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3.北の塔
魔道具に魔力を吸い上げられて、頭が朦朧とする。
学園のダンスホールから連れ出されたシェリーは王家の紋章入りの馬車に乗せられ、王城の敷地内にある北の塔へ連れていかれた。
王国内には四つの塔がある。
南の塔は貴族牢。
王族や高位貴族のための豪奢な牢だ。牢というよりも、もはや別荘に近い。
不自由がないように設備は整っている上、三名ほどの使用人も帯同できる。
西の塔は子爵以下の貴族のための牢。
平民用の牢と比べればはるかに上等だが、南の塔ほどの豪奢さはない。
使用人も通いのメイドを一人だけ雇うことができるのみ。
東の塔だけは毛色が違い、こちらは魔術師塔と呼ばれていた。
囚人を閉じ込める牢獄ではなく、魔術師が魔術を研究するための施設として用いられている。
そんな中でも、北の塔は異質だった。
ここは政治犯や凶悪犯が収容されるとされる、劣悪な環境の牢獄。
使用人の帯同どころか、私物の持ち込みも差し入れも不可。
設備も最低限のもので、人としての尊厳を徹底的に貶めるような場所だと恐れられていた。
「深層のご令嬢がここに放り込まれて、さて何日もつかな」
「半日で発狂するのではないか」
「アルス殿下の不興を買ったのが悪い」
馬車から引きずりおろされ、両脇を抱えるようにして歩かされる。
くつくつと笑いながら語るのは、そんな内容ばかり。こちらを怯えさせようとしているのだろう。
後ろ手に拘束されているため、歩きにくい。ただでさえ、重く嵩張るドレスを身に纏っているのだ。
裾を踏まないようにと履かされている踵の高い靴のせいで、靴擦れも痛い。
そんな状態なのに、北の塔の螺旋階段を歩かされ、シェリーは意識が薄れかかっていた。
ふらりと揺れる身体を近衛騎士たちが慌てて支える。
「ちっ、面倒な」
「仕方がない。抱えて歩け」
近衛騎士が舌打ちをする。くったりと体重を預けてくる少女を仕方なさそうに抱え上げると、螺旋階段を上った。
目当ての階に辿り着いたようで、足を止める。
「ああ、この部屋だな。高貴なご令嬢には少しばかり狭くて寒くて、埃っぽい場所だが、罪人には相応しい」
「放り込んでおけ」
「はっ!」
薄れゆく意識の中、そんな言葉を耳にした直後、シェリーは側頭部に激しい衝撃を受けた。
地面に突き飛ばされたのだ、と理解したのと同時にあまりの激痛に小さく叫び声を上げてしまう。
(痛い、痛い、痛い……!)
出血したのだろう。ぬるりとした感触が額から頬に伝わってくる。
側頭部がいちばん痛いが、ぶつけた背中や腰、そして足首にも捻ったような違和感があった。
息を止め、身体を丸めるようにして、どうにか痛みから逃れようとあがく。
手首の拘束もそのままだったので、出血した箇所を押さえることもできない。
まるで頭の中を鋭い刃物で引っ搔き回されているかのような激痛に、ただ耐えるしかない時間が過ぎていく。
「…………っ…はぁ……」
どのくらい、そうしていただろうか。束の間、意識を失っていたようだ。
ようやく呼吸ができるほどに落ち着いてきて、シェリーは深く息を吐いた。
ぼんやりと目を開ける。
冷たく、硬い床の感触に、どうやら地面に倒れていたのだろうと気付く。
冷たいこれは、石畳。薄暗い室内に目が慣れてくる。
「北の塔に打ち捨てられたのね、わたくし……」
石造りの、殺風景な牢獄だった。
王宮に与えられた部屋とは比べようもないほど狭く、息苦しい。
ぐるりと壁を見渡すと、一か所だけ高い位置に空気取りの穴が開いていた。
手が届く位置にはないが、脱走防止のためなのだろう。鉄格子が嵌っている。
牢獄の入口には頑丈そうな木製のドア。小さな小窓が付いており、ここから中を覗き見たり、食べ物を差し入れるのだと思われた。
壁際には粗末なベッドがまるで棺桶のようにぽつんと置かれていた。
頑丈そうなのだけが取り柄で、とても硬そうだ。枕もなく、ボロボロの毛布が一枚だけ畳んで置かれてある。
きちんと洗っているのかさえ怪しいほどに汚れていた。
学園のダンスホールから連れ出されたシェリーは王家の紋章入りの馬車に乗せられ、王城の敷地内にある北の塔へ連れていかれた。
王国内には四つの塔がある。
南の塔は貴族牢。
王族や高位貴族のための豪奢な牢だ。牢というよりも、もはや別荘に近い。
不自由がないように設備は整っている上、三名ほどの使用人も帯同できる。
西の塔は子爵以下の貴族のための牢。
平民用の牢と比べればはるかに上等だが、南の塔ほどの豪奢さはない。
使用人も通いのメイドを一人だけ雇うことができるのみ。
東の塔だけは毛色が違い、こちらは魔術師塔と呼ばれていた。
囚人を閉じ込める牢獄ではなく、魔術師が魔術を研究するための施設として用いられている。
そんな中でも、北の塔は異質だった。
ここは政治犯や凶悪犯が収容されるとされる、劣悪な環境の牢獄。
使用人の帯同どころか、私物の持ち込みも差し入れも不可。
設備も最低限のもので、人としての尊厳を徹底的に貶めるような場所だと恐れられていた。
「深層のご令嬢がここに放り込まれて、さて何日もつかな」
「半日で発狂するのではないか」
「アルス殿下の不興を買ったのが悪い」
馬車から引きずりおろされ、両脇を抱えるようにして歩かされる。
くつくつと笑いながら語るのは、そんな内容ばかり。こちらを怯えさせようとしているのだろう。
後ろ手に拘束されているため、歩きにくい。ただでさえ、重く嵩張るドレスを身に纏っているのだ。
裾を踏まないようにと履かされている踵の高い靴のせいで、靴擦れも痛い。
そんな状態なのに、北の塔の螺旋階段を歩かされ、シェリーは意識が薄れかかっていた。
ふらりと揺れる身体を近衛騎士たちが慌てて支える。
「ちっ、面倒な」
「仕方がない。抱えて歩け」
近衛騎士が舌打ちをする。くったりと体重を預けてくる少女を仕方なさそうに抱え上げると、螺旋階段を上った。
目当ての階に辿り着いたようで、足を止める。
「ああ、この部屋だな。高貴なご令嬢には少しばかり狭くて寒くて、埃っぽい場所だが、罪人には相応しい」
「放り込んでおけ」
「はっ!」
薄れゆく意識の中、そんな言葉を耳にした直後、シェリーは側頭部に激しい衝撃を受けた。
地面に突き飛ばされたのだ、と理解したのと同時にあまりの激痛に小さく叫び声を上げてしまう。
(痛い、痛い、痛い……!)
出血したのだろう。ぬるりとした感触が額から頬に伝わってくる。
側頭部がいちばん痛いが、ぶつけた背中や腰、そして足首にも捻ったような違和感があった。
息を止め、身体を丸めるようにして、どうにか痛みから逃れようとあがく。
手首の拘束もそのままだったので、出血した箇所を押さえることもできない。
まるで頭の中を鋭い刃物で引っ搔き回されているかのような激痛に、ただ耐えるしかない時間が過ぎていく。
「…………っ…はぁ……」
どのくらい、そうしていただろうか。束の間、意識を失っていたようだ。
ようやく呼吸ができるほどに落ち着いてきて、シェリーは深く息を吐いた。
ぼんやりと目を開ける。
冷たく、硬い床の感触に、どうやら地面に倒れていたのだろうと気付く。
冷たいこれは、石畳。薄暗い室内に目が慣れてくる。
「北の塔に打ち捨てられたのね、わたくし……」
石造りの、殺風景な牢獄だった。
王宮に与えられた部屋とは比べようもないほど狭く、息苦しい。
ぐるりと壁を見渡すと、一か所だけ高い位置に空気取りの穴が開いていた。
手が届く位置にはないが、脱走防止のためなのだろう。鉄格子が嵌っている。
牢獄の入口には頑丈そうな木製のドア。小さな小窓が付いており、ここから中を覗き見たり、食べ物を差し入れるのだと思われた。
壁際には粗末なベッドがまるで棺桶のようにぽつんと置かれていた。
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