11 / 27
留守番戦争
第一章:10話 『片隅の知人』
しおりを挟む
―――カイン・ヴェーテン―――
―――これは『イオン』がまだ生きる希望を、将来を、意味を持っているころの話――――
少年は学園の掲示板に張り出されている成績結果順位表の右端をじっと見つめていた。だが、表の一番端っこではない。その隣の自分の名前。
「くそっ!また2位かよ…!」
少年―カイン・ヴェーテンの実技はそこそこだった。一般よりは上だが、上級の者から見れば格段に劣っている。中の上といったところか。その代わり彼には他に誇ることがあった。それが学科。ただ、カインの成績はいつもトップクラスだったが唯一勝てない相手がいた。
それが、
「学科総合1位…イオン・リベリオル……。」
実技を含めた総合力を見るのならばカインの方が確実に上だったが、彼は唯一誇れる学科で負けることを自分で自分を許せなかった。だからこそ、イオン・リベリオルという男は最大の敵だった。もっとも、イオンにとってはカインのことなんか敵ではなかった。なぜなら、イオンはそんなことを意識していなかったからだ。意識されていないからこそカインはより悔しいと感じる。
「なんで勝てないんだ……。」
思いの強さというのが本当にあるのならば、イオンは何年も待っている思い人のため、カインはイオンに勝つため、その差。ただ、思いの強さなんてものをカインはまったく信じていなかった。
カインは自分にしか聞こえない大きさの声で愚痴をこぼしながら歩き出す。向かった先は生徒会室だった。彼は自分の実力を理解していないほど馬鹿ではない。だから、将来少しでも有利に立つため内申を上げている。そのひとつが生徒会役員だった。会長や副会長になるにはそれなりの実力が必要となってくる、役員レベルならば学科で優秀な成績を取っているカインにもなることができるのだ。
「おい見ろよ!学園の女王様だぜ!」
「ホントだ!めっちゃ可愛いなぁ~。」
「53人の男が告ったらしいけど全滅だってよ。」
生徒会室に行く途中、近くにいた男の集団の会話が聞こえた。『学園の女王』とはユーナ・アルカディアルのことで、その少女は現在の生徒会長にあたる。
「またくだらない話してやがんな…。」
カインは心底くだらないと思っていた。彼は自分のことでいっぱいだったのだ。しかし、それだけではなかった。カインはユーナのことを尊敬し、憧れていたのだ。だからこそ、下心を持ってでしか見ることのできない他の生徒がカインの目には穢れて見えたのだ。
しかし、
「何だよ、もしかして『私に似合う男じゃない』とか、そんな理由か?」
「いや、好きな人がいるらしいぞ。」
「えっ、マジかよ!」
そんな会話が連続してカインの耳に入った。
「――――っ!?」
カインは始め信じることができなかった。なぜなら、彼女は己を高めている他のものを犠牲にしていると思っていた。しかし違った。彼女でも恋はするし、下心は少なからず存在する…そんなことはないと勝手に思い込んでいた。理想が、憧れが、目標が違ったことに勝手に絶望する。
「……………。」
同じ時間同じ場所で、イオンはその会話を聞いていたが――
―――イオンはまったく逆のことを考えていた―――
======================
「―――カイン……ヴェーテン……!?」
見覚えのあるその顔に思わずつぶやく。廊下にマスクの破片がぽろぽろと落ちていく。
「さあ、これでわかったはずです!投降して情報を洗いざらい吐くか、ここで肉塊に成り果てるか選びなさい!」
血の涙が出そうな勢いで黒フルフェイス―カインを睨みつけるテーラ。それに対してカインはどちらの選択肢も眼中にないかのような態度を今もとっている。
「あなたはすでに顔が割れた。後は影の世界で身を隠しながらひっそりと暮らす運命しかない。さあ、ここからどうしようというのですか?」
最後の警告だったのだろうテーラの言葉をカインは平気で流す。あくまでテーラの選択肢以外の行動で乗り切るみたいだった。その異常は獣神のテーラですら不気味に思え、胸の奥の重力だけが以上に高くなったような重圧の恐怖を感じた。
「簡単なことです…。」
カインは真ん中がぽっかり開いたマスクを取りはずし、右に投げつける。床に当たったときの金属音はカーペットによってかき消され、代わりにポーンという軽い音が廊下に響く。
「……………逃げる………。」
「は?」
「逃げる!!!!」
「おいっ!待て!!」
カインはそのまま回れ右をして走り出した…かと思いきや、
「じゃあ待ってるよ、ア・レ・ス君。」
今度こそカインは今までよりも素早い動きで廊下を駆け抜け20mほど先に行った時点で消えてしまった。
「お前…なんでそんなことしてるんだよ……。」
記憶の片隅の、友人とまでは言えないが知らない人とも言えないそんな存在。その人の過去と照らし合わせて、アレスは黒フルフェイスのカインのことについて考えていた……。
―――これは『イオン』がまだ生きる希望を、将来を、意味を持っているころの話――――
少年は学園の掲示板に張り出されている成績結果順位表の右端をじっと見つめていた。だが、表の一番端っこではない。その隣の自分の名前。
「くそっ!また2位かよ…!」
少年―カイン・ヴェーテンの実技はそこそこだった。一般よりは上だが、上級の者から見れば格段に劣っている。中の上といったところか。その代わり彼には他に誇ることがあった。それが学科。ただ、カインの成績はいつもトップクラスだったが唯一勝てない相手がいた。
それが、
「学科総合1位…イオン・リベリオル……。」
実技を含めた総合力を見るのならばカインの方が確実に上だったが、彼は唯一誇れる学科で負けることを自分で自分を許せなかった。だからこそ、イオン・リベリオルという男は最大の敵だった。もっとも、イオンにとってはカインのことなんか敵ではなかった。なぜなら、イオンはそんなことを意識していなかったからだ。意識されていないからこそカインはより悔しいと感じる。
「なんで勝てないんだ……。」
思いの強さというのが本当にあるのならば、イオンは何年も待っている思い人のため、カインはイオンに勝つため、その差。ただ、思いの強さなんてものをカインはまったく信じていなかった。
カインは自分にしか聞こえない大きさの声で愚痴をこぼしながら歩き出す。向かった先は生徒会室だった。彼は自分の実力を理解していないほど馬鹿ではない。だから、将来少しでも有利に立つため内申を上げている。そのひとつが生徒会役員だった。会長や副会長になるにはそれなりの実力が必要となってくる、役員レベルならば学科で優秀な成績を取っているカインにもなることができるのだ。
「おい見ろよ!学園の女王様だぜ!」
「ホントだ!めっちゃ可愛いなぁ~。」
「53人の男が告ったらしいけど全滅だってよ。」
生徒会室に行く途中、近くにいた男の集団の会話が聞こえた。『学園の女王』とはユーナ・アルカディアルのことで、その少女は現在の生徒会長にあたる。
「またくだらない話してやがんな…。」
カインは心底くだらないと思っていた。彼は自分のことでいっぱいだったのだ。しかし、それだけではなかった。カインはユーナのことを尊敬し、憧れていたのだ。だからこそ、下心を持ってでしか見ることのできない他の生徒がカインの目には穢れて見えたのだ。
しかし、
「何だよ、もしかして『私に似合う男じゃない』とか、そんな理由か?」
「いや、好きな人がいるらしいぞ。」
「えっ、マジかよ!」
そんな会話が連続してカインの耳に入った。
「――――っ!?」
カインは始め信じることができなかった。なぜなら、彼女は己を高めている他のものを犠牲にしていると思っていた。しかし違った。彼女でも恋はするし、下心は少なからず存在する…そんなことはないと勝手に思い込んでいた。理想が、憧れが、目標が違ったことに勝手に絶望する。
「……………。」
同じ時間同じ場所で、イオンはその会話を聞いていたが――
―――イオンはまったく逆のことを考えていた―――
======================
「―――カイン……ヴェーテン……!?」
見覚えのあるその顔に思わずつぶやく。廊下にマスクの破片がぽろぽろと落ちていく。
「さあ、これでわかったはずです!投降して情報を洗いざらい吐くか、ここで肉塊に成り果てるか選びなさい!」
血の涙が出そうな勢いで黒フルフェイス―カインを睨みつけるテーラ。それに対してカインはどちらの選択肢も眼中にないかのような態度を今もとっている。
「あなたはすでに顔が割れた。後は影の世界で身を隠しながらひっそりと暮らす運命しかない。さあ、ここからどうしようというのですか?」
最後の警告だったのだろうテーラの言葉をカインは平気で流す。あくまでテーラの選択肢以外の行動で乗り切るみたいだった。その異常は獣神のテーラですら不気味に思え、胸の奥の重力だけが以上に高くなったような重圧の恐怖を感じた。
「簡単なことです…。」
カインは真ん中がぽっかり開いたマスクを取りはずし、右に投げつける。床に当たったときの金属音はカーペットによってかき消され、代わりにポーンという軽い音が廊下に響く。
「……………逃げる………。」
「は?」
「逃げる!!!!」
「おいっ!待て!!」
カインはそのまま回れ右をして走り出した…かと思いきや、
「じゃあ待ってるよ、ア・レ・ス君。」
今度こそカインは今までよりも素早い動きで廊下を駆け抜け20mほど先に行った時点で消えてしまった。
「お前…なんでそんなことしてるんだよ……。」
記憶の片隅の、友人とまでは言えないが知らない人とも言えないそんな存在。その人の過去と照らし合わせて、アレスは黒フルフェイスのカインのことについて考えていた……。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる