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第五章 ‐ いつか星の海で ‐
053話「気苦労の絶えない閻魔大王の休日:2」
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第53話「気苦労の絶えない閻魔大王の休日:2」
浴び続ければ熱中症で倒れてもおかしくないような日射しを避けるようにして赤レンガ造りのランドマークの中に逃げ込んだ三人は早速赤レンガ内にオープンするカフェの一つを見つける。
「ねえ、あれおいしそう」
最初に指を指したのはカスミだった。
「喉乾きましたねー」
「抹茶白玉フローズンだって、美味しそうじゃない?」
「美味しそうかも」
カスミと翔子は仲良さそうに店の前に置かれたメニュー看板を吟味する。これは既に入店を前提としている素振りである。
「それじゃお金、渡しておくから……」
「何言ってるんです? センセイも一緒に食べるんですよ」
二歩後ろから財布を取り出す清壱の事を、振り返った翔子がとても怪訝な表情で見つめる。
「いや、俺は別に……」
「嫌いなんです?」
「いや、そうじゃないけど……」
「けど?」
ジトっとした翔子の瞳が暗に責め立てる。清壱の苦し紛れの回答はこうだった。
「別に、飲まなくてもまだ死なないし……」
「飲んだって死なないと思いますけど」
そう返す翔子の冷たさはこの夏一番のクールだった。カウンターからは「ご注文お決まりのお客様、どうぞ」と女性店員が少女二人を吸い寄せる魔法の呪文を唱えている。
「黒ごまソフトクリームラテをひとつ、先輩は?」
「えーと、じゃあ私、抹茶ラテのアイスをひとつ」
カスミが注文をし終えると、少女二人と女性店員の視線が一斉に清壱へと向けられる。
「あー……私も抹茶ラテのアイスで」
清壱が観念したようにカスミと同じものを注文すると、サっと財布から黒いクレジットカードを取り出す。選ばれしエリートだけが審査に通るという半伝説的カードを目の当たりにしたカスミと翔子が一斉に目を見開いてそれを凝視した。
何事も無かったかのように一括で支払いを追えると、それぞれ飲み物を手に取って席に座る。往生際の悪い清壱が別のテーブルに座って逃げようとしたが、翔子に捕まえられて終わった。
カフェは建物から若干突き出す形でテラス形式になっているが、天井は防水シートで、側面は断熱ガラス扉で外と隔てられているために空調が行き届いていて、外とは比べ物にならないほど涼しい。むしろここに長時間居たら風邪をひくかもしれなかった。
「センセイ、なんで逃げようとするんですか」
席に座るなり、翔子はむすっとした表情で清壱を問い詰める。
「俺はただの護衛だろう」
「だったらちゃんと傍に居てください。私達弱いんですから」
翔子に正論を言われると、清壱も返す言葉が無い。その沈黙する姿は彼女の瞳には、どこか困った様子のように映った。
「ひょっとしてセンセイ、こういうの苦手とか?」
「まあ……得意ではないよ」
核心を突くような問いであったが、清壱はそれを否定しなかった。軍人だとか殺し屋の男と一緒に飯を食べたり話をするのは慣れている。仕事の話や武術指導にも慣れているし、若い女性のボディーガードの仕事にも。……こういうのは、余り慣れていない。
口には出さなかったが、翔子がそう尋ねたのも彼女が知る月照支部の人間……広瀬 巌と似たものを直感的に感じ取ったからである。行くあてのなかった翔子に転校先を与えたのは巌だったが、彼も似たように年頃の少女と接するのが苦手だと自ら答えるような人物であった事を記憶している。だから彼女はこう言った。
「やっぱり、でも気にしなくていいですよ。センセイは良い人だってわかってますから、ね?」
「うん、最初は怖かったけど……良い人かな? って」
カスミも同意して頷くと、清壱は困惑のような表情を浮かべた。
「私が? お国が放し飼いにしてる殺し屋だよ」
「その人がいなかったら私達、こうやって遊べませんでしたよ」
「間違って君を殺しそうになった」
と、清壱は半分冗談交じりに言う。このブラックジョークが何かツボを抑えたようで、危うく殺されそうになった本人は笑いながら答える。
「いや、あの時は超ビビりましたよ! 扉が開いちゃったから悪党かなーってナイフ持って刺しにいったんだけど……」
「ねえ翔子ちゃん、ソレ本当なの?」
命の軽いやり取りにカスミが思わず眩暈を起こしそうになって訊いた。「ホントですよ! ねえセンセイ?」と見つめて来る翔子に、清壱は頷いて答える。
「本当だ。まさか他支部の仲間があんな所に潜んでいると聴いていなかったから、持ってた刀でうっかり首を落としそうに……」
「いやあ、人生で一番ビビりましたよ。やっぱ伝説の殺し屋は迫力が違うなあって……」
「いや、申し訳ない、あの時は本当に……」
清壱が実際申し訳なさそうに謝るが、翔子は
「いいんですよ、センセイのお陰で私たち助かったので」
と、彼の事を笑って許す。
「……でももし悪いと思ってるなら、今日一日ちゃんと離れないでいてくださいね」
その一言が対人回避傾向のある彼への最大のストッパーになった。
「……参ったよ、そうしよう」
二人の少女が楽しく談笑する中、造った微笑みを浮かべて外の景色を眺める。平日とはいえ観光・デートスポットとして栄えている場所だけあって若い男女のカップルや、女子高生だけのグループなどをよく見かけることが出来る。
清壱は自分の抹茶ラテに口をつけた。抹茶の微かな渋みの上に甘さが乗っかっていて本物の抹茶よりずっと飲みやすい。冷風が送られてくるこの環境で氷の入ったこれを飲んでいると、たちまち店の外の暑さなど忘れてしまいそうだ。
隣の席にはカスミが座っていて、清壱と同じ抹茶ラテを美味しそうに飲んでいる。二人の少女の談笑を聞きつつも、彼は外の日射しを眺めていた。
浴び続ければ熱中症で倒れてもおかしくないような日射しを避けるようにして赤レンガ造りのランドマークの中に逃げ込んだ三人は早速赤レンガ内にオープンするカフェの一つを見つける。
「ねえ、あれおいしそう」
最初に指を指したのはカスミだった。
「喉乾きましたねー」
「抹茶白玉フローズンだって、美味しそうじゃない?」
「美味しそうかも」
カスミと翔子は仲良さそうに店の前に置かれたメニュー看板を吟味する。これは既に入店を前提としている素振りである。
「それじゃお金、渡しておくから……」
「何言ってるんです? センセイも一緒に食べるんですよ」
二歩後ろから財布を取り出す清壱の事を、振り返った翔子がとても怪訝な表情で見つめる。
「いや、俺は別に……」
「嫌いなんです?」
「いや、そうじゃないけど……」
「けど?」
ジトっとした翔子の瞳が暗に責め立てる。清壱の苦し紛れの回答はこうだった。
「別に、飲まなくてもまだ死なないし……」
「飲んだって死なないと思いますけど」
そう返す翔子の冷たさはこの夏一番のクールだった。カウンターからは「ご注文お決まりのお客様、どうぞ」と女性店員が少女二人を吸い寄せる魔法の呪文を唱えている。
「黒ごまソフトクリームラテをひとつ、先輩は?」
「えーと、じゃあ私、抹茶ラテのアイスをひとつ」
カスミが注文をし終えると、少女二人と女性店員の視線が一斉に清壱へと向けられる。
「あー……私も抹茶ラテのアイスで」
清壱が観念したようにカスミと同じものを注文すると、サっと財布から黒いクレジットカードを取り出す。選ばれしエリートだけが審査に通るという半伝説的カードを目の当たりにしたカスミと翔子が一斉に目を見開いてそれを凝視した。
何事も無かったかのように一括で支払いを追えると、それぞれ飲み物を手に取って席に座る。往生際の悪い清壱が別のテーブルに座って逃げようとしたが、翔子に捕まえられて終わった。
カフェは建物から若干突き出す形でテラス形式になっているが、天井は防水シートで、側面は断熱ガラス扉で外と隔てられているために空調が行き届いていて、外とは比べ物にならないほど涼しい。むしろここに長時間居たら風邪をひくかもしれなかった。
「センセイ、なんで逃げようとするんですか」
席に座るなり、翔子はむすっとした表情で清壱を問い詰める。
「俺はただの護衛だろう」
「だったらちゃんと傍に居てください。私達弱いんですから」
翔子に正論を言われると、清壱も返す言葉が無い。その沈黙する姿は彼女の瞳には、どこか困った様子のように映った。
「ひょっとしてセンセイ、こういうの苦手とか?」
「まあ……得意ではないよ」
核心を突くような問いであったが、清壱はそれを否定しなかった。軍人だとか殺し屋の男と一緒に飯を食べたり話をするのは慣れている。仕事の話や武術指導にも慣れているし、若い女性のボディーガードの仕事にも。……こういうのは、余り慣れていない。
口には出さなかったが、翔子がそう尋ねたのも彼女が知る月照支部の人間……広瀬 巌と似たものを直感的に感じ取ったからである。行くあてのなかった翔子に転校先を与えたのは巌だったが、彼も似たように年頃の少女と接するのが苦手だと自ら答えるような人物であった事を記憶している。だから彼女はこう言った。
「やっぱり、でも気にしなくていいですよ。センセイは良い人だってわかってますから、ね?」
「うん、最初は怖かったけど……良い人かな? って」
カスミも同意して頷くと、清壱は困惑のような表情を浮かべた。
「私が? お国が放し飼いにしてる殺し屋だよ」
「その人がいなかったら私達、こうやって遊べませんでしたよ」
「間違って君を殺しそうになった」
と、清壱は半分冗談交じりに言う。このブラックジョークが何かツボを抑えたようで、危うく殺されそうになった本人は笑いながら答える。
「いや、あの時は超ビビりましたよ! 扉が開いちゃったから悪党かなーってナイフ持って刺しにいったんだけど……」
「ねえ翔子ちゃん、ソレ本当なの?」
命の軽いやり取りにカスミが思わず眩暈を起こしそうになって訊いた。「ホントですよ! ねえセンセイ?」と見つめて来る翔子に、清壱は頷いて答える。
「本当だ。まさか他支部の仲間があんな所に潜んでいると聴いていなかったから、持ってた刀でうっかり首を落としそうに……」
「いやあ、人生で一番ビビりましたよ。やっぱ伝説の殺し屋は迫力が違うなあって……」
「いや、申し訳ない、あの時は本当に……」
清壱が実際申し訳なさそうに謝るが、翔子は
「いいんですよ、センセイのお陰で私たち助かったので」
と、彼の事を笑って許す。
「……でももし悪いと思ってるなら、今日一日ちゃんと離れないでいてくださいね」
その一言が対人回避傾向のある彼への最大のストッパーになった。
「……参ったよ、そうしよう」
二人の少女が楽しく談笑する中、造った微笑みを浮かべて外の景色を眺める。平日とはいえ観光・デートスポットとして栄えている場所だけあって若い男女のカップルや、女子高生だけのグループなどをよく見かけることが出来る。
清壱は自分の抹茶ラテに口をつけた。抹茶の微かな渋みの上に甘さが乗っかっていて本物の抹茶よりずっと飲みやすい。冷風が送られてくるこの環境で氷の入ったこれを飲んでいると、たちまち店の外の暑さなど忘れてしまいそうだ。
隣の席にはカスミが座っていて、清壱と同じ抹茶ラテを美味しそうに飲んでいる。二人の少女の談笑を聞きつつも、彼は外の日射しを眺めていた。
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