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〈冒険者編〉
317. お祝いです
しおりを挟むハイペリオンダンジョンで手に入れた食材をお土産としてミーシャに託して、二人は上機嫌で我が家への帰路についた。
あいにくラヴィルはダンジョンに遠征中なので、彼女の分と合わせてミーシャに預けてある。
初めてドロップした魔獣肉にフロアボスを倒して手に入れたワイン、希少な薬草に果実、ハーブなどを詰め合わせておいた。
「ミーシャさん、いちごに驚いていたわね」
「当然だろう。俺も普通サイズのいちごを渡すのだと思っていた」
「えへへ。どうせなら、大きいサイズの方が喜ばれるかと思って」
いつもクールな師匠の驚いた表情を見てみたかったのは内緒である。
微かに目を見開いて声を上げたが、すぐにいつもの落ち着いた彼女に戻ってしまったのは残念。
ミーシャに披露したのは、食材ダンジョン六十階層の巨大いちごだ。
ジャイアントロップイヤーというウサギ型の魔獣が植物魔法で大きくした、とっておきのいちごである。
長く生きたエルフでさえ知らない、特別な魔法だったようで、そちらの方に目の色を変えていた。
もう一度、食材ダンジョンに潜る必要がありそうですね、と思案げに呟いていた。
どうやら、魔法の研究を趣味とする彼女の心の琴線に触れたようだ。
魔法の学会のようなものでもあるのだろうか? 論文があるなら、是非とも読ませてもらいたい。
ぼんやり考え込んでいると、エドに肩を突かれた。
「ナギは師匠たちに転移の魔道具について教えるつもりか?」
「……どうしよう?」
そこまでは考えていなかったので、困ってしまう。
内緒にしておきたいが、親しくしている師匠たちにはその内、バレそうな気もする。
「ナギの性格的にも、あまり隠しごとは増やしたくない。……だろ?」
「う……その通りです」
エドの指摘に渋々頷いた。
自分たちを守るためには秘密にしたり、嘘を吐くことだってするつもりだ。
これまでもそうやって生きてきた。
だが、二人にはすでにナギの事情は伝えてある。
王国の元貴族階級で、ちょっとだけ(?)やらかして出奔した話だ。
清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、ナギは抱えていた秘密を告白した。
ミーシャとラヴィルはそんな彼女の悩みを何でもないことのように笑い飛ばして、助言してくれたのだ。
そんな優しい二人に対して、これ以上は秘密を作りたくないのが、ナギの本音だった。
「あの二人なら、俺たちに悪いようにはしないと思うぞ?」
「……それは分かってはいるんだけどね」
踏ん切りが付かないのは、ラヴィルが現役の高ランク冒険者であることと、ミーシャも引退したとはいえ、ギルドマスターの信頼が厚いことが引っ掛かっているのだ。
(ギルドに秘密にしているから、後ろめたいのよね。二人がギルド寄りの立ち位置だから、食材ダンジョンの初踏破特典の転移の指輪を隠し持っていることを知られたら、どう思われるのか。不安すぎる……)
端的に言うと、嫌われたらどうしよう、と二の足を踏んでいた。
あの二人に呆れられたり、軽蔑されたら泣いてしまいそうだと、真剣に思う。
優しい二人がそんな反応をするはずはないと知っているのに、勝手に怖がっている。
「そんなに不安なら、先に餌付けをすればいい」
悩むナギを見兼ねてか、エドがとんでもない提案をしてきた。
「餌付けって」
「すまない。言葉が悪かった。二人の胃袋をがっちり掴むんだ」
「胃袋……」
戸惑うナギに、エドが大仰に頷いてみせた。
「そう、食材ダンジョンでしか手に入らないものを食わせて、俺たちが転移の魔道具を持っていた方が自分たちにも得だと思わせればいい」
◆◇◆
帰宅した二人は、出迎えてくれた子猫たちをひとしきり撫でると、お祝い用のご馳走作りに熱中した。
『何にゃ?』
首を捻るコテツに、ランクアップのお祝いなのだと教えてやると、我がことのように喜んでくれた。
『すごい、にゃっ!』
お祝いに、と。
とても良い香りのする綺麗な花をプレゼントしてくれた。
植物魔法で育ててくれたらしい。
「ありがとう。とっても素敵だわ」
花を花瓶に生けると、せっかくなのでダイニングテーブルの中央に置いた。
じゃれつこうと寄ってくる子猫たちはコテツに任せて、エドと二人でキッチンにこもる。
キッチンでは刃物や火を使うので、天真爛漫な子猫たちには危険な場所なのだ。
「さて。メニューは何にする?」
「やはり、ここはブラックブルの肉料理だろう」
「うん、そうね。ブラックブルのステーキは外せない。あとは……」
「ダンジョンの隠し部屋の泉の水を使ったラーメンがいいと思う」
「かん水を使ったラーメンね。いいかも」
スープを作るのが些か面倒ではあるが、ラーメンを嫌う人は滅多にいない。
「多めに作っておいて、師匠たちを餌付け……んんっ、胃袋をつかむぞ」
「美味しいラーメンなら、二人のハートをがっつり掴んでくれそう!」
ナギもその気になってきた。
「二人のハートをがっちりと掴むのが目的なら、エドのピザも有効だと思うわ」
「分かった。今から作ろう」
ダンジョンに出没したサラマンダーの尻尾肉とドロップアイテムの極上チーズを使った美味しいピザを前にしたら、二人ともきっと理性が蒸発するに違いない。
「あとは、スイーツね」
せっかくなので、とびきり美味しくて珍しいデザートを用意したい。
師匠二人はもちろん、猫の妖精の三匹が気に入りそうな、可愛くて美味しいデザートを。
「いちごを使ったスイーツをたくさん作って迎え撃ちましょう」
ふんす、と鼻息荒く宣言するナギ。
どれも時間と手間暇がたっぷり必要なレシピなので、【無限収納EX】のスキルの小部屋で料理をすることにした。
まずは、ラーメン作りだ。
時間の掛かるスープを仕込み、ことこと煮込んでいる間に、中華麺を手打ちする。
自分たちの分以外に、師匠たちへのお裾分け料理があるので、いつもよりたっぷりと作り置くことにした。
「豚骨ならぬオーク骨を使ったスープの作り置きがあって良かったわ……」
「オークのガラを煮込んだスープは味わい深いからな」
寸胴鍋にひとつ分、ストックを作ることにしたのは、食材ダンジョンで『かん水』を手に入れてからだ。
豚骨もどきスープと鶏ガラもどきスープと両方を作っておけば、いつでも好きな時にラーメンを味わえるので。
中華麺の生地を寝かせている間、エドはピザ用の生地作りに勤しんだ。
「ラーメンの具材だけど、ロースハムでいい?」
「…………別にいいぞ」
微妙な間があった。
ちょっとだけ不満らしい。
「ロースハムよりチャーシューがいい?」
「!」
はっ、と顔を上げるエド。
つとめて冷静な表情を保ってはいるが、チャーシューと聞いて尻尾が嬉しそうに振られている。
なるほど、チャーシューが食べたかったらしい。せっかくなので、ハイオーク肉で作ってあげよう。
あとは煮卵か。コッコ鳥の卵は大きすぎるので、ここは魔獣じゃなく、普通の卵で作ることにした。
半熟の煮卵が好みなので、少し多めに作っておこう。
メイン料理を仕込んだところで、ナギはデザート作りに移行した。
「いちごを使ったスイーツ。何がいいかな?」
ショートケーキは師匠たちには危険な気がする。
ここはシンプルに、いちごタルトを作ろう。見た目が楽しいパフェも作りたい。
「パフェにいちごのアイスクリームを添えたら美味しそう……」
さっそく、いちごを使ったデザート作りを頑張った。
タルト生地を焼き上げて、カスタードクリームを流し込んだ上にスライスしたいちごを綺麗に並べていく。
花が咲いたように重ねて飾ると、見栄えがいい。
いちごアイスは生クリームとお砂糖とレモン汁で作る。生クリームは牛乳でも代用できるけれど、ここは甘い生クリームを使うことにした。
パフェにはコーンフレークだが、あいにくこの世界にはない。
仕方がないので、クッキーを砕いてガラスの器に敷き詰めた。
カスタードクリームと生クリームで層を作り、スライスしたいちごとジャムを重ねていく。
いちごのアイスクリームを添えて、いちごを飾り付けると完成だ。
我ながら素晴らしい出来栄えに感動する。
「完成!」
「こっちも完成したぞ」
オーブンから食欲をそそる肉とチーズが焼ける匂いが漂ってくる。これはたまらない。
「さあ、お祝いパーティの始まりよ!」
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