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200. お茶会のあとで
しおりを挟む冒険者とご婦人方から仕入れた情報。
ほとんどは益体もない噂話だが、中には有用なものもある。
口を滑らせた当人はそれほど重要な内容だとは思っていないようだが、少しずつ集まる噂話のピースをかき集めれば、見えてくる絵があった。
「王国でも魔族の暗躍はありそうだな」
持ち帰った情報を吟味して、そう判断を下した──
◆◇◆
不本意なお茶会を終えて、借りている倉庫へ戻るや否や、速攻でメイクを落とした。
コンビニショップで買ったメイク落としシートが便利すぎて感動したのは内緒だ。
香水の匂いが気になるので、熱いシャワーを浴びてサッパリした。
ちなみに女装した際にウィッグなどは使っていない。
こっちの世界に転生した際にはうなじが隠れるくらいの長さだった髪が十センチ近く伸びていたので、自前で結えたのだ。
邪魔くさいから、と切らないで良かったと心底思う。
異世界とはいえ、さすがに冒険者以外の女性でショートヘアにしている者はいない。
普段は後ろでひとつに括っている。これが意外と楽なのだ。
惰性と快適さで放置していたおかげで、女性用のウィッグを使用しないで済んだことには感謝である。
ワンピースを着させられるのは、もう諦めた。胸に詰め物を仕込むことを強要されなかっただけでも良しとしよう。
ともあれ、慣れない女装と女言葉を強いられたことで疲れ切っている。
今日の夕食は作るのをパスして、適当に好きなものを摘むことにした。
「二人は何が食いたい? 俺が作るのはパスな」
シマエナガ姿から人の姿へと戻ったシェラはしばし悩んで、コンビニショップのホットスナックをリクエストしてきた。
「チキンとコロッケ、焼き鳥に肉まんが食べたいですっ!」
「了解」
悪くないチョイスだ。
【召喚魔法】のコンビニショップから、ぽちぽちとカートに入れていく。
チキン系のホットスナックは種類が多い。せっかくなので、ひととおり買ってみた。
唐揚げにチキンナゲット、フライドチキンに焼き鳥はモモ、皮だけでなく、ハツやレバーにつくねまである。
皆で摘めば完食できるだろう。
コロッケも定番のポテトコロッケとメンチカツ、カレー味にチーズフォンデュコロッケなんてのもある。美味そうだ。
「ハムカツにイカフライもあるぞ」
「食べますっ!」
「あじフライとイカの唐揚げは……」
「ニャーン」
コテツのリクエストが入ったので、迷わずカートに突っ込んだ。
あとは、中華まんだな。
シェラは肉まんを希望したが、せっかくなので色々と購入してみよう。
「肉まんにも色々あるな。醤油風味と塩味と味噌味まである。お、こっちは豚じゃなくて牛肉を使っているらしいぞ」
「食べてみたいですね、それ」
「だなー。ん、角煮まんもある。これは買いだな」
角煮は皆の好物なので、三人分をカートに入れる。
ピザまん、あんまんも食いたい。あんまんは粒あん、こしあん、ごまあんがある。
もちろん全部買う。余っても【アイテムボックス】に入れておけばいい。
カスタードに生チョコ、抹茶味などバラエティに富んだものも一応は買っておいた。
小腹が空いた時のカロリー補給に最適だ。
「お、ポテトもある。トルネードのやつ好きなんだよな」
「私は細くてカリカリのが好きです!」
「はいはい、そっちも買っとくよ」
これだけだと、さすがに栄養バランスが気になるので、野菜系も買っておこう。
野菜ジュースとポタージュ。生野菜サラダとポテトサラダも忘れずに。
「ウミャウミャー」
何やら、ニャゴニャゴと訴えかけてくるのは愛猫のコテツだ。
念話でリクエストされた、高級猫缶と猫用おやつをカートへ。
人間用の飯も好物だが、日本産の猫缶やおやつも好きらしい。
(俺らがたまにジャンクフードが無性に食べたくなる、あんな感じかな?)
猫缶はコンビニよりもホームセンターの方が種類も多く、安価なため、そっちで購入。
ホームセンターの品揃えを眺めていると、缶チューハイが目について、迷わずにカートへ突っ込んだ。
「トーマさん、お酒ですか?」
「今日は飲みたい気分なんだ……。ストレスでな」
「そうなんです?」
「女装してお茶会なんて罰ゲームでしかない」
「あんなに似合っていて、皆さん見惚れていたのに」
「嬉しくない」
飲むと決めたからには、酒のツマミになりそうなものをカートに追加していく。
乾きものにスナック菓子。燻製は自作したものがあるので、それを食おう。
「エルフの里で貰った木の実があったな。あれも肴に良さそうだ」
クルミやナッツを甘辛く炒めて乾燥させた木の実料理だ。
エルフの携帯食らしいが、味見させてもらったら、これがなかなか美味かったので、分けてもらったのだ。
香ばしくて、酒に合う。
「さ、今夜はテキトー飯だ。好きに食うぞ!」
「わー! お祭りみたいで楽しいです!」
テーブルいっぱいに並べた食べ物を目にして、コテツとシェラのテンションがすごい。
はしゃぎながら、あれがいいこれも美味しいと行儀悪くかじりついている。
今日くらいは無礼講だ。
マナーなんて気にせずに、俺も好きに食うことにした。
缶チューハイをぷしゅっと開けて、ぐびぐびと半分ほど胃に流し込む。
ぷはっ、と息を吐いて、まずはフライドチキンにかぶりついた。
魔獣肉と比べると肉のランクは格段に落ちるが、それでもコンビニチキンは旨い。
カリカリのコロモとジューシーな肉の脂が体に悪そうだと思いながらも、止まらない。
脂はアルコールで洗い流して、次は肉まんだ。
【召喚魔法】で購入すると、なぜかホカホカに温められた状態でホットスナックや弁当が【アイテムボックス】に届くので、肉まんも熱々だ。
半分に割って、少しだけ冷やしてから、もふっと口にするのが好きだ。
中身の餡は濃いめの味付けだから、これまた酒に合う。ぐびくび、もふもふ。交互に楽しむ。幸せすぎる。
「んふー。やっぱり、コンビニのチキンは美味しいですね! 唐揚げさんサイコーです!」
「フミャ?」
「てっちゃんはナゲット派なんです?」
「派閥があるのか。ちなみに俺は焼き鳥ではハツ推しだ」
モモも皮も好きだけど、最近はハツにハマっている。あの、こりっとした食感がいいんだよな。砂肝もいい。
ポテトサラダを食べようとして、ふと閃いた。そういえば、魔獣肉の加工を頼んでいる肉屋でや生ハムを一本まるっと購入したのがある。
せっかくなので、あれを食べよう。
【アイテムボックス】からデカい生ハムを取り出すと、薄く削ぐように切り出していく。
「おにく……!」
「落ち着け、シェラ。食わせてやるから」
肉食女子を宥めながら、皿いっぱいに生ハムを切り出した。
我ながらいい仕事をしたと思う。
そのくらい、綺麗に切り出すことができた。
「このまま食っても、もちろん旨いが……これを、こうやって……」
生ハムでポテトサラダを包んで、一口サイズのそれを口に放り込む。
「んっま!」
魔獣肉じゃない、普通の豚肉を加工した生ハムだけど、塩加減もちょうどいい。
ポテトサラダの生ハム包みは二人にも好評だったようで、あっという間に皿が空になった。
「美味しかったです。家畜の肉もバカにできませんね」
「加工の腕がいいんだろうなぁ。あそこの肉屋に頼んで良かった」
「家畜肉でこの味なら、オーク肉の生ハムなら……」
シェラと顔を合わせて、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「約束の期日は明後日だ。それまでは、この生ハムで我慢しよう」
「そうですね! 明日の朝ごはんは、この生ハムのサンドイッチが食べたいです」
「お、いいな、それ」
生ハムのカルパッチョにしても美味そうだ。クラッカーを【アイテムボックス】から取り出すと、すぐに意図を悟ったシェラが顔を輝かせる。
クラッカーに生ハムを載せて、ぱくり。
今夜だけは難しいことを考えるのはやめて、美味しい生ハムとテキトー飯に舌鼓を打った。
◆◆◆
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◆◆◆
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