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〈成人編〉
39. 旅は道連れ 2
しおりを挟む金髪碧眼の冒険者、グレンは仔狼の尻尾を踏んづけたことを気にしているらしく、道中では何かと気に掛けてくれた。
いまだ警戒しているのか、じとっと上目遣いで見上げてくるアキラへせっせと食べ物を貢いでいる。
「ソロンの港街で売っていた魚の干物なんだが、彼にあげてもいいかな?」
ちゃんとナギにお伺いを立ててくれるあたり、律儀な人だと思う。
「これ、オスカーが見つけたんだが、結構美味しいんだ」
「いいですよ。ありがとうございます」
魚の干物だと見せてもらったものは、スモークサーモンのようだ。
鑑定してみたが、特に問題はなかったので笑顔で頷いておく。
食べやすいサイズに小型のナイフで削って仔狼に差し出している。
未だ警戒は解いていないが、好奇心と食欲には敵わないようで、アキラはそっと鼻先を近付けた。
スンスンと匂いを嗅いで安全性を確かめると、ぱくりと口に咥える。
「おお! 食ったぞ、オスカー」
「はいはい。食べましたね」
「ははっ。誰も取らないから、落ち着いて食べるといい。可愛いなぁ、オスカー」
「貴方のほうこそ落ち着いてください。ナギさんが引いていますよ?」
どうやら、かなり犬好きらしく、にこにこと微笑ましそうにスモークサーモンをかじるアキラを見つめている。
旅仲間のオスカーという黒髪の青年は、はしゃぐ彼を呆れたように見ていた。
でも、その眼差しは口調と比べてあたたかい。
(呆れてはいるけど、微笑ましそうに見守っている感じかな? うん、仲良しさんだ)
こっそり観察したナギはそう判断する。お坊ちゃんとその付き人という役割はありそうだが、ちゃんと信頼し合った友人でもあるのだろう。
大らかなグレンはナギにもスモークサーモンを分けてくれた。
お礼を言って、さっそく口にしてみる。もっちりとした肉厚のサーモンは塩加減もほどよく、保存食にしては当たりの一品だ。
「ん、美味しいですねコレ」
ナギが目を輝かせながら感想を口にすると、そうだろうと嬉しそうに胸を張るグレン。
「オスカーは美味いものを見つける才能があるんだ」
「人を食いしん坊のように言わないでください」
黒髪の美丈夫、オスカーが心外そうに言う。ちょっと恥ずかしそう。
「美味しいものを見つけることのできる才能は羨ましいですよ?」
「だよな。うん、素晴らしい才能だ」
お裾分けをきっかけに、三人はぽつぽつとお喋りを楽しんだ。
ナギは港街ソロンについて、二人はダンジョン都市について聞き出していく。
(南の『海ダンジョン』が近いから、港街なんて行ったことがなかったのよね。話を聞くと面白そうだから、エドと観光がてら遊びに行ってみたいな)
特に外海を航行する、異世界の船がどんなものなのか、見てみたい。
ダンジョン都市の南地区は海沿いだが、ダンジョンから漏れ出る魔素のおかげで遠洋に出向く必要がないのだ。
浅瀬でも漁場が豊かなため、漁船は小さいものばかり。
わざわざ危険を押して、外海まで出向かなくても、漁はできる。
何より『海ダンジョン』で魚介類は採取できるのだ。
(食材ダンジョンでドロップした魔道具の船のほうが南地区の漁船と比べても、はるかに大きいもの)
なので、大型客船がどんなものなのか、実際に見てみたくなったのだ。
仔狼も興味があるようで、二人の話に耳を傾けている。
(港街から来たということは、船旅をしてきたのよね? ダンジョン都市から離れた土地から来たっぽいし……)
ともあれ、この二人は人さらいの組織とは関係がなさそうだと判断して、ナギはほっと胸を撫で下ろした。
二時間ごとの小休憩を挟みつつの馬車旅は平穏そのもの。
途中、ゴブリンが二、三匹、街道沿いの茂みから現れたが、気付いたオスカーが懐から取り出した投げナイフのようなものできっちり仕留めていた。
「すごい! 今の、なんですか?」
興奮のあまり耳をぴんと立ててオスカーに訊ねると、苦笑された。
上着の内側から取り出して見せてくれたのは、棒手裏剣のような暗器だった。
ナイフというよりは、太い釘のような形状をしている。
先端が鋭く尖っており、スピードをのせて投擲すると、低ランクの魔獣や魔物は一撃で倒せるらしい。
「弓よりも手っ取り早いし、嵩張らないから重宝しています」
「そうなんですね。でも、私じゃ当てるのが難しそう。すごい腕前ですね」
「ありがとうございます。そういうナギさんは何の武器が得意なんですか?」
さらりと聞き返されて、うっと言葉に詰まる。得意なのは魔法です、なんて言えるはずもない。
獣人は人族と比べて、体力や腕力、素早さに特化した者が多いので、オスカーも何気なく聞いてきたのだろう。
(魔道具の弓で獲物を狩るのは得意だったけど、あれは自力じゃないもんね……)
的中補正や風魔法が付与された、特製の弓だったのだ。たぶん、誰でも弓の名人になれる魔法武器。
普通の弓を使えば、それなりとしか言えそうにない腕前だった。
【身体強化】スキルを使わなければ、矢を放つ腕力にも自信がない。
「あんまり、狩りは得意じゃなくて……。どちらかと言えば、解体と料理の担当です」
狩猟を得意とする黒狼族なのに? と突っ込まれるかと思いきや、二人はむしろ顔を輝かせた。
「解体ができるのか⁉︎」
「しかも、料理もできるなんて、すごいですよ。こんなに小さいのに」
「ちいさい……」
また言われてしまった。
やはり、今のナギは相当年下に見られている気がする。
年若い方が餌になりやすそうだと納得して、ナギは特に反論もせずに黙した。
ちなみに、あれほど彼らが料理をできることを大袈裟なほど褒めてくれた理由は野営のために休憩場に寄った際に分かった。
「ちょっと待って。いくら何でも、不器用すぎません?」
「うう……」
「これでも以前よりはできるようになったつもりなんですが……」
「せっかくのお肉が台無しじゃないですか!」
「すまない」
「反省しています」
大の男二人がしょんぼりと肩を落としているが、ナギは仁王立ちしてお説教タイム。
本日の野営地に到着し、テントを張ってから、さぁ夕食となった際に、炊事場から黒々とした煙が立ち昇っていることに気付いたのだ。
慌てて向かうと、グレンとオスカーの二人が最大火力で肉を焼き、炭化させていた現場とかち合ったのである。
「食材を無駄にするのは良くないです」
「申し訳ない」
「せっかくのフライパンが焦げついちゃって……」
しかも、よく見ると、ハーフドワーフのミヤ特製の野営料理セットではないか。
これはナギとエド、アキラの三人でミヤに発注したアウトドアに特化した調理器具のセットである。
軽くて嵩張りにくいものを、と試行錯誤して作ってもらった、せっかくのフライパン。
ナギは背嚢から取り出すフリをして【無限収納EX】からタワシを引っ張り出した。
「はい。グレンさんはフライパンの焦げを落として」
「……やってみよう」
「オスカーさんはそっちの森で獲物を狩ってきてください。今夜、美味しいご飯を食べたいなら」
「努力します」
今夜の食事が……と、あからさまにガッカリしていた二人が気の毒になって、つい声を掛けてしまった。
「まぁ、二人分増えたとしても誤差よね」
作り置きも兼ねて、いつも大量に調理する癖のあるナギは軽く肩を竦めてみせた。
仔狼はナギがテントを用意している間に、すでに夕食の食材を求めて森に駆けていったので、下準備をしておこう。
真剣な表情でフライパンをたわしで擦るグレンの傍らで、ナギはスープを作ることにした。
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