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〈成人編〉
37. 〈幕間〉ダンジョン視察
しおりを挟む念願のダンジョン都市に到着したグレンとオスカーは精力的に活動した。
冒険者ギルドの各地区ギルドマスターと知己を得たのをいいことに、東西南北の各ダンジョンや関連施設、商店を視察したのだ。
到着してすぐは、とても気になっていた東の『肉ダンジョン』に挑み、腕試しを楽しんでいたが、ひとしきり落ち着いてからは冒険者ギルドが支援する武器防具屋、雑貨店に魔道具屋、薬屋などを黙々と見て回った。
「……ふむ。ギルドがテコ入れしている武器や防具の店は、我が国にもあったな?」
「はい、ありましたね。あとは薬草を買い取ってくれる薬屋や業務提携をしている錬金ギルドも見かけたことがあります。これほどの規模のものではありませんでしたが」
「そうだな。我が国と違って、この豊かな国にはダンジョンがたくさんあるからな」
創造神からの恵みと呼ばれているダンジョンが、我が国にはひとつしかなかった。
それが最近になって、ほぼ同時期にダンジョンが二ヶ所発見されたのだ。
神々の試練と恵みを人々に与えてくれるダンジョン。力と財が手に入るが、命を賭ける必要のある、試練の場だ。
変化をおそれてダンジョンを放置すれば、魔素濃度が爆増して、ダンジョンが決壊する畏れがあるため、上手に付き合っていく必要があった。
「ダンジョンの氾濫を引き起こしたくはないからな。……それに実際、ダンジョンのドロップアイテムは有用だ」
「魔石に魔道具。魔獣や魔物の食肉に毛皮などの素材も国の発展には必要ですからね」
新しいダンジョンの発見は、冒険者ギルドにとっても朗報だ。
そのため、グランド王国から派遣された二人にギルドの幹部たちは融通をきかせてくれている。
「今日はギルドと提携した宿を見せてもらったが、なかなか面白い試みだったな」
「そうですね。引退した冒険者の再就職先の斡旋、見習いや新人冒険者への補助。我が国でも見習うべき制度だと思います」
本日、見学させてもらった宿もギルドの提携店らしく、見習いと女性冒険者を優先的に受け入れていた。
冒険者ギルドからの補助金があるため、宿泊料も安く、支払えない者たちも労働力や食材を提供することで利用できるようにしているらしい。
シンプルだが清潔で、気持ちのいい宿だったが、宿の女将であるエルフの女性の態度だけが気になった。
(森の人を見るのは久しぶりだが、やはり人嫌いのようだな。素っ気なかったし、やたらとこちらを警戒する様子だった)
案内を買ってでてくれたギルド職員のほうが戸惑っていたくらいだ。
虫の居所が悪かったのだろうか。
(美しい女性に嫌われるの寂しいが、まぁ二度と会うこともあるまい)
女性と見習いしか泊まれない宿なら、自分たちは門前払いされるのは確実なのだ。
「現役を引退した冒険者は、屋台経営に流れる人が多いらしいですね」
オスカーは宿よりも、屋台が気になるようだ。
東地区は『肉ダンジョン』のお膝元なこともあり、手に入りやすい魔獣肉の串焼きを扱う屋台をよく見かけた。
肉の扱いにも慣れたもので、そこそこ美味しい屋台が多い。
「なかなか賢い連中だ。『肉ダンジョン』の低階層の魔獣は見習い冒険者でも倒せるレベルだから、肉を安価で入手しやすい」
「元冒険者なら、自分たちで狩ることもできますからね」
老齢で体力的に不安になった者や、怪我で引退を余儀なくされた冒険者でも一階層や二階層の魔獣なら、難なく倒すことができる。
屋台が儲からなかったとしても、どうにか食べていくことだけは可能な都市なのだ、ここは。
「ずいぶんと恵まれた国で、羨ましい」
「温暖な気候というだけでも我々にとっては垂涎ものですよね」
恨みがましい口調になってしまうのも仕方ない。
グランド王国は北の寒冷地にあり、一年のうち、三分の一は大地が凍てついている国なのだ。
鉱山資源には恵まれているため、国力はそれなりにあるが、食糧事情は南国には遠く及ばない。
「だが、王国内にダンジョンが二ヶ所増えたことによって、少なくとも肉には困らなくなるな」
にんまりと笑う王弟、グレン。
悪い表情を浮かべてはいるが、金髪碧眼の美貌の王族であるため、どこか品がある。
一般的な冒険者装備に身を包んでいても、王族と高位貴族のオーラはなかなか消せないようで、ダンジョン内では少しだけ浮いている二人だった。
「王都では畜産した肉しか口にしていませんでしたからね。あれほどに美味ならば、すぐに浸透することでしょう」
ホテルのレストランで食べたオーク肉ステーキの味を思い出して、オスカーはしみじみと言う。
畜産業に多少なりともダメージはあるだろうが、ドロップ肉は安価に流通させることができるのがいい。
(何より、味がいい。それにダンジョンからドロップした肉は魔力の膜のようなものに包まれていて、二週間は新鮮なまま保管できる。これほど流通に向いた食材はないだろう)
ダンジョン肉が魔獣を狩れる辺境の地のみならず、王都にまで出回れば、皆きっと美味なことに驚くことだろう。
(うん、やはり商業ギルド経由でエイダン商会の調味料を交易品として交渉しなくてはならんな)
あれはとてもいいものだ。
グレンだけでなく、オスカーもそれは納得している。
魔獣肉は塩で焼くだけでも旨いが、あのステーキソースを使えば、あっという間に宮廷料理を凌駕する一品に仕上がるのだ。
「何より、調理が苦手な俺たちでも使えるのがいい」
『肉ダンジョン』では、野営と自炊も経験した二人である。
冒険者ギルド併設の売店で、自炊用の調理器具が売られていたので買ってみたのだが、これがとても使い勝手が良かったのだ。
鉱山ダンジョンでのハズレドロップアイテムと言われていた、クズ鉱石を使った、野営用調理器具。
鉄そっくりだが、驚くほど軽量な金属で作られた鍋とフライパン。
持ち手の部分が外せて、フライパンに鍋を重ねて収納できるのがありがたい。
直火に掛けることのできる軽金属のカップは湯を沸かすのにも便利だ。
収納の魔道具は持っているが、収納容量にも限りがあるので、荷物を小さくできるのはありがたい。
魔獣を狩れば、肉には困らないため、持ち込んだのは調理器具と調味料。
岩塩とエイダン商会で購入したステーキソースと焼き肉のタレが大活躍した。
いつもは硬く焼き締めた乾パンを嫌々持ち歩くのだが、今回はエイダンホテルでふわふわの白パンを仕入れたので、とても贅沢な野営料理を楽しめたのだった。
二人が感動した、これらの品に関わるのが、まだ成人前の少年少女であることを彼らは知らない。
「この俺があれほど美味なステーキを作ることができたんだ。料理長なら、もっと素晴らしい一皿に仕上げてくれるだろうな」
「……あー。王城の総調理長はプライドが高いので、上手に説得する必要はありそうですね」
ともあれ、ダンジョン探索も順調で、二人は危なげなく十階層まで潜ることができた。
味をしめたグレンは次は南の『海ダンジョン』に挑戦してみたかったのだが──
「いや、次はハイペリオンダンジョンを視察しましょう」
右腕であるオスカーに反対されてしまう。
「何でだ? いいじゃないか、海にあるダンジョンだぞ⁉︎ 新鮮な海鮮が食べ放題なのに!」
「落ち着いてください。新鮮な海鮮は楽しみですが、まずは視察です。ハイペリオンダンジョンは二年前に新しく発見されたばかりだと聞きました」
「二年前……。比較的に最近の話だな」
グレンが興味を示すと、得たりとばかりにオスカーが微笑む。
「しかも、そのハイペリオンダンジョンの通称をご存知ですか?」
「なんだ。やけに勿体ぶるな、オスカー」
「ふふ。貴方が興味を持つと思って、調べておいたんです」
懐から取り出した冊子をグレンに手渡す。東の冒険者ギルドがまとめた常設の依頼書に買取り表だ。
「ハイペリオンダンジョン。通称、『食材ダンジョン』です」
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