前まで毎日のようにこうしてお互いに抱きしめあっていたのだから。
ーーー大丈夫だ、ラシータ。君に記憶があろうとなかろうと君が私の妻であることに変わりはないのだから。さあ、
もう少し体を休めよう。」
名残惜しくはあるが、ラシータにシーツをかぶせて部屋を後にした。
外は相変わらず白銀の世界だ。
冬の雪景色も、春の花々に覆われた花壇も、夏の真っ青な空も、秋の落ち葉で地面が埋め尽くされた景色もすべてラシータのためにあるようなものだと、つくづく思う。
綺麗な景色もラシータの前ではかすんで見えてしまうのだから。
執務に戻った私は、いつの間にか資料から目を背けてそんなことを考えていた。
私の考えることはいつだってラシータのことばかりだ。
ーーー油断していたのかもしれない。記憶喪失のラシータが私のことを思い出そうと部屋でじっとしてくれているのだから。
だから知らなかった。
暖炉に煌々と火が付いた暖かな部屋の窓辺で外を眺めるラシータに、ショールを肩に乗せてやる護衛騎士 がいたことに。
ラシータの頬に伝う涙を拭うために思わず頬に触れてしまったそのごつごつした指先を、とっさに握りしめたラシータとそんな彼女を見つめる護衛騎士に。
ーーーそしてラシータが気になって仕方のない私は、ノックもなしにラシータの部屋に入った。
「ラシータ?なぜその男の指を握っているんだい?ロナルド離れろ。ラシータは私のものだ。」
「ーーー連れ去ってもいいですか?」
「ーーーお願い… 」
苦しそうに絞り出したラシータの声が深く私の心を抉ったのだった。
「そうですか…」
ラシータが記憶喪失になったと医師に告げられてから、ラシータから私たちの愛の記憶がなくなったのだという事実に焦燥が募っていった。
しかしもう一方で、私が触れていないとはいえ女に奉仕させていた現場を見た目撃した妻が記憶を亡くしたことは都合がいいことだとも思う。
(ああ、そうだ。そのまま何も思い出せなければそれでいい。またラシータに愛してもらえればいいだけの話だ。誠心誠意彼女に尽くし、ラシータに愛されていく過程を再び味わえると思うだけでぞくぞくする…。)
それなことを考えているなんて知る由もないラシータに呼び出されて急いで彼女の部屋に向かった。
「その、先ほどはあなた様のことを拒絶してしまい申し訳ございませんでした。記憶がなくなって迷惑をかけているうえに、夫であるあなたのことまで忘れてしまてしまい申し訳ございません。謝罪申し上げます。」
そう私に告げてきたラシータは心から申し訳なさそうにしていた。
(記憶がなくなってもラシータは変わらない。美しく聖女のように心が美しい…。)
「謝罪など必要ないよ、ラシータ。私たちは夫婦なんだ。どんな試練も一緒に乗り切ろう。」
ラシータの髪を救ってキスを落とした。
さわやかなにおいがフワッっと香る艶やかな黒髪をすくい、無意識でキスを落としていた。
震えるラシータを抱きしめるだけで満たされる。
「申し訳ございません」
「謝ることはない。私たちは夫婦だ。君が記憶をなくしてしまう前まで毎日のようにこうしてお互いに抱きしめあっていたのだから。
ーーー大丈夫だ、ラシータ。君に記憶があろうとなかろうと君が私の妻であることに変わりはないのだから。さあ、
もう少し体を休めよう。」
名残惜しくはあるが、ラシータにシーツをかぶせて部屋を後にした。
外は相変わらず白銀の世界だ。
冬の雪景色も、春の花々に覆われた花壇も、夏の真っ青な空も、秋の落ち葉で地面が埋め尽くされた景色もすべてラシータのためにあるようなものだと、つくづく思う。
綺麗な景色もラシータの前ではかすんで見えてしまうのだから。
執務に戻った私は、いつの間にか資料から目を背けてそんなことを考えていた。
私の考えることはいつだってラシータのことばかりだ。
ーーー油断していたのかもしれない。記憶喪失のラシータが私のことを思い出そうと部屋でじっとしてくれているのだから。
だから知らなかった。
暖炉に煌々と火が付いた暖かな部屋の窓辺で外を眺めるラシータに、ショールを肩に乗せてやる護衛騎士 がいたことに。
ラシータの頬に伝う涙を拭うために思わず頬に触れてしまったそのごつごつした指先を、とっさに握りしめたラシータとそんな彼女を見つめる護衛騎士に。
ーーーそしてラシータが気になって仕方のない私は、ノックもなしにラシータの部屋に入った。
「ラシータ?なぜその男の指を握っているんだい?ロナルド離れろ。ラシータは私のものだ。」
「ーーー連れ去ってもいいですか?」
「ーーーお願い… 」
苦しそうに絞り出したラシータの声が深く私の心を抉ったのだった。
384
あなたにおすすめの小説
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
素敵な人が私の婚約者ですか?すみません、他に好きな人がいる婚約者様とは将来を約束出来ませんので婚約破棄をお願いします。
クロユキ
恋愛
「あの…貴方は誰ですか?」
森の中で倒れていた私は婚約者のアレン様を私は覚えていません、記憶喪失だそうです。彼には別に好きな人がいたようなのです。私、マリーナ・クレールは婚約破棄をしました。
彼の事は覚えていませんので私の事は気にしないで下さい。
誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
旦那さまは私のために嘘をつく
小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。
記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる