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〈冒険者編〉
235. 探索を頑張りましょう 1
ダンジョン探索は順調に進んでいる。
【自動地図化】スキルのおかげでダンジョン内の地図や魔獣の位置が分かる案内人が二人もいるので、随分と楽な探索だとルトガーには苦笑された。
無駄な戦いを避けつつ、フロアボスを狙って最短で駆け抜けていく方法は有効で、一日で五階層も踏破してしまった。
ナギにのんびり採取する暇はなく【身体強化】スキルを使って、皆の後を追うのが精一杯。
幸い、ミーシャが精霊たちに「お願い」してくれたおかげで各階層の果物や野菜、野草など、たんまり手に入れることが出来たが。
「精霊さんたちが収納スキル持ちって、初めて知りました……」
「ハイエルフ並みの魔力持ちですからね。精霊たちは」
「そうなんですね。小さい身体なのに凄いんだ……」
セーフティエリアで休憩しているナギの眼前に、山盛りの素材が積み上がっていく様は圧巻だ。
フロア内で採取された大量の果物の中には、見たこともない果実や薬草も紛れている。色々な種類のハーブも採取されており、これも嬉しい。
精霊の姿は精霊魔法のスキル持ちしか見ることが出来ないらしく、エルフであるミーシャしか視界に捉えることが出来ない。
なので、ナギやエド、『黒銀』のメンバーたちには何もない場所から突然、果物の山が築かれていくという不可思議な光景が広がっている。
「……なるほど。精霊は収納スキル持ち、と」
「どちらにせよ、私たちには姿が見えないから、空から果物が降ってきたようにしか思えないわね」
呆然と何もない空間から果実が現れる様を見上げるルトガー。
キャスは肩を竦めて苦笑している。
「収納スキル、羨ましいな」
「ん。このダンジョンでマジックバッグがドロップすると嬉しい」
黒クマ夫婦は純粋に羨ましがっていた。
未踏破のフロアは手付かずなので、レアなお宝が入手できる確率は高い。
ナギはチートな収納スキルの【無限収納EX】持ち。
エドにはナギが作ったマジックバッグを幾つか渡してあるので、もしも今回の探索でマジックバッグが見つかったら、彼らに譲ってあげよう。
幾らでも自作は出来るが、さすがにそんな規格外の能力があることがバレるのは困るので、気軽にプレゼントは出来ない。
(ミーシャさんに聞いたことがある。今現在、容量の大きなマジックバッグを作れる魔道具職人は殆どいないって)
容量の増減は作成者の魔力量に比例するらしく、帝国の一流の職人でさえ荷馬車ほどの収納量のマジックバッグしか作れないのだとか。
(うん、私は余裕で三階建ての建物がそっくり収納できるくらいのマジックバッグが作れちゃってるね⁉︎ ……絶対に秘密にしておこう)
ダリア共和国はダンジョン都市のおかげで、ドロップしたマジックバッグがそれなりに流通している。
ただし性能によってはべらぼうに高価なため、冒険者連中は基本的に自力での獲得狙いだ。
『黒銀』のメンバー達も今回の遠征任務で収納の魔道具の便利さを痛感したようで、切実に欲しがっているのが伝わってきた。
「やっぱり便利だもんね、収納スキル」
うんうん頷くナギを呆れたようにエドが一瞥する。
「ナギの功罪だな。便利で快適すぎるダンジョン野営を経験したんだ。もう知らなかった頃には戻れない」
「そこまで⁉︎」
「…………」
こくり、と四人に頷かれてしまう。
申し訳なさに身を縮めながら、ナギはあらためてマジックバッグがドロップすることを強く願った。
「そ、それにしても上級冒険者の皆さんの本気、凄いですよねっ? 一日に三階層を踏破出来れば上々だと思っていたので、ビックリです」
まさか、五階層を一気に駆け降りるなんて思いもしなかった。
エドも認識を新たにしたようで、感心したように頷いている。
「だな。俺たちも頑張れば、どうにか出来そうだが……」
「無理だと思う。だって私たちは美味しいお肉はたくさん狩りたくなるし、珍しい果物も絶対に確保したいもの。それに「命大事に、楽しく」活動するのがモットーだから」
「そうだな。俺もナギが危ない目に遭うのは絶対に嫌だから、無理はしたくない」
二人の視線の先には、率先して魔獣を倒しながら進んだ『黒銀』メンバーとラヴィルが食事をする姿がある。
エドという道案内役はいたが、立ち塞がる敵を殲滅していったのは、主に彼ら五人。
当初の『一日三階層踏破』の目的はあっさりとクリアし、何なら五階層を一気に駆け降りている。
狩猟や採取に拘らなければ、ここまで早いのか、とナギは感心したものだった。
なるべく時間を掛けないで済むようにと、食事もサンドイッチやおにぎり中心。せめて美味しいご飯を食べて欲しくて、具材にはこだわっているが、少し味気ない。
具沢山のスープも用意し、サンドイッチにはお肉と野菜をたくさん挟んである。
おにぎりの時には串焼き肉を山盛り提供した。手掴みでさっと食べられるように工夫を凝らしたメニューは今のところ好評だ。
甘いお菓子を好む面々はデザートなしの食事が物足りなさそうな表情をしていたが、ジャイアントアントのドロップアイテムである琥珀糖をポケットに詰め込んで、時折口に放り込んでいた。
(琥珀糖がドロップするフロアを離れる時には断腸の面持ちだったよね、皆……)
黒クマ夫婦はもちろん、女子勢は後ろ髪を引かれながらも任務を優先していた。
血の涙を流す勢いだった彼らには、確保しておいた琥珀糖をそっと譲ってあげたナギである。
ジャイアントビーの蜂蜜は特に黒クマ夫婦のお気に入りで、いつもより戦闘に力が入っていたように思う。
魔蟲ゾーンは見た目が悍ましい連中ばかりだが、ドロップするアイテムは女子受けのよい素材が多いのだ。
もちろん高価買取の希望の星、アラクネのシルクもしっかり確保してある。
「この階層もあっという間に制圧したものね……」
「凄かったな。さすが、エルフ」
火が弱点のトレントはミーシャの火魔法で殲滅された。
大量のアイテムが手に入ったので、【無限収納EX】に全て収納してある。
質の良いトレント素材や魔石は買取額が美味しいので、良い小遣い稼ぎになるだろう。
当のミーシャはヒシオの実を興味深そうに観察しているが。
「これが、ナギが良く料理に使うミソの実なのですね。シオの実と同じく、不思議な植物です」
プラムと良く似た形状のシオの実は、醤油。ヤシの実そっくりのヒシオの実は割ると味噌が詰まっている。
異世界のビックリ植物だが、元日本人的には涙が出るほど有難い実だ。
「この大木になる実を根こそぎ採取しても、数時間後にはリポップするんですよ。ダンジョンに感謝しかないです!」
もちろん、ヒシオの実も全て精霊が収穫してくれた。お礼にマドレーヌをバスケットいっぱいに進呈したのは言うまでもない。
二日で十階層を一気に踏破したので、明日は休日だ。
丸一日フリーなため、それぞれ自己責任で過ごして良いとミーシャからも言われている。
のんびりと疲れを癒すも良し。
個人的に魔獣を狩って小遣い稼ぎをしても良いのだと言われたので、ナギは低階層のフィールドでスライム狩りをするつもりだった。
もちろん、エドはボディガードとして同行してもらう。
心配した皆から、あまり良い顔はされなかったが、低階層のスライムゾーンを中心に無理はしないと伝えたら、どうにか納得してもらえた。
「んー、じゃあ私たちはジャイアントビー狩りに行く?」
「良い提案ね、ラヴィ。ついでにジャイアントアントの琥珀糖も確保しましょう」
師匠たちは蜂蜜と琥珀糖狙いか。
黒クマ夫婦も蜂蜜と肉が欲しいようで、真剣な表情でリーダーのルトガーを説得している。
(うん、スライム狙いは私たちだけみたいだね? これなら、思う存分にアキラを走らせることが出来そう)
(そうだな。スライムゼリーはプリンの材料になるし、アキラには頑張ってもらおう)
エドと二人でこっそり小声で会話する。
ずっと我慢させられていた仔狼の張り切る姿が目に浮かぶようだった。
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