43 / 82
第四章 ‐ 裏切者は誰だ ‐
043話「帰宅困難者の憂鬱」
しおりを挟む
第43話「帰宅困難者の憂鬱」
「――――で、この傷が噂の、というわけ」
若い女性が立ったまま、椅子に座った男性の鼻を面白そうにつつく。彼女の名は「石原 望」、仲間内では「望見座」の号で呼ばれている女性だ。
「どんな噂だ」
「しらばってくれてもだめですよ。ネタは割れてるんですから、先生が銅島区長を半殺しにしてきたって」
銅島区長に挨拶に行った日の夜、月照支部6階の休憩スペースで会話をするのは筒井と望の二人だった。
「口が軽い……」
筒井が肩をすくめてうんざりした。あの場に居合わせた身内は自らを置いては卜部 京子だけ。日も昇らない内に彼女が第三者の望に言いふらしたことは明らかだった。
「まーまー、ちゃんと内緒にしておきますから。筒井先生も有澤師範には頭が上がりませんもんね~」
「第一、殴ってない。少し脅かしただけだ」
「なんだ、別に殺しちゃっても良いですけど。私あの人キライ、お尻触って来るから」
望は表情をムッとさせ、機嫌悪そうに言う。
「そんな事もしてるのか、盛んだな」
筒井が何の感慨も無さそうに言った。
「やめてくださいよ、あんなオジサン」
「宗家の指示なら喜んで消すが、あんな男の尻でも区長の椅子を磨くのに使いたいとおっしゃる人々がいるのさ」
霞が関の人間の考える事は判らないよ。と筒井は付け加えた。
「お役人サマの考える事はわかりませんね」
「そういう事」
望は持ちだしてきた救急箱から絆創膏を一枚取り出し、筒井の鼻に貼った。
「別にこの程度の怪我、治療なんか……」
と筒井が言いかけた所で
「いーんです。こういうのは雰囲気ですよ」
と望が答えた。
「それにしても珍しいですね、先生がそういう事するの」
「それほどでもない。”気晴らし程度”にやる事はある。師範にバレると良くないから自重しているだけで」
「ふうん、それでお昼は自重しなかった。と」
「あの場では必要だったんだ」
筒井は肩をすくめて答えた。
「俺が先にやらなかったら、卜部さんが区長を入院させてた」
「こわ……」
「あの人は稀に怖いぞ」
◆
気が付いた時、カスミは高雅高校の廊下を走っていた。
息苦しくなって彼女が立ち止まる、後ろからは廊下を喰らいつくすほどの、おぞましい肉塊が触手を伸ばしながら迫って来る。触手は鉈や金属バット、拳銃を持っていて、それを乱暴に振り回している。
巨大な肉塊の化け物に追いつかれないよう、血に染まった高校の廊下をカスミは走った。
追いつかれそうになった彼女は男子トイレに駆け込み、扉を閉めた。ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、カスミがその右手を掴まれる。
背筋に寒気を感じて振り向くと、首がぶらりと折れ曲がり、鼻と口から血を垂れ流す同級生の碇が立っていた。
「どうしてヤらせてくれなかったんだ」
その場で腰を前後させながら、変わり果てた碇が問い詰める。
「あの時ヤらせてくれれば、俺は殺されずに済んだんだ」
「ごめんなさい……でもそういうの、私できないよ……」
カスミが後ろに後ずさるが、碇は手を掴んで離さない。
「俺たち、恋人になれたのに」
「違うよ! 許して! 私いやだったの!」
「だけどそのせいで、俺は死んでしまったんだ!!!」
碇が歯の折れて真っ赤な口で叫び、カスミに無理やり抱きついた。
「やめて!!」
カスミが悪夢と現実の境目のつかぬまま叫び、跳ね起きて……カプセルベッドの壁に肘を勢いよくぶつけた。
「あいっ……たあっ……!!」
衝撃音と共に、ぶつけた肘にひどいしびれが襲いカスミは悶絶する。目には微かな涙が滲んだ。その涙が痛みのせいなのか、悪夢の恐怖によるものなのかは本人にさえわからない。
「うーーーー……っ! やだあ……もう……っ!」
狭いカプセルベッドの中には満足に跳ねまわる空間もないので、じっと痛みに歯を食いしばるしかない。
そうこうしていると、彼女の寝泊まりしているカプセルベッドの外の扉を誰かがノックした。といっても、誰かはわかっていたが。
「大丈夫? 入るけど」
カスミが片手でロールカーテンを開けると、個人スペースとカプセルベッド、両方の扉を開けて京子が尋ねた。
「た、たぶん……ごめんなさい」
腕を抑えながらカスミが詫びると京子は「いいのよ」とい言いつつも心配そうな表情を向けていた。
◆
カプセルを這い出たカスミが休憩スペースの椅子に座り、ホットココアを口にする。京子も向かい側の椅子に座った。ただ座っているだけだが、それだけでもカスミにとっては心の支えになる。中途半端な目覚めのせいで現在時刻は深夜3時半、日の出にはまだ早かった。
あの事件後、カスミの深層心理に強烈なトラウマが植え付けられた事は京子の眼から見ても明らかで、カスミは悪夢にうなされるようになった。心配だ。
一方、詮無き事かもしれないと京子は思うのだ。あれだけの恐ろしい体験をする人間などこの国には滅多にいるものではないし、カスミは恐らく無間の戦いぶりを目の当たりにしたはず。
本人曰く、理由があって”ああいう”戦い方をしているらしいが、戦いの際の彼の苛烈ぶりは闇社会の都市伝説だ。医者や長年の刑事ですら目を背けるような処刑を目の当たりとすれば、10代の少女はトラウマ確実。……むしろこの程度で済んで幸運だったぐらいだ。もっとも、軽い投薬とカウンセリングはしばらく続けて行かなければならないが。
「やな夢だった」
やがて、カスミがポツリと漏らした。
「あの日の学校で、私はなんか化け物から逃げてて……逃げたんだけど、今度は死んじゃったクラスメイトに手を掴まれて、無理やり抱きつかれて……こわかった」
「大丈夫よ」
「ねえおばさん、あの後学校は……」
「それは……”しばらく”お休みになるわ」
京子が苦い表情で答えた。実際には”しばらく”なんてレベルでは済まない、あの学校は再起不能だ。数日中に正式に廃校が公表されるだろう。
よかった。それを聞いてカスミが呟いた。
「……ねえ、おばさん。私……しばらく学校行きたくないな……」
そんな気持ちをこぼしたら叔母さんは怒るだろうか。そんな不安がカスミの脳裏をよぎったが、杞憂でしかなかった。
「いいわよ」
京子は怒るどころか、二つ返事でカスミの要望を認めた。
「いいの?」
「私、あなたを通信制の高校に転校させようかって。そうすれば卒業も出来るし……」
「うん、卒業は一応……したいかな」
「ここで勉強は出来る?」
うん、とカスミは頷いて返事する。
「なら大丈夫。ウチには東大卒もいるし……他にも家庭教師は”アテ”があるの。私に任せて貰ってもいいかしら」
どうやら京子には腹案があるようだった。
「うん、任せるね。……私、まだ家には帰れない?」
カスミが尋ねた。あの事件以来一度も家に帰っておらず、ビルの外にも出ていない。ビルの設備が充実しているから最低限の寝泊まりには支障ないし、帰らなかった所で心配させる両親も面倒を見るペットも居ない。だが、それでも生まれ育った自宅だ、いつもの風呂に入って、いつもの部屋のベッドで横になりたいな、とは思う。
「ごめんなさい、まだ危ないからしばらくは……」
カスミを家に帰してやれない事をひどく申し訳なく思う京子だったが、その件に関してはカスミは意外と楽観的な様子で「ううん、いいよ」と首を横に振る。
「私も危ないのは怖いし、ここ、警備の人とか沢山いるから安心だし……なんか”あれ”で寝るのも慣れてきたし……」
カスミが防音ガラス戸の向こうのカプセルベッドエリアに目を向ける。
扉を抜けて通路左手に彼女のカプセルベッドスペースが存在するが、その通りの部屋には二畳半ほどの個室が付属していた。ネットカフェのように壁で仕切られ、その内側に簡易ながら机とテーブルが置かれており、ある程度のプライベートを維持できるようになっている。
仕切られた黒い壁の前まで歩いてゆけば「広瀬 霞 専用」と名札がゴム吸盤付きで下がっているのがきっとわかるだろう。もう一つ「不在中」と手書きで書かれた札も。
今はそれが彼女の新たな寝室で、個人部屋だ。自宅の自室よりも、ビジネスホテルよりも狭いがネットカフェよりは広く、ベッドもこう見えて高級ホテルで使われるような高級米国S社の最高級マットレスを使用しているとかで……確かに寝心地だけなら非常に良い。
ロッカーも一個貰って、着替えや私物入ったスーツケースも脇に置かせて貰っている。ノートパソコンとタブレットを京子が持ってきてくれたので、暇つぶしも出来る。Wi-Fiも通っているから実質映画もアニメも見放題だ。スマートフォンはあの時無くしてしまったが、今は誰の連絡も欲しくないし別にいい。
欲を言えば漫画が山ほどあると嬉しいが――――そう悪いものではなく、寝泊まり自体にはそれほどストレスを感じていなかった。
「……おばさん、ありがとう」
ぽつり、カスミが呟いた。京子は穏やかな笑みを浮かべた。
「あらなあに? もう何度も聞きましたよ」
「うん。でも、あの時おばさんが助けに来てくれて、凄い嬉しかった」
すると、京子が気にかけていた事を口にして尋ねる。
「私がこういうお仕事してた事、びっくりした?」
うん、ちょっとね。カスミが答えた。
「でも、おばさんなら助けてくれるかもって思ったから」
「そっか」
京子が微笑むと、カスミが尋ねる。
「おばさん、いつからこのお仕事をしてたの?」
「長いわねえ……あれから……」
あれから……。京子の表情が、笑顔のまま一瞬固まった。ふと、夜中の消防車のサイレンが聴こえたような気がしたが、音を拾えたのは京子だけだった。
「いえ、なんでも。そうね、ここに加わって私は20年ぐらいかしらね……」
京子が答えると、カスミは驚きの声を漏らす。
「うっそぉ……それ、私が生まれる前からってこと……?」
「そう。私もそうだし、あなたのお父さんは、それよりずっと前から……」
その時に、カスミは割って入るように一言問うた。
「お父さんも、そうなの……?」
「――――で、この傷が噂の、というわけ」
若い女性が立ったまま、椅子に座った男性の鼻を面白そうにつつく。彼女の名は「石原 望」、仲間内では「望見座」の号で呼ばれている女性だ。
「どんな噂だ」
「しらばってくれてもだめですよ。ネタは割れてるんですから、先生が銅島区長を半殺しにしてきたって」
銅島区長に挨拶に行った日の夜、月照支部6階の休憩スペースで会話をするのは筒井と望の二人だった。
「口が軽い……」
筒井が肩をすくめてうんざりした。あの場に居合わせた身内は自らを置いては卜部 京子だけ。日も昇らない内に彼女が第三者の望に言いふらしたことは明らかだった。
「まーまー、ちゃんと内緒にしておきますから。筒井先生も有澤師範には頭が上がりませんもんね~」
「第一、殴ってない。少し脅かしただけだ」
「なんだ、別に殺しちゃっても良いですけど。私あの人キライ、お尻触って来るから」
望は表情をムッとさせ、機嫌悪そうに言う。
「そんな事もしてるのか、盛んだな」
筒井が何の感慨も無さそうに言った。
「やめてくださいよ、あんなオジサン」
「宗家の指示なら喜んで消すが、あんな男の尻でも区長の椅子を磨くのに使いたいとおっしゃる人々がいるのさ」
霞が関の人間の考える事は判らないよ。と筒井は付け加えた。
「お役人サマの考える事はわかりませんね」
「そういう事」
望は持ちだしてきた救急箱から絆創膏を一枚取り出し、筒井の鼻に貼った。
「別にこの程度の怪我、治療なんか……」
と筒井が言いかけた所で
「いーんです。こういうのは雰囲気ですよ」
と望が答えた。
「それにしても珍しいですね、先生がそういう事するの」
「それほどでもない。”気晴らし程度”にやる事はある。師範にバレると良くないから自重しているだけで」
「ふうん、それでお昼は自重しなかった。と」
「あの場では必要だったんだ」
筒井は肩をすくめて答えた。
「俺が先にやらなかったら、卜部さんが区長を入院させてた」
「こわ……」
「あの人は稀に怖いぞ」
◆
気が付いた時、カスミは高雅高校の廊下を走っていた。
息苦しくなって彼女が立ち止まる、後ろからは廊下を喰らいつくすほどの、おぞましい肉塊が触手を伸ばしながら迫って来る。触手は鉈や金属バット、拳銃を持っていて、それを乱暴に振り回している。
巨大な肉塊の化け物に追いつかれないよう、血に染まった高校の廊下をカスミは走った。
追いつかれそうになった彼女は男子トイレに駆け込み、扉を閉めた。ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、カスミがその右手を掴まれる。
背筋に寒気を感じて振り向くと、首がぶらりと折れ曲がり、鼻と口から血を垂れ流す同級生の碇が立っていた。
「どうしてヤらせてくれなかったんだ」
その場で腰を前後させながら、変わり果てた碇が問い詰める。
「あの時ヤらせてくれれば、俺は殺されずに済んだんだ」
「ごめんなさい……でもそういうの、私できないよ……」
カスミが後ろに後ずさるが、碇は手を掴んで離さない。
「俺たち、恋人になれたのに」
「違うよ! 許して! 私いやだったの!」
「だけどそのせいで、俺は死んでしまったんだ!!!」
碇が歯の折れて真っ赤な口で叫び、カスミに無理やり抱きついた。
「やめて!!」
カスミが悪夢と現実の境目のつかぬまま叫び、跳ね起きて……カプセルベッドの壁に肘を勢いよくぶつけた。
「あいっ……たあっ……!!」
衝撃音と共に、ぶつけた肘にひどいしびれが襲いカスミは悶絶する。目には微かな涙が滲んだ。その涙が痛みのせいなのか、悪夢の恐怖によるものなのかは本人にさえわからない。
「うーーーー……っ! やだあ……もう……っ!」
狭いカプセルベッドの中には満足に跳ねまわる空間もないので、じっと痛みに歯を食いしばるしかない。
そうこうしていると、彼女の寝泊まりしているカプセルベッドの外の扉を誰かがノックした。といっても、誰かはわかっていたが。
「大丈夫? 入るけど」
カスミが片手でロールカーテンを開けると、個人スペースとカプセルベッド、両方の扉を開けて京子が尋ねた。
「た、たぶん……ごめんなさい」
腕を抑えながらカスミが詫びると京子は「いいのよ」とい言いつつも心配そうな表情を向けていた。
◆
カプセルを這い出たカスミが休憩スペースの椅子に座り、ホットココアを口にする。京子も向かい側の椅子に座った。ただ座っているだけだが、それだけでもカスミにとっては心の支えになる。中途半端な目覚めのせいで現在時刻は深夜3時半、日の出にはまだ早かった。
あの事件後、カスミの深層心理に強烈なトラウマが植え付けられた事は京子の眼から見ても明らかで、カスミは悪夢にうなされるようになった。心配だ。
一方、詮無き事かもしれないと京子は思うのだ。あれだけの恐ろしい体験をする人間などこの国には滅多にいるものではないし、カスミは恐らく無間の戦いぶりを目の当たりにしたはず。
本人曰く、理由があって”ああいう”戦い方をしているらしいが、戦いの際の彼の苛烈ぶりは闇社会の都市伝説だ。医者や長年の刑事ですら目を背けるような処刑を目の当たりとすれば、10代の少女はトラウマ確実。……むしろこの程度で済んで幸運だったぐらいだ。もっとも、軽い投薬とカウンセリングはしばらく続けて行かなければならないが。
「やな夢だった」
やがて、カスミがポツリと漏らした。
「あの日の学校で、私はなんか化け物から逃げてて……逃げたんだけど、今度は死んじゃったクラスメイトに手を掴まれて、無理やり抱きつかれて……こわかった」
「大丈夫よ」
「ねえおばさん、あの後学校は……」
「それは……”しばらく”お休みになるわ」
京子が苦い表情で答えた。実際には”しばらく”なんてレベルでは済まない、あの学校は再起不能だ。数日中に正式に廃校が公表されるだろう。
よかった。それを聞いてカスミが呟いた。
「……ねえ、おばさん。私……しばらく学校行きたくないな……」
そんな気持ちをこぼしたら叔母さんは怒るだろうか。そんな不安がカスミの脳裏をよぎったが、杞憂でしかなかった。
「いいわよ」
京子は怒るどころか、二つ返事でカスミの要望を認めた。
「いいの?」
「私、あなたを通信制の高校に転校させようかって。そうすれば卒業も出来るし……」
「うん、卒業は一応……したいかな」
「ここで勉強は出来る?」
うん、とカスミは頷いて返事する。
「なら大丈夫。ウチには東大卒もいるし……他にも家庭教師は”アテ”があるの。私に任せて貰ってもいいかしら」
どうやら京子には腹案があるようだった。
「うん、任せるね。……私、まだ家には帰れない?」
カスミが尋ねた。あの事件以来一度も家に帰っておらず、ビルの外にも出ていない。ビルの設備が充実しているから最低限の寝泊まりには支障ないし、帰らなかった所で心配させる両親も面倒を見るペットも居ない。だが、それでも生まれ育った自宅だ、いつもの風呂に入って、いつもの部屋のベッドで横になりたいな、とは思う。
「ごめんなさい、まだ危ないからしばらくは……」
カスミを家に帰してやれない事をひどく申し訳なく思う京子だったが、その件に関してはカスミは意外と楽観的な様子で「ううん、いいよ」と首を横に振る。
「私も危ないのは怖いし、ここ、警備の人とか沢山いるから安心だし……なんか”あれ”で寝るのも慣れてきたし……」
カスミが防音ガラス戸の向こうのカプセルベッドエリアに目を向ける。
扉を抜けて通路左手に彼女のカプセルベッドスペースが存在するが、その通りの部屋には二畳半ほどの個室が付属していた。ネットカフェのように壁で仕切られ、その内側に簡易ながら机とテーブルが置かれており、ある程度のプライベートを維持できるようになっている。
仕切られた黒い壁の前まで歩いてゆけば「広瀬 霞 専用」と名札がゴム吸盤付きで下がっているのがきっとわかるだろう。もう一つ「不在中」と手書きで書かれた札も。
今はそれが彼女の新たな寝室で、個人部屋だ。自宅の自室よりも、ビジネスホテルよりも狭いがネットカフェよりは広く、ベッドもこう見えて高級ホテルで使われるような高級米国S社の最高級マットレスを使用しているとかで……確かに寝心地だけなら非常に良い。
ロッカーも一個貰って、着替えや私物入ったスーツケースも脇に置かせて貰っている。ノートパソコンとタブレットを京子が持ってきてくれたので、暇つぶしも出来る。Wi-Fiも通っているから実質映画もアニメも見放題だ。スマートフォンはあの時無くしてしまったが、今は誰の連絡も欲しくないし別にいい。
欲を言えば漫画が山ほどあると嬉しいが――――そう悪いものではなく、寝泊まり自体にはそれほどストレスを感じていなかった。
「……おばさん、ありがとう」
ぽつり、カスミが呟いた。京子は穏やかな笑みを浮かべた。
「あらなあに? もう何度も聞きましたよ」
「うん。でも、あの時おばさんが助けに来てくれて、凄い嬉しかった」
すると、京子が気にかけていた事を口にして尋ねる。
「私がこういうお仕事してた事、びっくりした?」
うん、ちょっとね。カスミが答えた。
「でも、おばさんなら助けてくれるかもって思ったから」
「そっか」
京子が微笑むと、カスミが尋ねる。
「おばさん、いつからこのお仕事をしてたの?」
「長いわねえ……あれから……」
あれから……。京子の表情が、笑顔のまま一瞬固まった。ふと、夜中の消防車のサイレンが聴こえたような気がしたが、音を拾えたのは京子だけだった。
「いえ、なんでも。そうね、ここに加わって私は20年ぐらいかしらね……」
京子が答えると、カスミは驚きの声を漏らす。
「うっそぉ……それ、私が生まれる前からってこと……?」
「そう。私もそうだし、あなたのお父さんは、それよりずっと前から……」
その時に、カスミは割って入るように一言問うた。
「お父さんも、そうなの……?」
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
★第9回キャラ文芸大賞エントリー中!
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる