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〈冒険者編〉
318. お祝いは美味しい
ランクアップ祝いのパーティのメイン料理はブラックブル肉のステーキだ。
「んん…ッ、もう何度食べても飽きることのない、間違いない味ね!」
「違いない。いくらでも食えそうだ」
ナイフを当てるだけで、すっと切れるほどにやわらかな赤身肉。
ほどよいサシが口の中に溢れる肉汁を生み出してくれている。
切り分けた肉をフライドガーリックと共に咀嚼しながら、ナギはうっとりと瞳を細めた。美味しすぎる。
「高級な牛肉といえば、ミノタウロスもだけど……。日常でのご馳走にするなら、やっぱりブラックブルね」
同じ牛系でも、魔獣であるブラックブルと魔物であるミノタウロスの肉は微妙に味わいが違う。
ミノタウロスの方がダンジョンの下層に棲息しており、ブラックブルよりも強い。
つまりは、ミノタウロス肉の方が高級で美味ではあるのだが、なにせサシが凄いのだ。
どの部位の肉も口に含むと、体温だけでとろりと脂が融けて消えていくほどに。
「一度味わえば、夢に見るくらいに美味しいのだけれど、脂が凄まじいのよね……」
ちなみにミノタウロスの肉はラヴィに差し入れとして貰ったものを食べた。
ドロップしたブロック肉を山分けしたものだったので、少量だった。
一人、四百グラム分ほどを焼いて食べたのだが、食後に胃がもたれたのだ。
現役冒険者で食べ盛り、燃費の悪い魔法使いであるナギでさえ、魔獣肉なら一キロはぺろりと平らげる。
黒狼族の獣人であるエドなんて、その倍量は平気で食べてしまうというのに、だ。
甘くて中毒性のあるミノタウロスの、脂がたっぷりとのったお肉のこってりさ加減を甘く見ていた。
ミーシャに愚痴ると、あれは少量を楽しむ嗜好品だと呆れられてしまった。
(でも、お肉自体は絶品だったから、赤身の部分でローストビーフを作りたいな)
そのためには、東の肉ダンジョンの下層に挑む必要がある。
銀級に昇格したことだし、本気で下層に潜るのも悪くないかもしれない。
命大事にをモットーにこれまでは活動していたため、これまでは楽に稼げる階層ばかりで魔獣を狩っていたが。
金級を本気で目指すなら、ダンジョンの深層攻略の実績は必須。
(また後で、エドと相談しなくちゃね)
狩猟好きな獣人のエドはきっと賛成してくれるとは思う。
普段から暴れ足りない黒狼もきっと乗り気になるだろう。
下層だと、挑む冒険者の数も減るし、フィールドは広大だと聞く。
そこなら、きっと黒狼姿で存分に駆け回ることができるので、行きたがるのは確実だ。
「下層に行くほど、美味しいお肉と遭遇できる確率も上がるから、楽しみではあるのよね」
食材ダンジョンの魔獣肉も素晴らしかったが、やはり肉ダンジョンの方が出没する魔獣は多彩なのだ。
『美味しいお肉?』
ぴくり、と耳を立てたのはコテツだ。
ブラックブル肉のステーキを食べやすいように小さくカットしたものを夢中で平らげていたのだが、美味しいお肉というフレーズを聞き逃せなかったらしい。
子猫二匹は無心でお皿に顔を突っ込んでいる。
山羊ミルクと離乳食から卒業したチビたちは、小さな牙であむあむと魔獣肉をワイルドに咀嚼していた。
『お肉、狩りに行くのにゃ?』
「そのつもり。もしかして、コテツくんも行きたい?」
ちら、と子猫二匹に視線をやって、しばし悩んだ様子だったが、こくりと頷いた。
『行きたいにゃ』
「そっか。じゃあ、行く?」
「いいのか、ナギ?」
エドが心配そうに口を挟んでくる。
また、コテツを従魔としてダンジョンに連れて行くと考えたのだろう。
ナギはにこりと微笑んだ。
「いいわよ。行くのは肉ダンジョンじゃなくて、食材ダンジョンだから」
「! ナギ、それは」
エドにはすぐに伝わったようだ。
「そう、せっかくだし、明日試してみましょうよ。転移の魔道具を」
自宅から食材ダンジョンに一瞬で転移ができるなら、長旅も必要ない。
それに食材ダンジョンなら、挑む冒険者がまだ少ないので、コテツも目立たずに活躍できるだろう。
『あのダンジョンに行けるの、にゃ?』
「ええ、貴方たちと出会ったハイペリオンダンジョンに転移できる魔道具を手に入れたから」
『行くにゃ! チビたちの肉を狩ってくるにゃー!』
子猫たちの保護者として張り切る姿が健気で可愛らしい。
ふんす、ふんすと鼻を鳴らしてやる気を見せるキジトラの頭をそっと撫でて宥めてやる。
と、ステーキを完食した子猫たちが皿から顔を上げて、ピャアと鳴いた。
足りない、もっと!
ニャアニャアと訴え掛けられて、ナギは慌てて次の料理を取り出した。
「はいはい。次はピザをどうぞ」
「俺がカットしよう」
焼き立てのピザを【無限収納EX】から取り出すと、エドが素早く切り分けてくれた。
子猫たちの分はさらに小さくカットして、小皿に盛り付けている。
『ピザ!』
「ぴゃあ!」
コテツの真似をしてか、茶トラ柄のトラが鳴く。もしかしなくても「ピザ」と鳴いたのだろうか。可愛すぎる。
ハチワレ柄のミウはさっそく、ピザに食いついた。
小さなお口で懸命に齧り付く姿が愛らしくて、ナギは口元を手で覆って身悶えする。
「んみゃっ!」
「んま、んまっ」
ピザは三匹のハートを鷲掴みにしたようだ。サラミソーセージ味のサラマンダーの尻尾肉とダンジョン産のチーズがよほど美味しかったのだろう。
すごい勢いで食べている。
あんまり美味しそうに食べる姿に釣られて、ナギとエドもピザをぱくり。
こちらは香辛料を多めに使ったピザのため、ぴりりと刺激があって美味しい。
「ビールがほしい!」
「クラフトコーラで我慢してくれ」
冷えたクラフトコーラを一息に飲み干す。ビールではないけれど、冷えた炭酸とピザの相性は最高だ。
エドも大きなピザを一枚まるっと平らげた。
「締めはラーメンよ!」
『ラーメン! 食べたいにゃー!』
オーク骨をたっぷりと煮込んだスープをベースにしたラーメンは我ながら絶品だった。
猫舌の三匹はすぐに食べたかったようで、風魔法で冷やしてから口にしていた。
最近、子猫たちは保護者であるコテツに鍛えられながら、魔法を覚えている最中らしい。
家の前の森の浅い場所で、よく魔法を練習しているとか。
「え、見たい」
『ダメにゃ。内緒なのにゃ』
「うう……コテツくんがケチすぎる。美味しいデザートあげるから、ちょっとだけ」
『うみゅ。練習はダメだけど、そのうちダンジョンに連れて行くから、そこを見ればいいにゃー』
はむはむ、と麺をたぐるキジトラ猫をナギは慌てて見下ろした。
「子猫ちゃんたちをダンジョンに連れて行くの?」
『生きていくためには、狩りを覚える必要があるにゃ』
猫だ。いや、猫の妖精か。
魔法と共に狩猟も教えるようだ。それにしても、ダンジョンを狩り場にするとは。
『魔獣肉の方が美味しい、にゃ』
「それはそうだけど」
魔法を使う者にとっては、魔素をたっぷりと身に纏った魔獣肉や魔物の肉はご馳走なのである。
子猫たちのダンジョンブートキャンプはさすがにまだ先の話らしく、まずはコテツだけで転移することになった。
『ラーメン、美味しいにゃー』
「美味しいよねー?」
スープはもちろん、もちもちの麺が絶品だ。ハイオーク肉を使ったチャーシューも口の中でほろりとほぐれていく。
ラーメンを完食したところで、ナギは満を持してデザートのいちごスイーツをテーブルに並べた。
いちごのタルトといちごパフェだ。
色鮮やかなスイーツに、猫たちが歓声を上げる。
特にパフェに使った、いちごアイスが気に入ったようで、アイスのおかわりを何度もおねだりされた。
『お祝いはおいしい。ふたりとも、またお祝いできるよう、がんばるにゃ!』
美味しいご馳走を食べたいだけの猫に金級への昇格を気楽に応援された二人は揃って苦笑を浮かべた。
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