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188. グランド王国 2
しおりを挟むグランド王国は大陸の北西部に位置した大国だ。隣り合う帝国とは度々、領土争いを起こしているらしい。
国境付近での小競り合い程度で済んでいるのは、魔獣や魔物が犇く大森林が両国の間に広がっているからだろう。
(それに、今は魔族という共通の敵がいる)
召喚された勇者たちが魔族を倒し、邪竜を封印すれば、王国と帝国の関係もまた変わるのかもしれない。
ともあれ、ここは王国でも南の端の小さな村。帝国とは遠く離れた場所なので、今のところ小競り合いの気配は感じなかった。
リーフ村は小さくて、素朴な村だ。
大森林が近くにあるため、村の周辺を塀で囲っている。石を積み重ねて、泥で塗り固めた簡易な塀だ。
ホーンラビットならともかく、これではゴブリンの襲撃を防ぐのも大変そうだと思う。
入り口だけは木造の扉のような物が設置されていた。
そこから中を覗くと、暇そうにしている村人と目が合った。
「なんだぁ、ボウズ。冒険者見習いか?」
「二人ともれっきとした冒険者ですよ。ほら、タグもある」
首にぶら下げておいた冒険者ギルドのタグを見せると、あっさりと村の中へと招き入れてもらえた。
「通行税は一人銅貨五枚だ」
「ん、分かった」
シェラと二人分を支払った。
日本円にすると五千円ほどの通行税が高いかどうかは分からない。
幸い、ペットは無料とのことで、コテツは引き止められることもなく通り抜けられた。
「……こんなに簡単に通していいんですか?」
あんまりにも簡単に入国できてしまい、落ち着かない。つい、そんな風に入り口で通行税を回収する村人に聞いてしまった。
「ははは! ボウズたちが気にすることじゃないぞ。こんな辺境の地は、冒険者を歓迎するんだ」
「どうしてですか? あ、宿代や食事代を回収するためとか」
「まぁ、それもあるけどよ。こんな辺境の村じゃ、領主さまの目も届かないし、魔獣が氾濫した際にゃ冒険者頼みだからな」
自衛のために、彼らを歓迎しているのだと笑う。朴訥としているかと思いきや、どっこい逞しい。
「村の中には宿がないんですね?」
「おう。宿はないが、屋根裏や厩、倉庫は貸してやれるぞ。貸し賃は請求されるが」
お礼を言うと、二人は村の中をぶらつくことにした。
「トーマさん、厩を借りるんですか?」
「遠慮する。馬は嫌いじゃないが、一緒に寝たいとは思わないし。この村に泊まるより、野営した方が快適だと思う」
村の中心部に建つ家をちらりと眺めてみたが、あまり快適そうには見えなかった。
裕福な村でないことには、すぐに気付いた。
元々は開拓村のような存在だったのだと思われる。
が、大森林は大勢で踏み込む相手には容赦がない。
開拓できたのは、大森林からある程度離れた、この周辺の土地だけなのだろう。
今は塀の中で田畑を耕し、森の手前の平原で狩りをして生計を立てているようだ。
村には宿はもちろん、店も一軒しかない。
その一軒も雑貨屋もどきで、品揃えも微妙そう。
「せっかく通行税を支払ったけど、リーフ村はこのまま通り過ぎよう」
「賛成です。村に泊まるよりも、いつものコテージやタイニーハウスの方が休めそう」
小声で相談すると、二人はそのまま村を通り抜けることにした。
入り口として入った扉とは反対方向にある扉から外に出る。
創造神から貰った魔法の本に「王国の地図」と念じれば、真っ白のページにじわりと描線が浮かび上がってきた。
「ここから北上すれば、大きめの街がある。とりあえずはそこを目指そう」
「街なら、冒険者ギルドがありそうですね」
「ああ。大森林で手に入れた素材がたくさんあるから、売り払おう」
そこから王国のダンジョンを目指すことにした。
◆◇◆
大森林から離れると、のどかな光景が広がっている。
穀倉地帯らしく、街道沿いに麦畑が見えた。鑑定してみると、蕎麦が多く作られているようだった。
(王国は冬が長い土地だったか。寒冷地だから、蕎麦が育てやすいんだろうな)
田園地帯をのんびりと歩き進めて行く。
あの塀のおかげかは分からないが、街道には魔物の姿はない。
たまにホーンラビットやネズミ系の魔獣が現れるくらいで、このくらいなら冒険者でなくとも対処はできそうだ。
「平和だな」
「野盗が二組、襲ってきたくらいですからねー」
ちなみに野盗は冒険者くずれの四人と食い詰めた連中が三人、それぞれ襲い掛かってきた。
もちろん、どちらも返り討ちにして、近くの村に押し付けておいた。
辺境の地では犯罪者は労働力として使役されるそうだ。謝礼金は、と問われたが、そこは遠慮しておいた。
「おおむね平和だな?」
野盗はどいつも弱かった。
殺さないように捕まえる方が面倒なくらいの武器の腕前で、そりゃあ冒険者としてやっていけないな、と納得したほど。
「平和でしたね」
なにせ、シェラが魔法なしで制圧できたのだ。
ダンジョンや大森林での過酷な環境に耐え抜いた少女からしたら、何てことのない相手だったのだろう。
「案外、良いところかもしれないな、グランド王国」
牧歌的な光景に、目を細める。
もしかしなくても、自分たちが活動していた地域はかなり物騒なところだったのかもしれない。
(でも、この穏やかな光景も、邪竜が現れたら台無しになるんだよな……)
創造神と対になる、破壊の神。それが邪竜と呼ばれる存在の正体だ。
全てを壊したい欲に突き動かされた邪竜を勇者たちが封じることに失敗すれば、この光景も見られなくなる。
少しでも封印の成功率を上げるために、暗躍を頑張ろう。あらためて、そう思った。
◆◇◆
目当ての街までは、徒歩で三日ほどかかるとのこと。
シェラと二人でのんびり歩いて街を目指した。ちなみにコテツはフードに潜り込んでずっと眠っていた。
途中で見かけた村には寄らず、夜になるとタイニーハウスで過ごす日々。
大森林内では夜になると合流していたレイがしばらく帰って来ていない。
通信の魔道具に連絡があり、別件で忙しいから、しばらくは合流できないと告げられた。
なので、王国ではしばらく二人と一匹だけで活動することになる。
だが、その前に──
「まずは、金を稼がないと」
深刻な表情でそう告げると、シェラがきょとんとする。
「お金……ないんですか?」
「あるけど、王国の金がない。リーフ村で払った銅貨はエルフの里で貰ったのを使わせてもらった」
「そうだったんですね」
エルフの里で、グランド王国を目指しているのだと里長のサフェトさんに相談した際、ならばと購入品支払いの一部を王国のコインで渡してくれたのだ。
あまり数はなかったので、リーフ村の通行税を支払ったら、鉄貨しか残らなかった。
金貨なら、他国の発行のものでも地金の価値で使えるとは聞いていたが、よその国から来たとはなるべく知られたくない。
「街にも通行税が必要だったら、支払えない。だから、その前にどこかで稼がないと」
「街に入れたら冒険者ギルドですぐに稼げますもんね」
「それなー」
なにせ、俺の【アイテムボックス】には山ほど、魔獣や魔物の素材が眠っている。
だが、それも冒険者ギルドでしか買い取ってもらえないのだ。
ならば、以前にも二人で稼いだ方法を使うしかない。
「久々にやるか、行商人」
「! やりましょう! 私も売り子のお手伝いをします!」
「ニャッ」
街の周辺では商業ギルドに睨まれそうなので、街道沿いの休憩場が狙い目だ。
「さて、何を売ろうかな」
百円ショップにコンビニ、大型家具店に続いて、ホームセンターまで【召喚魔法】で使えるようになったのだ。
シェラとコテツもわくわくした表情で、覗き込んでくる。
「なるべく安い物を仕入れて、高く売ろう」
「トーマさん悪い男です! ひゃくえんの何かを売りましょう」
「シェラも悪よのぅ」
キャッキャとはしゃぎながら、二人と一匹で売りつける品を選んだ。
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