異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

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〈冒険者編〉

231. ローストディアとなめらかプリン 1


 四階層のセーフティエリアに移動して、コテージを設置した。
 昼食はワイルドディア肉を使ったローストディア。
 健啖家の冒険者八人分を用意するため、少し時間が掛かる。

「デザートのプリンも作るとなると、ちょっとお待たせするかもしれないんですけど……」
「待つわ、もちろん」
「美味しいご飯のためなら、我慢します」

 すかさず師匠二人が大きく頷いた。
 澄んだ瞳に迷いはない。そこまで? とナギがやや引いたところで、エドが「手伝おう」と申し出てくれた。
 『黒銀くろがね』の四人はもっと潔い。
 自分たちは料理が得意ではないから、と。昼食が出来上がるまで、引き続き四階層で肉狩りと胡椒集めに専念しようと宣言してくれた。

「仕方ないわねぇ。じゃあ、私も鹿肉を狩ってくるわ」
「ラヴィ、なるべく黒胡椒も手に入れて下さいね。私は薬草とベリーを摘んできます」

 師匠二人も弟子たちの手伝いは出来ないと判断したらしく、得意分野を選んだ。
 今のところ鹿肉に不足はないが、せっかく皆がやる気を出しているのでお願いすることにした。

(黒胡椒はいくつあっても困ることはないし)

 美味しい肉料理を作るために必要なら、彼らは喜んでレアドロップアイテムの黒胡椒を貢いでくれそうだった。


◆◇◆


 さすがに全員でバケツサイズのプリンに挑むのはどうかと我にかえり、普通サイズのプリンを作ることにした。
 とは言え、甘いお菓子もウェルカムな皆のことだ。一人前では到底満足できないだろう。

「ガラスの器と陶器を使えば、一人三個ずつは作れそうかな?」

 プリンの容器として使えそうな器をかき集めて確認してみる。
 なんでも仕舞ってある【無限収納EX】だが、さすがに限度があった。

「まぁ、好評だったら、また作れば良いし。三個食べられたら充分よね?」

 頬に指を当てて小首を傾げるナギにエドは胡乱げな眼差しを向けた。

「全然足りないとは思うが。とりあえず、ぴったり公平な数を用意しないと戦争になる」
「せん……冗談だよね、エド?」
「…………」

 そっと視線を逸らす少年を目にして、ナギはぴったり二十四個のプリンをテーブルに並べることを決めた。
 戦争は回避しなければならない。
 こっそり、仔狼アキラの分は確保しておくことも忘れずに。

「じゃあ、さっそく作りましょうか。エドはプリン液を作るのをお願いしてもいい?」
「ああ。指示してくれ」

 お揃いのエプロンを身に纏い、ナギはメインのロースト料理を。エドはデザートのプリン作りを担当することにした。
 鹿肉は綺麗な赤身部分を使う。筋は丁寧に剥ぎ取って、塩胡椒とハーブ類を表面に叩き込んで寝かせる。
 ロースト料理はシンプルだが、何せ今回は仕込む量が凄まじい。一人一キロサイズの肉塊でもぺろりと平らげる連中ばかりなのだ。
 コテージ内のオーブンをフル稼働して、焼き上げていかなければ。

 ナギがせっせと肉を仕込んでオーブンに放り込んでいる間、エドも真剣な表情で泡立て器を振るっている。
 今回はなめらかプリンにするため、スライムゼリーを投入した。
 大鍋いっぱいの牛乳と食材ダンジョンで入手した蜂蜜を火にかけ、沸騰させないよう気を付けながら混ぜ合わせてもらう。
 鍋の中身を冷ましている間に、手持ちでいちばん大きなボウルにコッコ鳥の卵を割り入れて泡立て器で解きほぐしていくエド。
 コッコ鳥の卵も食材ダンジョンで皆がゲットしてくれたお宝だ。
 ぷくりと膨らんだ黄身は綺麗なオレンジ色をしており、ナギはすっかり浮かれてしまった。

(これ、ぜっったいに美味しいやつ!)

 ここに先ほどの大鍋の中身を追加し、バニラエッセンスとスライムゼリーを混ぜて、よーく溶かしていけばプリン液の完成だ。

「できた」

 満足そうに口角を上げたエドがナギを見つめる。
 泡立て器を使うのは結構な力仕事なため、基本的にエドが担当することが多い。
 手慣れた仕草で滑らかなプリン液を作ってくれた少年をナギは存分に褒め称えた。

「うん、綺麗に混ざっている。さすが、エド! あとは、器に入れて魔道冷蔵庫で冷やしておきましょう」
「分かった。……他のプリンよりも簡単だな?」
「蒸したりオーブンで焼いたりしないからね。でも、このお手軽でチープな味のプリンが結構美味しいのよ」

 手間暇をかけたプリンは上品で贅沢な味がして、もちろん美味しい。
 だけど、ゼラチン入りのぷるんとした、滑らかな舌触りのプリンは何でもない日のオヤツにぴったりだとナギは個人的に思っている。

「魔道冷蔵庫で冷やしている間にカラメルソースを作っておいてね」
「ん、任された」

 こくりとエドが頷く。
 カラメルソースは何度か一緒に作ったことがあるので、レシピを覚えているのだろう。
 まぁ、鍋に砂糖と水を入れて、くつくつと煮込むだけなので、エドに任せておいても大丈夫。

「ただの砂糖水がどうしてこんなに美味いソースになるのか不思議だ」
「不思議よねー。どうせなら、たっぷり作っておく? 余ってもパンケーキやアイスに使えるし」
「良い考えだと思う。たぶん、師匠たちと黒クマ夫婦が大量におかわりする」
「あはは……」

 予言するかのように厳かに告げられて、ナギは苦笑するしかない。
 甘い菓子に目がないメンツはプリンもきっと気に入ってくれるはず。
 コッコ鳥の卵と蜂蜜、スライムゼリーと。これでもかと食材ダンジョンの素材を使っているので、美味しくないわけがない!

「さて、残りの鹿肉も焼いちゃおう。ベリーを隠し味にした、ほんのり甘酸っぱいソースも作ろうかな」

 焼き上がったローストディアに慎重に包丁を入れると、綺麗な赤身肉が花開く。
 肉の端を摘んで食べてみたが、文句なしに美味しい。黒胡椒と香草の風味も抜群だ。

「うん、良い焼き加減!」

 物欲しそうな眼差しを投げかけてくるエドにも肉を一切れお裾分けして、焼き上がったローストディアはいったん収納する。
 ローストビーフ系の肉料理は冷蔵庫で冷やして食べるのが好みだが、今は大量のプリンで占領されているので、今夜は焼き立てを食べることにした。
 空いたオーブンに仕込んでいた鹿肉を並べて、次々と焼いていく。
 滴る肉汁を使ったソースを作りながら、手早くサラダも用意する。
 面倒なので、レタスやベビーリーフをちぎった生野菜サラダだ。彩りが物足りないのでミニトマトも添えてみた。

「これだけだと、ラヴィさんが食べてくれないから……」

 オーク肉のベーコンとニンニクをみじん切りにしてカリカリに揚げたフライドガーリックをふりかけてみた。
 鼻先をくすぐる香りはなかなか強烈で、ダイレクトに食欲が刺激される。

「これなら、野菜嫌いでも食べてくれるよね?」
「食べると思う。むしろ、これだけ貪り食いたい」
「ご飯のふりかけにしても美味しいんだよね、これ」

 ちょっとした味変用にも使えるので、こっそりと重宝している。

「カラメルソースも冷蔵庫に入れておいたぞ。次は何を手伝えば良い?」
「作り置きのコーンスープを温めてくれる? あとはローストディアに合うパンの用意と」

 忙しなくキッチンを行き来していると、やがて賑やかな気配を感じた。
 
「ただいまー! 今夜は肉祭りよー!」

 ウキウキの白うさぎさんを筆頭に狩猟と採取チームが帰還した。



◆◆◆

お久しぶりです!
更新が遅くなり申し訳ないです。
まだ入院中なのですが、体調も良くなってきたのでリハビリに書いてみました!
久々すぎて書き方を忘れてましたね……
お見舞いのコメントたくさんありがとうございました。大事に読み返しております✨

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