召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

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201. 〈幕間〉勇者たち 12

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 その村はグレンゲートの名の通り、峡谷の狭間にある小さな集落だった。
 帝都に続く街道かられた先にある村なため、人の行き来は少ない。
 とはいえ、峡谷の先には資源が眠るダンジョンがある。
 お宝を求めた冒険者たちはこぞって峡谷を目指していたのだが──

「……最近、ダンジョンに向かった冒険者パーティが何組も行方不明らしい」

 酒場で仕入れた噂話を春人はるとが意味深に語る。
 夏希なつきはルイボスティーを飲みながら、胡乱げに瞳を眇めた。

「それって単にダンジョンで魔獣や魔物を相手にして敗北しただけじゃないの?」
「二、三組ならそれも納得するが、ここしばらくで急に増えたらしい。今のところ、分かっているだけでも七組ほどのパーティが行方不明になっている」

 秋生あきみが何やら思案しながら、そう説明してくれた。

「それはたしかに気になるかもしれないわね……」
「しかも、分かっているだけでだぞ?」
「行き先をギルドや知り合いに告げずに向かったパーティもいるだろうしな。行方不明なパーティはもっといるかもしれない」
「それと、そのグレンゲートって村が関係ありそうなの?」
「分からない。それを確かめに行こう」

 その噂話を追って、兄と従兄が聞き取った結果、村が怪しいと判断したようだ。
 はぁ、と夏希はため息を吐く。

「まぁ、そうするしかなさそうよね」
 
 冒険者たちに酒を奢り、魔族が関わっていそうな怪しい噂話を聞き出してきた二人を、とりあえずは労っておく。
 見慣れない若者である二人を、最初は警戒していた男たちも日本産の美味い酒を前にすれば、呆気なく口を滑らせてくれたらしい。

「二人ともお酒は飲んでいないでしょうね?」
「飲まねーって」
「ちゃんと自分たちの分はノンアルコールにすり替えていたから大丈夫だ」
「ならいいけど……」

 酒類を代理購入して送ってもらった冬馬とうまには釘を刺されているのだ。

「というか、俺たちって酒を飲んでも酔わない気がする」

 ぽつり、とこぼす兄を夏希は不思議そうに見やった。

「どうして?」
「俺もそう思う」
「アキまで? やっぱり、二人とも飲んだんじゃないの」
「いや、俺たちは飲んでないけどさ、周りでガブガブ飲まれたら、アルコールの匂いがするだろ?」
「ああ……親戚一同が集まる新年会とか、最悪だったわね。臭くて頭がクラクラしたもの」

 なまじっか酒豪が集まっていただけに、新年会をしていたリビング内は目が沁みるほどに酒臭かった。

「でも俺ら、何ともなかったんだ」
「それで不思議に思って、自身を【鑑定】してみたら、【毒耐性】と【状態異常無効】スキルが生えていた」
「何それカッコいい」
「だろ? ちょっとイイよな、この響き」
「じゃなくて! ……もしかして、アルコールを毒と判断してスキルを覚えたってこと?」
「……断言はできないが、おそらく」

 召喚勇者である三人は、創造神ケサランパサランの祝福や加護のおかげか、やたらとスキルが多い。
 ちょっとした行動で、関連したスキルが唐突に生えるのだ。
 特にアナウンスなどもないため、ステータスのチェックをしないと気付かない。
 便利ではあるが、こんなに簡単に覚えてもいいのか、少し不安になる。
 一般人はよほど鍛錬を積まないと、早々にスキルを覚えることはないと聞いたからだ。
 そこらへんは男二人はけろりとしたもので、むしろラッキーじゃないかと喜んでいたけれど。

「……まぁ、いいのかな? アルコール中毒の心配もなくなりそうだし?」
「いいことか? いくら飲んでも酔えないってことだろ」

 成人式でしこたま呑むのが楽しみだったのに、と悔しがる兄を冷ややかに一瞥する。
 お酒に興味のない未成年の少女には心底どうでもいい。

「とにかく、グレンゲートの村を訪ねてみよう。行方不明にならずにダンジョンから帰還した冒険者パーティは村を素通りしていたようだから、何らかの関連はありそうだ」
「そうね。アキがそういうなら」
「ついでに帝国のダンジョンにも挑戦できるしな!」

 そんなわけで、三人はミリアの街を離れて、峡谷を目指すことにした。


◆◇◆


 街で移動用の馬を買い、峡谷まで走らせた。
 乗馬経験は三人とも少しだけあった。
 並足で歩かせるだけの体験乗馬だが、腐っても伊達家のアスリートである彼らはすぐに要領をつかんで、軽々と馬を走らせた。
 
「水は魔法で出せるし、餌は【アイテムボックス】で大量に持ち運べるし。馬での移動、結構いいかもな?」

 春人は乗馬が気に入ったようで、上機嫌で休憩中の馬を撫でてやっている。
 一時間ごとに休憩を取り、水や餌を与えているうちにすっかり情を覚えたようだ。

「たしかに、馬での移動は楽ね」

 夏希は三頭の馬たちに【回復魔法】を掛けてやる。怪我の治癒はもちろん、疲労も解消できるので地味に便利なのだ。

「だが、馬は賢く、臆病な生き物だからな。魔獣や魔物が出たら怯えて逃げるぞ?」

 そう、それが難点なのだ。
 今のように街道や、魔獣のいない道なら軽々と駆けてくれるが、大森林内やダンジョンには決して近寄ろうとはしない。

「なら、馬系の魔獣をテイムするのはどう?」
「従魔か!」

 兄の顔が輝く。

「俺はドラゴンライダーになりたい!」
「おバカ兄。ドラゴンをテイムできるわけないじゃないの」
「騎乗できる魔獣か。帝都で情報を集めて、手に入れるのはありかもな」

 ずっと徒歩や乗合馬車で移動するのはキツい。大人数の冒険者パーティは大型の馬車を自分たちで持つことが多いと聞く。
 馬での移動でなく、馬車なのは野営時に荷台で休むためにわざわざ選ぶらしい。

(私たちには必要ないわね。わざわざ、狭くて硬い寝床の荷台を使わなくても、『携帯用ミニハウス』があるもの)

 日中は馬で移動して、夜は安全快適な『携帯用ミニハウス』で休めるのだ。
 拠点のそばに馬を繋いでおけば、結界があるから安心。
 馬車よりも馬の方が早く移動できるので、わざわざ馬車を用意する必要はない。

 夏希渾身こんしんの【回復魔法】のおかげで、馬たちは元気だ。
 疲れ知らずで疾走してくれたおかげで、馬車だと三日はかかる距離を一日で駆け抜けてくれた。


◆◇◆


「まさか、村の住民が全員、成り代わっていたとはなー」

 春人ががしがしと乱暴に頭を掻いた。
 苦々しげな表情で足元の遺骸を見下ろす。さりげなく妹を庇う位置に立ち、彼女の視線から逸らしてやるのも忘れない。

「スライムに似た不定型の魔物だな。村民を殺し、その皮をかぶって擬態していたようだ」
「うえぇ悪趣味すぎる」

 最初は一人。
 家族や親戚、良き隣人の顔をして人に近付き、油断したところを襲い、次々と乗っ取っていったのだろう。
 村を完全に乗っ取った後は、ダンジョンに向かう冒険者パーティを招き入れて歓待し、同じように、彼らの「皮」を奪っていったのだ。

「乗っ取りが目的だったなら、冒険者のふりをして栄えている街を狙わなかったのか?」
「少し喋るだけで、違和感があっただろ。ガワだけ化けても中身で偽物だとバレて退治される可能性が高い」
「それで、まずは小規模な村から占領していったのね」

 旅人のふりをして村に足を踏み入れた三人を村人は歓迎してくれた。
 村長が直々に家へ招いてくれ、眠り薬入りのご馳走でもてなそうとしたところで、まずは春人が動いた。
 村長の顔を軽く殴ったのだ。
 くしゃりと軽い音がして、『中身』が潰れた。どろりと溢れてきたのは赤い血ではなく、緑色の粘液で。
 うえ、と顔を顰めつつも春人は村長一家をあっという間に殴り倒した。
 あとはもう事態に気付いて襲い掛かってくる連中をひたすら叩き潰していった。

 残った遺骸は、中身の消えた『皮』だけ。
 三人は丁寧に集めて、穴を掘って火を放った。
 この世界は死体を放置しておくと、稀にアンデッドに変化する恐れがあるために、火葬が一般的らしい。

「村を乗っ取って、何をするつもりだったのかしら?」
「冒険者を襲う方が本来の目的の可能性があるな」
「ということは、やっぱりこの先のダンジョンが怪しいか」
「………」

 どちらにせよ、レベル上げのためにダンジョンには挑む予定だったのだ。
 ただ、今回はいつもとは少し違う厄介さがある。

「冒険者の皮をかぶった魔物にも気を付けないといけない」
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