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2佐々木たける40歳の話

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 私の名前は佐々木たける40歳だ。結婚してから4年たち、娘が一人と、妻のおなかにも息子が一人いる。私が仕事から帰ると妻は夕飯を準備していてくれる。仕事は東京で飲食店を妻とパートの方で経営していた。お客さんからは好評で顔なじみのお客さんもいた。仕事にも恵まれ、最愛の妻と娘が私を愛してくれている、人生の最高潮だと私は思っていた。しかし現実は甘くなかった。全国に広がったウイルス性の病気のせいで客足は途絶え、、料理の値段も上げざる負えなくなった。そして客が減ってきてから三か月後には店を閉めなくてはいけなくなってしまった。私はパートの求人から料理の経験を活かし、飲食店でのパートを始めた。妻も最初はパートをしていたがお腹の子が大きくなり始めたので家で休暇を取ることにした。貯金があったので生活にはあまり困らなかったが、自分の生きがいだった店を閉めたというのは心に大きな穴をあけた。だが今もこうして頑張れているのは妻と娘のおかげだ。
 今日もパートが終わり家に帰ると娘が玄関までやってきた。

「パパおかえり!!今日のご飯はハンバーグだよ!!私がお願いしたの!パパもハンバーグすきだよね!」

「ただいま愛、そうかハンバーグか、パパもママの作るハンバーグは大好きだ!夕飯が楽しみだな!」

 娘と手をつなぎながらリビングに向かうと妻ができたてのハンバーグをテーブルに並べていた。

「おかえりなさい、今日もお疲れ様、いつもありがとうね」

 微笑みながら私に毎日言ってくれる。最高の妻としかいいようがない。

「ただいま、ゆきこそ毎日おいしいご飯をありがとうね」

 席に着きテレビを見ながら会話をしおいしいご飯を食べていた。

「あなた、いつかまたお店開きましょうね」

「そうだね、このウイルスがなくなったらお店を開こう。きっとまたお客さんがたくさん来てくれるよ。」
 
 私たちはまた店を開くのが目標になっていた。また、たくさんの人の笑顔を見れる時が来ると私は願って今を生きている。

「このハンバーグいつもと味が違うけどすごくおいしいね」

「ふふ、さすが!今日のハンバーグはね隠し味に、、、」

妻が隠し味を言おうとした瞬間急に目の前がモヤモヤになり意識がもうろうとしてきた。

「、、、を、いれて、、、の」

 妻の声が聞こえない、、、なんだこれは私は死ぬのか?だめだ、妻と娘を置いてはいけない、またみんなで店をしたい、、、、、、
 そして私は意識を失った。
 
 目を覚ますとそこはベッドの上だった見慣れない光景が目の前に広がった。禍々しい絵画、私の家の扉の何倍もある禍々しい扉。そしていま私が寝ていた5人くらい寝れそうなベッド。ここはどこだ?死んだのか?あの世か?頭が混乱していて何が何だかわからない。私はさっきまで我が家にいたはずだ。混乱している私をよそに急にデカい扉が音を立てながら開いた。
 そこには人間のような形ではあるが顔が異様に青白く白髪の小柄な初老の男が立っていた。初老の男は私に近寄ってきて話し出した。

「魔王様!!お目覚めでしたか!!ああよかった、書庫で倒れているところを召使いが発見したと報告を受けたときは生きた心地がしなかったでございますぞ!!」

「、、、、、、」

 何を言っているんだこの老人は、魔王?召使い?訳が分からない。

「ああ無事で何よりでした、お目覚めのところ心苦しいのですが明日勇者がやってくるとの情報が入りましたので早速どうするかについて会議をしたいのですが、、、お体のほうはいかがでしょうか、、、もしよろしくないのであれば私たちで会議はすすめますので、、、」

 だめだ何を言っているのかがさっぱりわからない夢か?いや多分違う感覚が鮮明にある。何が起きたかわからない。

「えっと、、、少し一人にしてくれ」

 勝手に言葉がでていた。私が初老の男にそういうとかしこまりましたと頭をさげ、部屋から出て行った。ベットから立ち上がり禍々しい部屋を見て回った。大きな鏡を見つけ、のぞくとそこには顔が異様に白く、長い青紫の髪色の男が映った。一瞬脳が止まったがこれが今の私だとすぐ悟った。
 部屋の机の上に不思議な文字が書いてある紙をみつけた。それを手に取ると真っ暗で何も見えない空間が広がった。ぼんやり何かが見えていたが段々と鮮明になり正体が分かった。そこにいたのはさっきまで鏡に映っていた青紫色の髪をした長髪の男だった。



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