196 / 279
〈冒険者編〉
302. 六十一階層 2
しおりを挟む六十一階層のフロアボス、アイアンゴーレムを無事に倒すことができた。
フロアボスだけあって、かなりの強敵だったが、ナギの火魔法で弱らせて、エドの戦鎚で破壊した。
ドロップアイテムはゴーレム核と大量の鉱石だ。これはドワーフ工房のミヤにお土産として渡すことにする。
「鉄鉱石か半分、軽鉄鉱石が半分。どっちも調理器具や魔道具の材料になるから、きっと喜んでくれるわね!」
どちらも良質なことは鑑定スキルで確認してある。
「今度は何を頼むつもりなんだ?」
面白そうな顔をしたエドに問われて、ナギは胸を張った。
「まずは、ピザカッターね。開拓地食堂であれだけピザが人気になったんだもの。きっと、エイダン商会は商機を逃さないはず」
「つまり、ピザカッターが売れる、と」
「あったら便利でしょう?」
ピザカッターだけでなく、ピザピールにピザサーバーも売り出してみるのもいいかもしれない。
あると便利なパイブレンダーもついでに売れそうな気がする。パイ生地はもちろん、ピザやパン生地を捏ねるのにも使えるのだ。
開拓地食堂では、ピザ窯で焼くピザを食堂の客が目を輝かせながら眺めていた。
ピザを作る様子も興味深そうに観察する客が多かった。
(なら、ピザを作る過程をエンタメ化すればウケるのでは?)
前世、サービス精神に優れたピザ職人が客の前でピザ回しを披露したように、パフォーマンス化すれば、話題になりそうだと思う。
「うん、お上品なレストランでは無理でも、大衆食堂や屋台だとウケそうだと思わない? リリアーヌさんにプレゼンしたら、まとめてピザセットをたくさん買い取ってくれそうな気がする」
「やけに乗り気だな」
「だって、ピザは美味しいけど、自分で作るのはちょっと面倒じゃない?」
「…………」
いちばん、それが骨身にしみているのは自分かもしれない。
エドは遠い目になりながら、こくりと頷いた。
どんな具材にしようかと楽しく考えて、トッピングを散りばめる作業は楽しい。
が、焼くのは暑い。窯の前で焼き具合を確認する必要があるのだ。
熟練のピザ職人なら感覚で理解するのかもしれないが、本業が冒険者なエドにはそこまで極めるつもりもない。
「そうだな。ここはぜひ、リリアーヌ嬢の胃袋をピザでつかんで、チェーン店展開してもらおう」
「ね! いつでも美味しいピザが食べられるようになるなんて幸せよねー」
ナギにとって、専門店でピザを購入するのはちょっと特別な日の贅沢という気持ちが大きい。
前世の彼女にとって、ピザはご褒美的なファーストフードだったのだ。
大きな契約を取れた日や誕生日や記念日、女子会でも宅配ピザは大活躍だった。
仕事が立て込んで疲れ切った時にもお世話になったことがある。てっとりばやくカロリーを摂りたい。でも、何も作りたくない。できれば美味しい特別なご馳走を。
そんな時にも宅配ピザは重宝したものだった。
(スーパーで売っている冷凍ピザも悪くはないけど、やっぱり専門店で焼いてもらったピザが美味しかったのよね)
ピザだけでなく、サイドメニューも美味しく感じたものだ。ついつい頼んでしまう。
「ダンジョン都市でも宅配ピザのお店をやってくれないかなぁ……?」
「それは難しいだろう。まず、注文方法がない」
「だよね……ファンタジーな異世界だもんね、ここ」
「テイクアウトは人気が出るんじゃないか」
持ち帰りにくそうな形をしているが、カットしてピースで売ればいけるだろうか。
ダンジョン帰りの冒険者が夕食として買ってくれそうではある。
「まぁ、まずはリリアーヌ嬢を口説き落としてからだな」
「そうね。頑張って、ピザ沼に堕としてみる」
物騒な発言を、賢明なエドは聞かなかったことにしたようだ。
「それはそうと、俺はてっきり、いちごを調理する道具を作るのだと思っていた」
「いちごを? んー……それねー。思い付くのは、いちごスプーンくらいだったのよ」
「いちごスプーン?」
「アキラも知らないかー。かなり昔の調理器具だものね」
いちごスプーンは日本生まれの発明品だ。昔のいちごは酸味が強かったので、潰して砂糖とミルクで食べていたらしい。
いちごの形をしたスプーンは、品種改良されて甘いいちごが増えると、需要が無くなったとかで、めっきり見かけなくなった。
ナギが知っていたのは、たまたま実家にあったからだ。
祖父母の時代のカトラリーで、いちごミルクにはしなかったが、いちごのジャム作りやニンニクをすり潰す際に使っていたように思う。
ミヤに依頼して作ってみてもいいが、ダンジョン産のいちごはかなり甘いので必要なさそうだった。
「でも、いちごミルクは美味しいから、今度作ってみようね」
「それは、コテツたちが好きそうだ」
「きっと大好きになると思う」
エドの頑張りのおかげで、ナギの【無限収納EX】には生クリームの在庫がたっぷり収納されている。
生クリームがあれば練乳が作れるので、今夜のデザートにしよう。
「さて、ちょうど良い時間だし、セーフティエリアでお昼休憩にしよう」
「そうだな。これだけ広ければコテージも出せる」
フロアボスがいた空間が一時的なセーフティエリアになるので、コテージを出そうとして──二人はそれに気付いた。
ちょうど岩の陰になっている奥まった小部屋がある。
もしや、何らかの隠し部屋?
期待に胸をときめかせながら、奥を覗いてみる。
「これは……水場?」
「湧き水のようだな」
手洗い場のような、こぢんまりとした泉が湧き出ていた。
「なーんだ。お宝部屋かと期待しちゃった」
「よく考えたら、【自動地図化】スキルで宝箱の場所は分かるから、普通の小部屋だな」
ガッカリしつつも、ナギはいつものくせで、なんとなく【鑑定】スキルを発動させて泉を覗き込んでみた。
そして──ひゅっ、と息を飲んだ。
「……ナギ? どうした」
「これ、かん水だ」
「……かんすい?」
聞き慣れない言葉に首を捻るエド。
だが、ナギは説明するのももどかしいようで、顔色を変えて泉に手を突っ込んだ。
「樽に汲み出すのもまどろっこしいわ! このまま、あるだけ【無限収納EX】で持ち帰るわよ!」
そんなことができるのか、と訊ねる前に、ナギは岩場に溜まった『かん水』をごっそりと収納してしまった。
小さな泉とはいえ、大樽三杯分はあっただろう。
すべてを収納してしまったが、幸いこれは湧き水。泉は枯れることなく、少しずつ水が湧いてきた。
「ん、良かった。湧き水だから、いつでも取りにこれるわね」
「……この水は、そんなに特別なものなのか? あまり良い匂いはしないが」
澄んだ綺麗な水に見えたが、エドの鼻はそれを飲み水だとは認識しなかった。
おそらくは、塩が混じった水。しかも、苦みやエグみのある味がする匂いだ。
「これは飲み水じゃないのよ。ただし、とっても美味しいものを作れる、すごい水なの」
空色の瞳を輝かせながら、ナギは嬉しそうに笑った。
そう、これがあれば念願のあれを作ることができる。
「ラーメンが食べられるわよ、エド!」
◆◇◆
この世界に転生してから、ナギも何度かラーメン作りに挑戦したことがある。
豚骨ならぬオーク骨で出汁をとったスープの味はかなりのレベルのものを作ることができたが、肝心の麺作りに難航した。
あの独特の食感を出すことは難しく、仕方なくパスタ麺で代用することにしたのだが。
「ラーメンじゃなくて、スープパスタになっちゃうのよね。どうしても……」
「そうだったな。あれはあれで美味かったが」
「でも、ラーメンじゃないの!」
スープが完璧なだけに、とても悔しかったことを覚えている。
うどんで代用してみたが、やはり違った。
ラーメンスープ風味の、何か違う別の麺料理になってしまう。
「あれから、すっかり諦めていたけれど……」
「これがあれば、ナギがずっと探し求めていたラーメンになるのか」
「そうなの。でも、作るのは初めてだから、しばらく研究は必要かも」
前世の知識は継承しているが、あいにく中華麺を手作りしたことはない。
パスタやうどんを打ったことはあるけれど、中華麺は安く買えることもあり、手を出さなかったのだ。
かろうじて、うっすらと「かん水」があれば、中華麺が作れるという記憶が残っていただけで。
「だから、エド。製麺作業、手伝ってくれる?」
「もちろんだ」
力強く頷くエド。涼しい顔をしているが、脳内でアキラが「ラーメン! ラーメン!」と騒いでおり、とてもうるさい。
これを黙らせるためにも、ナギの手伝いを頑張るつもりだった。
4,082
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。