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199. 優雅な(?)お茶会
しおりを挟む(どうしてこうなった……!)
頭を抱えて喚き出したくなるのをどうにか我慢して、ティーカップを傾ける。
紅茶は美味い。当然だ、コンビニショップで購入した茶葉を使っているのだから。
「本当に素晴らしい香り。味も深みがあって、まろやかで」
「えぇ、こんなに美味しい紅茶は初めてですわ」
「ありがとうございます」
楚々とした令嬢方に褒められて、笑顔で礼を言う。どうにか、微笑を浮かべることはできたように思う。
「紅茶はもちろんですが、この陶器! こんなに美しい色合いのカップも初めて拝見しましたわ」
「使うのがもったいないくらいに素敵ですわね」
「お茶だけではなくてよ。こちらのお菓子もとっても素晴らしいですわ」
「軽やかなのに、とっても甘くて……背徳の味ですわね」
ほほほ、と軽やかな笑い声が響き渡る。
ここはモーカムの街の、とあるお屋敷の庭園だ。
とりどりのバラが咲き誇り、美しく整えられた庭の一角のガゼボに着飾った令嬢たちが集まり、お茶会を開いている。
青空の下、馨しい花の香りに包まれながらのティーパーティは華やかなだけでなく、ご婦人方の小さな戦場でもあった。
そんな優雅な空間に、なぜ俺がいるかと言うと──
「ピチチッ」
俺の肩にちょこんと止まった白い小鳥が愛らしく囀ると、ご令嬢方はそろって相好をくずした。
「まぁ、とっても愛らしいこと」
「小鳥がこんなに懐くなんて」
「うふふ。クッキーが欲しいのかしら? こちらにいらっしゃい」
金髪縦ロールの令嬢に優しく手招きされて、シマエナガは大喜びで飛んでいった。
麗しい令嬢方にちやほやされて、小鳥は上機嫌だ。
俺が提供したスイーツをここぞとばかりに堪能している。
そして、同じようにちやほやされて喜んでいる相棒がもう一匹。
「ニャーン」
「まぁ、お手をしたわ。とっても賢いのね」
「素晴らしい毛並みですわね。可愛らしいわ」
文字通りに猫可愛がりされて、デレデレしているキジトラ柄のにゃんこ。
(コテツ……お前まで……)
可愛い少女や綺麗なお姉さんに抱かれて、ヒゲ袋をぷっくりさせているのは猫の妖精のコテツである。
自慢の毛皮と愛らしさを武器に、さっそくご婦人方のハートを掴んだようだ。
(いや、それが目的だったけども!)
一羽と一匹はノリノリである。
あいにく、俺はそこまで乗れなかった。
綺麗なお姉さんは個人的には大好きではあるが、元日本人の男子大学生からしたら、フリルとレースがごってりしたドレスで着飾ったお姫さまよりも、プチプラコーデの気安いお姉さんが好みです。
いや、そういう問題ではないか。
いちばんの原因は別にある。
(いくら、この国の情報を集めるにしても、こんな格好になってまでやりたくなかった……っ!)
こっそりため息を吐きながら見下ろした、己の服装。
それはエルフの集落で縫い上げてもらったワンピースだった。
それも、腕自慢の裁縫職人であるエルフの長老が張り切って縫い上げてくれた、豪奢な衣装だ──シェラ用の。
『トーマさん、とってもお似合いです! 恥ずかしがらずに、自信もってください!』
ピチュピチュと愛らしく囀るシマエナガ姿のシェラが飛ばす念話がエグい。
似合っているは、俺にとっては褒め言葉じゃないし、自信とかどうでもいい。
恨めしそうに小鳥を見上げても、くりくりの目できゅるん、と小首を傾げるあざとさの前には完敗である。
くそ、かわいいな。
そのワンピースもとっても素敵ですわ、と褒められて、頬を引き攣らせながらお礼を言う、こっちの身にもなってほしい。
ワンピースが素敵なのは当然だ。
大型家具店で購入した、天鵞絨のカーテンを使って縫い上げたワンピースはもはやドレスと名乗っても過言ではない出来栄えである。
しかも、100円ショップで購入したレースやキラキラのボタン、リボンなどを惜しげもなく使った力作なのだ。
ご令嬢方が身に纏うシルクのドレスも美しいが、肌触りからして違う。
冒険者以外からも──特に中流から上流貴族の関係者からも情報を得た方がいいと考えて、このお茶会に参加させてもらったのだが、当初は着飾らせたシェラを送り込む予定だったのだ。
商業ギルドに【召喚魔法】で仕入れた商品を売り付けて、どうにか繋ぎを取って招かれたお茶会。
上流階級のご婦人方が集う、この催しには商業ギルドが新進気鋭の商会をお披露目する場でもある。
提供されている開催場所も、商業ギルド所有の屋敷の庭園だ。
物珍しく希少な商品をギルドに提供したおかげで、この栄誉ある場に招かれたというわけだ──人はそれを賄賂とも言う。
既婚者のご婦人はもちろん、年頃のご令嬢も集まるお茶会なため、ここは男子禁制。
なので、シェラに商会の代表として参加してもらうつもりでいたのだが、人見知りを発動した彼女に拒否されてしまい、仕方なく女装した俺が参加することになったのだ。
魔道具で変装するか迷ったが、お茶会は顔を突き合わせて数時間を共に過ごすことになるため、バレる可能性が高い。
諦めて、せめて化粧で誤魔化すことにした。
幸いというか、不幸にも。
俺は女装用のメイクに慣れている。
母親似の女顔なため、体育祭の応援でチアガールのコスプレをさせられたり、文化祭でメイドのコスプレをさせられた経験が生きたようだ。嬉しくない。
しかも、今生はあさっての方向に気をきかせた創造神のせいで、ハイエルフとして転生した。
元の女顔をベースにエルフ補正が入り、自分で言うのもなんだが、絶世の美少女顔になった。男なのに。
素顔も整っているが、ここに日本製の化粧品を使えば、そりゃあもう傾国の美女の出来上がりである。
にこりと微笑めば、同じ性別の少女たちまでぽーっと見惚れてくれるのだから、複雑な心境になったものだった。
一応、商会として商品の売り込みをする必要があったので、ちゃんと囮の品は用意してある。
まずは、ご婦人方にも好評の陶器のティーカップ。
グランド王国にも陶磁器は少量ではあるが、出回ってきている。
陶器を作っているのは錬金術師というところが、異世界っぽくて面白い。
だが、まだまだ数は少なく、出来栄えもあまり良くはないらしい。
そこへ、新進気鋭の商会主である俺がじゃじゃーんと披露したのが、【召喚魔法】で購入した、白の陶器。ティーセットだ。
ティーカップとソーサー、ポットがお揃いのお茶会セットを用意した。
もちろん、紅茶と茶菓子も忘れずに。
コンパニオンとして召喚したのは、シマエナガ姿に変化したシェラと猫の妖精のコテツである。
商品の売り込みに聞き込み、どちらもできないが、参加者をひたすら癒やせ! と指示を出してやったので、あざと可愛さで女性陣をメロメロにしている。
おかげで、皆の気分もほぐれたようで、ついでに口の滑りも良くなった。
おしゃべり好きなお花さんたちのおかげで、市井では知れない情報が集まってきたので女装を頑張った甲斐もあったと思う。
◆◇◆
参加者のご婦人方は、異国から訪れたという、エキゾチックな美貌の持ち主である商会主にすっかり心を奪われて、無邪気に求められるまま、王国内の噂話に花を咲かせた。
とても有意義で楽しいお茶会は、商会からのお土産付きで解散となった。
美しい陶器と美味しいお茶に菓子にすっかり夢中になった彼女たちにしっかり商品を売り付けた商会主は、その一度きりでお茶会に参加することはなくなり、残念がられたと言う。
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