異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽

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〈冒険者編〉

283. 指名依頼ふたたび 2

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「振られちゃったぁ……」

 もう何度めかのため息を吐く。
 エドが呆れたように見てくるが、こればかりはどうしようもない。
 だって、振られたのだ。猫さんに。
 ショックを受けるのも仕方ないと思う。

 冒険者ギルドからの指名依頼を受けることを決めたのだが。
 当然一緒に行動してくれるものだと思い込んでいた猫の妖精ケットシーのコテツが、ナギの誘いをあっさりと断ったのだ。
 本猫ほんにゃん曰く「ここでお留守番する!」とのことで。

「ありがたいことじゃないか。屋敷の管理と畑や果樹の世話をしてくれるんだろう?」
「そうだけど……」

 エドに宥められて、どうにか気持ちを立て直した。
 そう、コテツは宣言通りに『お留守番』を買って出てくれたのだ。
 長期間泊まり掛けでダンジョンに潜る際には、ナギは大切な『家』を【無限収納EX】に収納する。
 結界や隠蔽用の魔道具は使っているけれど、留守中に何があるのか分からないので、念のための処置だ。
 実際、食材ダンジョンでの指名任務では、二ヶ月も自宅へ帰れなかった。
 屋敷は【無限収納EX】に保管してあったので無事だったが、持ち歩けない庭や畑は残念ながら、荒れてしまっていた。

 それを、猫の妖精ケットシーのコテツがまるっと面倒を見てくれると言うのだ。
 生活魔法を使いこなす有能で綺麗好きなキジトラ猫は屋敷のメンテナンスはもちろん、得意の植物魔法で果樹や畑の世話をすると申し出てくれた。

 どうやら、ナギのスキルの小部屋よりも、この家を気に入ってくれたようで。
 森が近く、自然豊かな場所にあることが、子猫たちの育成にはとても良いらしい。

「猫は家につく、っていうもんね……」
「ああ、よほど気に入ったんだろう。コテツが家を守ってくれるなら、安心だ」
「それはそう。私たちより強いもんね」

 そこは心配していない。
 ショックだったのは、猫さんたちと触れ合えなくなるのが悲しかっただけで。

「諦めろ、ナギ。しつこくし過ぎると、猫には嫌われるぞ」
「うぅぅ……」

 エドに説得され、ナギは渋々諦めた。

 指名任務に発つのは三日後。
 基本的に【無限収納EX】に物資はいつも保管したままなので、特に荷造りも必要はない。
 なので、その三日の間にナギはコテツに料理を教え込んだ。
 醤油や味噌などの調味料の使い方を説明し、簡単なレシピを伝授する。
 エドはパンの作り方を教えてあげていた。
 子猫たちもパン生地を捏ねる作業が気に入ったようで、嬉々として揉み込んでおり、愛らしさに身悶えしたのは内緒です。


◆◇◆


 そんなこんなで、三日後。
 子猫たちを抱き締めて別れを惜しみ、笑顔で見送るコテツに後を任せて、二人はダンジョン都市を発った。

 移動はナギが作り出したゴーレム馬車を使う。本物の馬と違い、疲れ知らず。
 悪路を気にせず駆け抜けてくれるので、急ぐ旅にはちょうど良い。
 ゴーレム核にたっぷりの魔力を込める必要があるので、他の冒険者たちと一緒に行動する際には使いにくいのだが。
 
「二人っきりだと気兼ねなく使えるから最高よね!」

 とはいえ、スピードを出すと、その分振動が激しくなるのは困りもの。
 ふかふかなクッションやダメージを軽減する効果のある魔物の皮などを使って、どうにか下半身へのダメージを逃している。

 三時間ごとに休憩を取りつつ、ゴーレム馬車を走らせて、夕方近くになると野営した。
 野営場所は街道から外れた林や森の中、人通りの少ない岩山の陰などを選ぶ。
 設置するのはテントではなく、コテージだ。前回の調査任務でも大活躍した小さな木造小屋を今回も使うことにした。

「これに慣れちゃったら、テント暮らしはキツいのよね……」
「ナギの魔道テントも充分立派な物だがな」
「高価な魔道具だからねー」

 性能の良い魔道テントはダンジョンでのドロップアイテムだ。
 一人用の小型魔道テントは職人が作った魔道具で、比較的安価に手に入るらしい。
 
「でも、コテージの快適さには敵わないわ」

 邪魔な樹木は【無限収納EX】に回収して、拠点用の広場を確保する。
 土魔法で地面を固めると、コテージを取り出して設置した。

「結界の魔道具も発動!」

 ここはまだ大森林から遠い場所なので、魔獣の気配はほとんど無いが、念のために結界は作動させておく。

「今日はのんびりお風呂に浸かりたい気分だわ」
「俺は肉をガッツリ食いたい気分だ」

 軽口を叩きながら、二人でコテージに入る。
 前回は師匠二人と『黒銀くろがね』の女性メンバーたちが寝泊まりするため、リビングを拡張してシングルベッドを四台並べていたが、今はエドとふたりきり。
 シングルベッドは回収し、リビングの壁際には一時的に撤去していた本棚を戻してある。
 ナギ的には同室でも全く気にならないのだが、かたくなに拒絶され、寝室は別にしてある。
 一部屋だけある個室をナギに譲り、エドはリビングに自身のベッドを置いて、そこで眠りにつくようだ。

(どうせ夜は仔狼アキラに変化するくせに)

 ちょっとだけ寂しいが、我慢する。
 交代で風呂に入り、夕食を作ることにした。

 短い休憩時間中に食べるため、ランチは簡単に摘めるサンドイッチやおにぎりにしている。
 朝食もいつもより少なめで、消化の良いメニューで用意した。
 食べすぎると、馬車酔いしやすいからだ。
 馬車移動中に腹を壊すと大変なので、内容にも気を付けている。
 なので、夕食はボリュームたっぷりの肉料理を食べることにした。
 とっておきのワイバーン肉を使い、ガーリックステーキ丼を作る。野菜たっぷりのポトフを添えて、舌鼓を打った。

 食後の紅茶を味わいながら、ナギはため息を吐く。

「コテツくん、ちゃんとご飯食べたかな」
「料理を教えながら、大鍋で大量に作り置きしておいたんだろう? なら大丈夫だ」

 寸胴鍋いっぱいに、コテツや子猫たちが大好きなクリームシチューやミネストローネを作ってある。
 揚げ物は保護者が一緒の時でなければ怖いので、作り置き分をたっぷり渡してきた。
 唐揚げにカツ、フライ、天ぷら。
 大喜びで【アイテムボックス】に収納していたので、今頃美味しく食べているかもしれない。
 ナギのことを「甘いぞ」と呆れるように見つめてくる、そういうエドこそ、大量の菓子パンをコテツにそっと渡していたのを知っている。

「かわいい子には旅をさせろって言うけど、うちは逆ね。かわいい子にはお留守番させなきゃ」

 はぁ、と嘆息まじりに呟いた内容が可笑しかったらしく、エドにふはっと笑われてしまった。


◆◇◆


 東の冒険者ギルドで託された荷物は建築用の資材や工具類が占められていた。
 木材は大森林から伐採して使うらしい。
 
「私たちは途中で獣人の街、ガーストに寄るのよね?」
「ああ。エイダン商会で荷物を預かり、それをダンジョン前まで運ぶ依頼だ」

 エイダン商会で預かる荷物は、食材や調理器具、日用品の類だと聞いた。
 食材といっても、小麦粉や米などの穀類が中心だ。その他に必要な食材は、現地で自力入手せよと冒険者たちには指示されていると聞いた。

「まぁ、すぐ目の前に食材ダンジョンがあるもんね。食料には困らないわ」
「ダンジョン前を開拓する連中と、その護衛役の冒険者。木こりに大工に調理人は先に向かっていると聞いたが」
「らしいわね。あと、エイダン商会がダンジョン開発のスポンサーに加わったみたいで、開拓現場で采配をふるってくれるそうよ」

 必要な資材や物品の手配、食材ダンジョンで仕入れた品もその場で買い取ってくれる、支店もどきの店も置いてくれるらしい。
 
「調理人はリリアーヌさんの紹介だって聞いたわ」

 ガーストの街で追加の荷を受け取って、ハイペリオンダンジョン前まで運び、調理人にレシピをいくつか伝授すれば、後は自由行動なのだ。

「まずはスパイス。美味しいお肉と珍しい食材や調味料も狙いましょうね」
「ああ。ついでに、ギルドと商会が喉から手が出るほど欲しがっているマジックバッグも手に入れるか」

 二人でにんまりと笑い合う。
 食材はあまり売りたくないので、稼ぐとしたら魔石や素材、魔道具を狙うつもりだ。
 中でも高値がつくマジックバッグは是非ともゲットしたい。

(容量が少ないマジックバッグは私が空間拡張機能を付与すれば、高く売れるしね!)

 最低でも1ヶ月間はかわいい猫さんたちと会えなくなるのだ。

「稼ぐわよ、エド」
「分かっている。旨い食材と金貨を山ほど土産にして帰ろう」
 
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