異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

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〈冒険者編〉

277. 猫の手貸します 2

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 冒険者がてっとり早く稼ぐのは、やはりダンジョンが効率的だ。
 何せ、ダンジョン内だと魔獣や魔物が向こうから襲ってくるので、獲物を探す手間も省ける。
 スキル内で自動解体が可能な『無限収納EX』持ちのナギには当てはまらないが、ダンジョンだと倒した獲物の剥ぎ取りの手間も不要。
 ドロップアイテムには解体された塊肉もあるため、食材にも困らない。

「当たりの魔道具がドロップすると、かなり稼げるのよね」
「魔石はあまり高くはないが、必ずドロップするから地味に稼げる」
「宝飾品も高価買取の対象だから、サハギンが出没する海ダンジョンは結構美味しい稼ぎ場なの」

 南の海ダンジョンへ向かう道すがら、ナギとエドの二人は従魔の印である首輪を着けたコテツに『稼げる』ドロップアイテムについて説明する。

 自分もダンジョンで稼ぎたい。
 そう、居候の猫の妖精ケットシーに訴え掛けられて、最初は難色を示したナギだったが、エドの口添えもあって付き添うことにしたのだ。
 冒険者ギルドで従魔登録をして、二人と一匹でダンジョンに挑むことになった。
 ちなみにワイルドキャットという種族で従魔登録をした。
 さすがに、幻獣と呼ばれる猫の妖精ケットシーでは登録ができないので。
 ワイルドキャットは魔獣ではないが、小型の肉食獣で狩りが得意だ。
 前世でいうヤマネコに近い種族で、イエネコと違い、凶暴だと恐れられているが──

「コテツは人気だったな……」

 ぽつりとエドがつぶやく。
 ナギもこくりと頷いた。

「そうね。南のギルドで受付嬢にネコ可愛がりされていたもの」

 美人揃いの受付嬢にかわいいと持て囃されて、ネコを被ったコテツはきゅるるんと甘えていた。
 冷ややかなナギの視線に気付いたキジトラ猫は、エドの肩の上でそっと香箱座りをして寝たフリをする。
 ずいぶんと人間くさい妖精だ。

「まぁ、いいわ。ほら、念願のダンジョンよ。短期間で一番効率良く稼げるのは鉱山ダンジョンだけど、私たちとは相性が悪いから、今回は海ダンジョンね」
『うみ!』

 ダンジョン化した南の無人島が見えると、途端にそわそわとする。
 落ち着きなく、エドの肩を歩き回るため、乗り物扱いされている当人に回収されてしまった。
 強制的に腕に抱っこされたコテツが、身を乗り出すようにして島を見据える。

『うみのさち、いっぱい?』

 どこで覚えた言葉なのか。
 期待に輝く瞳に見詰められて、ナギは小さく笑った。

「海の幸、採り放題よ。お腹いっぱい海産物を楽しみましょうね」
『ん! ちびたちにおみやげ、する!』

 ニャッと張り切る姿が健気で愛らしい。
 ちなみに、子猫たちはお家でお留守番をしている。
 二匹だけを残していくのは不安だったが、精霊に子守りを任せてくれたようだ。
 うちにも精霊がいたの⁉︎   と驚いたのは内緒だ。
 コテツと相性の良い植物の精霊は自然の多い場所やダンジョンに生息しているらしく、我が家の前の森を棲家にしていた精霊たちに頼み込んだとのこと。
 スキル部屋で連れて行くことも可能だったけれど、お留守番を覚えるのも大事とのことで、泣く泣く置いてきた。

「ちびちゃんたちへのお土産……。お魚だね! 美味しいの、たくさんゲットしちゃおう!」
『おさかな! まぐろ!』
「マグロ美味しいよねぇ。じゃあ、今日はサハギン狙いだね!」

 稼ぎが第一目標だが、美味しい食べ物は別腹です!

「そうすると、八階層でサハギン。十階層でビッグシェルを狩るか」
「サハギンの宝箱とビッグシェルの真珠狙いね。いいと思うわ。ついでにメロンも採取しちゃいましょう」

 ビッグシェルは大きな真珠がドロップするし、中の貝柱が絶品なのだ。
 
「貝柱のお刺身がすごーく美味しいのよね……」
「ああ。貝本体よりも貝柱が絶品だな。刺身も良いが、フライにしても美味い」
「本物のネコちゃんには、加熱したら少量なら食べさせても良かったはず……」

 猫用オヤツにホタテ味があったことを思い出す。……まぁ、彼はネコちゃんではなく、妖精なので何を食べても問題はないようだが。

『おさしみ! ふらい!』

 嬉しそうな念話が伝わってくる。
 貝柱は好きなようだ。だが、念のために子猫たちへのお土産はお魚だけにしておこう。

「あれが、海ダンジョンの入り口だ。行くぞ」

 エドが肩に座るコテツの背中を優しく叩いてやると、ワイルドキャットの設定を思い出したのか。周囲の冒険者たちに愛想良くニャアと鳴いてみせていた。


◆◇◆


 海ダンジョンが初めてなコテツのため、一階層から攻略し直すことになった。
 幸い、混雑した時間を避けたため、並ぶことなくダンジョンに入ることができた。
 一階層の洞窟フィールドの海ゴブリンは、エドが屠ってくれる。
 コテツがドロップした魔石を拾おうとしたが、ナギはそれを制止した。

「私がまとめて回収するから、拾わなくてもいいわよ?」
「ニャ?」

 不思議そうに首を捻るコテツにニヤリと笑って見せて、目視でドロップアイテムを回収する。
 精霊魔法より便利! と素直に喜ばれてしまった。
 ゴブリンからドロップするのは魔石と所持している草臥くたびれた武器くらいなので、死骸をまるっと収納するつもりはない。
 ドロップする魔石だけ回収していく。

「海ゴブリンの水の魔石はそこそこ良い値で売れるから、残さず確保するのよ」
「ニャッ」

 とりあえず、目指すは稼げる階層なので。
 二人と一匹は黙々と下層を目指して突き進んだ。


◆◇◆


 途中、確保したい魔獣の肉を狩ったり、美味しそうな果実を採取したりの寄り道も交えつつも順調に進んで──

「八階層! さぁ、サハギンを狩るわよ!」

 海の上、飛び石になっている岩の上を身軽く駆けながら、海から襲ってくるサハギンを倒していく。
 今回は海ゴブリンと違い、エドやコテツが倒してくれたサハギンをドロップアイテムに変化する前に、素早く【無限収納EX】に回収した。
 これで、素材は全採りだ。
 水の魔石に錬金素材となるヒレ、そして当たりドロップである宝箱もまるっと手に入る。

(私たちが自力では捕まえることが難しい、大型のお魚さんたちがたくさん入っていたら嬉しいなー)

 くふふ、と笑いながらも、足元に忍び寄ってくるサハギンをファイアボールの的にしてやる。
 焦げたサハギンをすかさず回収。

「マグロにカツオ、イルカサイズのクジラ肉も食べたい。イカやタコ、エビも欲しいなー」

 うきうきとサハギンを収納する。
 サハギンのスキル箱を開ける瞬間がナギはたまらなく好きだった。
 普通の宝箱よりも興奮しながら開けている。
 だって、中身は海の宝石箱なのだ。

 大型の魚や珍しいエビやイカ、タコだけではない。
 美味しい和食には必須な昆布や鰹節、ワカメなども手に入るのだ。
 2メートルサイズの巨大なサーモンの腹からイクラが取れた時には、喜びのあまり踊り出してしまった。
 魚卵は美味しい。今のところ、なぜか街の人々はこの味を知らないようなので、市場で見かけたら積極的に買い占めている。
 捨て値で大量に確保できた日は、贅沢な海鮮親子丼をお腹いっぱい味わったものだった。

「せっかく海ダンジョンで仕入れることができたことだし、今夜は新鮮な海鮮丼を食べよう!」
「意義なし」
『いぎなし!』

 エドの真似をする猫の頭をひと撫でして、二人と一匹は張り切ってサハギン狩りに没頭した。


◆◇◆


 八階層を一掃したところで、お昼休憩だ。
 岩の上では落ち着かないため、次の階層へ移動する。九階層は砂浜とジャングルが広がる小さな島フィールドだ。
 転移扉の側のセーフティエリアにタープを設置して、快適な日陰を作ると、昼食の準備に取り掛かる。
 のんびりお家時間を満喫していたところ、突然のダンジョン行きとなったため、いつものようなお弁当や作り置き料理がない。

「そういえば、鮭の在庫が少しあったわね。土鍋で炊いておいたご飯もあるから、おにぎりにしようかな」

 フライパンにごま油を引いて、塩鮭を焼いていく。ほぐした鮭の身とワカメを混ぜて、おにぎり作りはエドに任せる。
 ナギはその間、大急ぎで味噌汁と厚焼き卵を作った。
 
「さ、急いで食べちゃおう!」

 エドが握ったおにぎりはナギが作るものよりも、ひとまわり大きい。
 ここではマナーなんて誰も気にしないので、ナギは大きなおにぎりを両手で持ってかぶりついた。

「んふふ。おいしーい」
「ごま油のおにぎり、美味いな」
「意外といいでしょ? 胡麻をまぶしても良いんだけど、ごま油の方がおにぎりがまとまりやすいのよ」

 こってりし過ぎそうなところを、ワカメがさっぱりと纏めてくれている。
 お味噌汁はジャガイモと玉ねぎ、ベーコン入り。厚焼き卵にはとろけるチーズを仕込んだので、食べ応えがあると思う。
 コテツの口にも合ったようで、んまんまとたくさん食べてくれた。
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