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〈冒険者編〉
249. 砂漠の果実
食材ダンジョンの探索は順調に続いていた。
三十五階層は砂漠のフィールドでラクダの魔獣、サンドキャメルが棲息している。
見上げるほどの巨体で、土魔法を操り地面を揺らして攻撃してくる厄介な魔獣だ。
巨体ゆえに、その動きは鈍重で、倒すのはさほど難しくなかったが。
ドロップしたのは土属性の魔石と皮。
あいにく肉は食用不可だったため、ナギとエドのテンションは低い。
「サンドキャメルの皮は軽くて丈夫な高級品だ。魔石も大物だし、買取り額が期待できそうだな」
「特殊個体は魔石と皮の他に、砂金も落としたから、このフロアは稼げそうね」
ルトガーとキャスは喜んでいるが、見渡す限りの砂山に美味しい食材は期待できそうにない──と諦めていたのだが。
何とフロアボスが居座るオアシスにはナツメヤシが生えていた。
「あれは、デーツ!」
「デーツ?」
途端にテンションが上がるナギに、エドは不思議そうに首を傾げた。
どうやら仔狼の記憶にはないようだ。
「デーツって何だ?」
「ナツメヤシの果実よ。栄養たっぷりで、ドライフルーツにしたら、とっても甘くて美味しいんだから!」
「美味いのか。なら採ろう」
途端にエドは琥珀色の瞳を輝かせて、フロアボスであるジャイアントサンドキャメルを睨み付ける。
ナギもやる気に満ちた眼差しを小山ほどの大きさの魔獣に向けた。
土魔法を発動されると面倒なので、ここは素早い討伐が必要。
足首まで砂に埋もれる悪路にもかかわらず、皆は果敢にフロアボスへと攻撃を仕掛けていく。
足踏みをすることで地震を起こすようなので、まずは四肢を狙った。
甲高い悲鳴を上げて地面に倒れたところを、ナギとミーシャの二人で風魔法を放つ。
最後にゾフィが大剣を振り下ろし、その頸を落としたところで討伐終了。
幸運値が高いナギも攻撃に加わったので、ドロップアイテムが気になるところだが。
「宝箱が現れたわ!」
「おお……! 魔道具か⁉︎」
キャスとルトガーの二人が真っ先に宝箱に駆け付けた。
皆が覗き込む中、宝箱の蓋を開けてみる。
黄金色の煌めきに、わぁっと歓声が上がった。
「金の延べ棒がぎっしり! まさに宝箱ねっ」
「こりゃあ、かなりの稼ぎになりそうだな」
キャスとルトガーが大喜びだ。
ミーシャは手帳のような物に戦果を書き記している。
ひょこり、と皆の脇から宝箱を覗き込んだナギはそれに気付いた。
黄金の延べ棒の下に、何かある。
「これ、何かな?」
「どれだ?」
「あら、まだ何か入っているの?」
エドとラヴィルが黄金の延べ棒を宝箱から運び出すのを手伝ってくれた。
果たして、黄金の下に眠っていたのは。
「キャメル色のショルダーバッグね。とっても素敵」
「ジャイアントサンドキャメルの革製だな。軽くて頑丈で、品が良い」
キャスとルトガーの評価は高い。
ナギは手にしたショルダーバッグを鑑定してみた。
「ルトガーさんの言う通りに、ジャイアントサンドキャメルの皮が使われたマジックバッグですね。容量はうちのコテージ一軒分くらい」
「なんだと……?」
「また、マジックバッグのドロップ⁉︎」
二人にはぎょっとされたが、やはりマジックバッグのドロップは珍しいのだろうか。
エドは何となく「やっぱりな……」という表情を浮かべている。
(もしかして、第一発見者の私の影響? 食べることが好きだから、食材たっぷりのダンジョンになって。マジックバッグのドロップ率が高いのは、私が【無限収納EX】スキル持ちだから?)
第一発見者の魔力と願望を糧にダンジョンは生成されるというのが、この世界の通説なのだ。
魔力ついでに、転生特典で授かったギフトも何らかの影響を与えているのかもしれない。
「良い情報を得られましたね」
上機嫌に微笑むミーシャ。
ルトガーとキャスは何とも言えない表情でぼそぼそと呟いている。
「希少なスパイス類や甘味、見たことがないような調味料に酒。良質な魔獣肉だけでなく、マジックバッグまでドロップするとなれば……」
「ここ、ハイペリオンダンジョンに冒険者が殺到しそうね」
金級間近のベテラン冒険者チーム『黒銀』の二人の評価が物凄く高そうだ。
ミーシャの様子からも、ギルドへの報告内容に期待がもてそうで、ナギは嬉しくなった。
(食材ダンジョンに冒険者が集まれば、スパイスや調味料が手に入りやすくなる……!)
第一発見者特典で安く買えるといいなぁ、と呑気に考え込んでいると、エドに肩を突かれた。
「ナギ、ここまま三十六階層へ向かうようだ。宝箱の中身の収納を頼む」
「ん、分かった。……なんだか、皆やる気になっていない?」
「稼げそうなダンジョンだと分かったからな」
すぐにでも次の階層へ挑戦したがっている『黒銀』のメンバーたちに急かされるように、ナギは宝箱の中身やドロップアイテムを収納していく。
幸い、ナツメヤシの実であるデーツはミーシャが精霊たちにお願いして、根こそぎ収穫してくれたようだ。
ありがたく、お礼のミルクキャラメルを捧げておく。
「さぁ、行くわよ。三十六階層!」
扉を押し開けるのは、ラヴィルだ。
今度美味しいお肉が狩れるといいわね、とナギにウィンクを投げかけながら。
◆◇◆
「疲れたー!」
コテージ内のリビングテーブルに突っ伏して叫ぶ面々にミルクティーを配っていく。
三十六階層に出没したのは、美味しいお肉が狩れる魔獣ではなく、何とゴーレムだった。
フィールドは廃墟になった遺跡の中で、ロックゴーレムがその遺産の番人で。
力任せに物理で攻撃するか、強い魔法で倒す必要があるので、ゴーレムのフロアはひたすら面倒くさい。
ドロップする魔石や鉱石の類は美味しいが、労力に見合った戦果かと問われたら、ナギは微妙に首を傾げるだろう。
「でも、宝箱が見つかったのは良かったですね。魔法書と魔道具が手に入ったし」
【自動地図化】スキルを発動させ、宝箱を見つけられたのはラッキーだった。
ダンジョン産の魔法書に魔道具は高値で買い取ってもらえるので、期待も高まる。
遺跡フィールドだけあって、宝箱は三つも見つけることができたので、苦労して回収に回ったが、稼ぎは大きそうだ。
「結界の魔道具に隠蔽効果付きのマント、生活魔法の魔法書の三点ね。どれも需要はありそうで、今から楽しみだわ」
キャスがにんまりと笑う。
魔法書は所有者が読み込み、魔力を流すと、記載された魔法を取得できる──かもしれない、魔法のスクロールだ。
使用した者が必ず使えるわけではなく、その魔法に適性がある者だけが取得の可能性があるらしい。
「生活魔法は便利だもの。特に冒険者は喉から手が出るほど欲しい魔法のひとつだわ」
「ラヴィさんも欲しいんですか?」
「もちろん、欲しかったわよ? 一度試してみたけど、私はダメだったのよねー」
金級のラヴィルはダンジョンの下層で魔法書を見つけたが、取得はできなかったようだ。
「着火に水生成、点灯も便利だけど、何よりも浄化の魔法が使えるようになりたかったのに……」
「分かる。私も生活魔法は欲しい」
「適性があるかどうかは分からないけど、自分たちで使ってみたいわよね……」
生活魔法なしの女性陣がかなり盛り上がっている。野営が続く冒険者には生活魔法は切実に欲しい魔法のひとつだろう。
ナギも大変お世話になっている。
今回の食材ダンジョン探索チームでは、ナギとミーシャ、エドの三人が生活魔法を使えるので、清潔かつ快適に過ごせていた。
「なら、魔法書は売らずに『黒銀』が使いますか?」
ミーシャの提案に、キャスが突っ伏していたテーブルから飛び起きて、顔を輝かせた。
「いいの⁉︎」
「まぁ、試すくらいは止めませんよ? 誰も適性がなければ、そのまま売却しましょう」
魔法を取得できた瞬間、魔法書は消滅するらしい。魔力を流して適性を確認するだけなら誰でもできるのだ。
大喜びで、さっそく魔法書を手に取って盛り上がる『黒銀』のメンバーたちをよそに、エドが腹を押さえて、ぽつりと呟く。
「腹がへった」
気が付いたら、いつもの夕食時間だった。
切なそうに眉を下げるエドには、本日手に入れたばかりのスーパーフードを握らせてやる。
「料理ができるまで、これを食べていたら良いわ」
「これは、デーツ?」
「うん。さっそく乾燥で干し果物にしておいたから、味見ついでに」
「……甘い。美味いな」
「でしょ? 干し柿に似た食感と味だから、美味しいんだよね」
生でも食べられるが、乾燥させた方がコクと深みのある甘さを味わえるし、保存食にもなる。
「種とヘタを取り除いて刻んでシリアルと一緒に食べたり、ヨーグルトにトッピングしても良さそう」
栄養があり、さらに美味しい食材が手に入って、ナギは上機嫌で夕食の準備に取り掛かった。
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