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〈冒険者編〉
259. ホットプレート料理
腹の虫が盛大に鳴り響いている皆のために、ナギは大急ぎで夕食の準備に取り掛かった。
主食である米やパンは事前に用意がしてあるので、メインの肉料理を手早く調理するのがベストだろう。
揚げ物料理は時間が掛かる。
煮物も今はダメだ。具材をトロトロに美味しく煮込むには揚げ物以上に時間が必要。
(ここはやはりステーキか焼き肉? バーベキューのようにセルフ調理をしてもらいながら食べさせるのが一番だけど……)
バーベキューはバーベキューで事前に下準備が必要なのだ。
食材を一口サイズに切って、肉をタレに漬け込んでおかなければ。
(今から、コテージの外にバーベキューセットを組み立てる方が手間ね)
室内でバーベキューや焼肉を楽しむのは危険すぎる。が、発想は悪くない。
「お家の中で食べられる、ホットプレート料理にしましょう」
「なるほど。良い考えだ」
エドも納得顔で頷いてくれた。
ハーフドワーフのミヤに作ってもらった魔道ホットプレートを四台全て【無限収納EX】から取り出す。
本当はホットプレートが一台あれば、四人が囲んで使えるのだが、この大食いメンバーなら二人で一台が必要だ。
心得たようにエドがテーブルに並べていく。そうして、向かい合わせで座る相手をそれぞれ二人一組とした。
「食卓を準備するから、先に席に着いてくれ」
「お、おう?」
ルトガーとキャス、デクスターとゾフィの男女ペアとなった。
戸惑いながらも『黒銀』の四人は大人しく席に着いてくれた。
あとは師匠コンビ、ミーシャとラヴィ。ナギとエドが向かい合わせになれば、いつでも食事を開始できる。
ホットプレートに魔石で火を点けて、まずは鉄板にバターの塊を落とした。
「二人組のうち、どちらか一人。調理に自信がある方が主導してくださいね?」
「ああ……」
「では、私が主導するわね。ルトガー」
戸惑うルトガーを押し退けて、キャスが笑顔でトングを手にする。
黒クマ夫婦は、旦那であるデクスターの方が調理に自信があったようだ。
ちなみに師匠二人は互いを見つめ合ったまま、微動だにしなくなった。
エドはため息まじりに、そっと片手を上げた。
「ナギ、師匠たちのホットプレートは俺が面倒をみよう」
「ありがと、エド。助かる!」
バターがほどよく溶けたところで、ザク切りにしたキャベツと薄く短冊切りにしたニンジンをホットプレートに敷き詰めていく。
ここに特製のタレに漬け込んだハイオークの薄切り肉を重ねて置いた。
「あとは蓋をかぶせて、蒸し焼きにすれば完成です」
にこりと笑って告げると、皆驚いたようだ。「これだけでいいの?」と戸惑っている。
「肉と野菜は用意しておくので、皆さんは先程の要領でセルフ調理をお願いします」
「分かった」
一斉に各自で作れるので、大勢での時短メニューにはホットプレートが最適だ。
蒸し焼きにするので、食材の栄養や旨味を損なうことなく、美味しく頂ける。
「火が通ったようなら、お好みで塩胡椒を追加してください。あ、このガーリックチップスを散らして、追いバターをするともっと美味しくなると思います!」
「美味そうだな、それ」
ナギの説明を聞いた誰かがゴクリ、と喉を鳴らした。
もちろん、各種調味料はそれぞれテーブルにセッティングしてある。
エドは真顔で醤油入りの小瓶を手に取った。
「ちなみに俺は塩胡椒よりも醤油が合うと思う。バターと醤油の最強な組み合わせはもう知っているだろう?」
「……ッ! たしかに、バター醤油があれば肉も野菜も一段上の味に昇華される……」
ルトガーが醤油の瓶を手に取った。
だが、デクスターは別の容器を手にする。それはマヨネーズだった。
「デクスター! 貴方、それは……っ」
「バター醤油も美味いが、マヨネーズ醤油も捨てがたい。俺たちはマヨネーズを信じる」
「ん、もちろん追いバターもするけど、私たちはそこにマヨネーズと醤油を追加する」
「なんて贅沢な……!」
四人組の『黒銀』パーティが葛藤している間、師匠二人はエドが手早く蒸し焼きにしてくれた肉野菜炒めを美味しそうに頬張っている。
こちらはシンプルに塩胡椒と追いバターで楽しんでいた。ガーリックチップスは多めです。
野菜はシャキシャキ、肉は柔らかく仕上がったようで、満足そうな表情だ。
「食べ終わったら、追加分の野菜と肉を入れてくださいね?」
肉は何種類か用意してあるので、都度食べたい肉をセルフで調理してもらう。
ハイオーク肉の薄切り、コッコ鳥の削ぎ肉、ディア肉はハンバーグを。
肉だけでなく、魚の切り身も用意してある。ムニエルにしても美味しい、キングサーモンだ。
(ちゃんちゃん焼き、美味しいんだよね)
これはナギの好みでそっと追加しておいた材料である。
ホットプレートで作るちゃんちゃん焼きはフライパンで作るより美味しく感じるのは何故なのだろうか。
合わせ調味料も作ってある。味噌と砂糖、みりん、日本酒とマヨネーズを合わせて。
スライスした玉ねぎとキノコ類も忘れずに添えた。
「うめぇな、これ」
「材料を放り込んで蒸し焼きにしただけの料理なのに、驚くほど深い味……」
「うまい」
「おかわりしよう。次は魚」
シンプルだけど、元の素材が良い物ばかりなので、美味しく感じるのだろう。
(自分たちで作りながら食べるのも美味しく感じる理由のひとつなのよね。あとは、最大の調味料、空腹を抱えていたし)
くすりと微笑みながら、ナギもホットプレート料理を堪能する。
旨味をぎゅっと凝縮させたような味にほうっとため息がこぼれ落ちた。
優しくて、ほっとする味だ。
皆でわいわい騒ぎながら口にする、その至福。
堪らず、ルトガーが荷物から酒瓶を取り出した。
「すまん! 一杯だけ飲ませてくれ!」
「ルトガー……」
「うっ……後生だ、キャス。だが、この飯には酒が合うと思うんだ」
「仕方ないわね。私にも一杯くれるなら、目を瞑るわよ?」
「おお! 飲め飲め!」
ミーシャの反応が気になったが、特に注意はしないようだ。
ギルドからのメイン任務は済ませてあるので、少しばかりの狼藉には目を瞑ってくれるのだろう。
(お酒、いいなー……)
ちゃんちゃん焼きを食べながら、恨めしそうに酒を飲む四人を横目にする。
せめて気分だけでも、と。自分たちに用意したのはジンジャーエールだ。
生活魔法でグラスごと冷やして、ホットプレート料理と一緒に味わう。
「うん、美味しい」
「炭酸が喉を刺激してスッキリするな」
「だね。生姜の辛味と蜂蜜の甘さが絶妙!」
美味しそうに飲んでいると、ミーシャとラヴィの二人にもねだられてしまった。
「あ、そういえば主食を忘れていたかも」
ご飯もパンも出すのを失念していた。
気付いた時には、おかずはほぼ食べ切っていたので、仕方なく、とっておきの仕込みを解放することになった。
「シメのお好み焼きです!」
料理が面倒な時に、さっと焼いて食べようと用意していた、お好み焼きの生地を【無限収納EX】から取り出した。
一人前ずつボウルに用意してあったので、ちょうど良い。
十人前ほど作り置いていたため、二人分はそのまま収納内にキープ。
(仔狼とコテツくん用ね)
ボウルの中の生地は、小麦粉と出汁、コッコ鳥の卵に山芋に似たイモをすりおろし、みじん切りのキャベツを混ぜ合わせた物が入っている。
「エド、作り方は分かる?」
「ん、大丈夫だ」
まずは『黒銀』の四人の分から焼いていくことにした。
ホットプレートは浄化魔法で汚れを取り除いて、油を引く。
ほどよく熱されているので、そのまま生地を鉄板に流し入れる。
「今回は豚玉にしましょうね」
スライスしておいたオーク肉を生地に重ねて、あとは焼き色がつくまで放置だ。
エドも手早く、師匠二人のお好み焼きを焼き始めた。
ジュウジュウと耳に心地良い音が弾ける。
「美味そうな匂いがしてきた」
「ん、片面が焼けましたね。ここで、ひっくり返します」
じゃん、と取り出したのはハーフドワーフ工房で作ってもらった、お好み焼き用のコテだ。二本使いをして、ひょいひょいとひっくり返していく。
その度、うおっとか叫ばれて、ちょっとうるさい。
玉子焼きを焼いていても、そういえば同じように感心されていた。
「焼き上がりましたよー。あとはソースとマヨネーズ、青のりをお好みでどうぞ」
自作の鰹節は少ししか無いので、今回は使うのを諦めた。あれは、とっておきだ。
ソースとマヨネーズがあれば、充分美味しく味わえるので。
懐かしい味にうまうまと舌鼓を打つエドとナギの傍らで、皆が大騒ぎしていたが、おかわりはありません。
「美味しかったね」
「ああ。ホットプレート料理はいいな。ナギが楽そうだ」
「そうね。毎日は厳しいけど、たまには良いかも」
鍋やバーベキューもセルフ形式にすれば、料理人も気楽に食事を楽しめるのが良い。
「ふふふ。きっと、コテツくんと仔狼が焦れているだろうから、今夜は早めに寝室へ行こうね」
予想通り、可愛いモフモフたちに盛大に出迎えられることになるナギだった。
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