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矢印に従い必死に走った結果。疲れました・・・。
「ちょ、ちょっと待ってっ」
矢印も多美江に反応し、めちゃくちゃ早く先に進もうとするので追うのに必死になり過ぎた。あんな魔獣を一番最初に見た為か、恐怖心もある。
「身体は普通に疲れるって言われてたの・・・忘れてた」
両膝に手を当てて、ゼイゼイなる息を整える。
魔獣の森を抜けるのに何日、何時間かかるかもわからない。焦っても仕方がない。
「こんな時にいい道具があればいいのに・・・」
某アニメの青くて丸いロボットを思い出す。頭に小さなプロペラ乗せたい。
「ん? でも魔法で浮くこと、できないかな? 魔力は底なしで、疲れ知らずって言ってたし」
背筋を伸ばして、気を引き締める。意識を集中して浮くイメージを作った。
「浮上」
あんまり高いのは怖いので、地面から十センチほど浮く感じにイメージを固定する。
身体が急に軽くなって、ふわんと浮いた。
「お、おぉ~」
この状態で進めればいいのだけど・・・。
先を急がせるように赤く点滅する矢印を睨みつける。
「訓練の最中なんだから、もう少し待って」
そう言うと点滅が止まった。
でもすぐに何故矢印が急がせるのかがわかった。
ガサ・・・、ガサガサ。
背後でなる不気味な音。
「ひゃっ! す、進め~っ!!!!」
「ぎゃうっ」
今まで多美江がいた場所に何かが飛びかかるが、すんでの所で回避する。
「怖い~っ! 魔獣の森、怖い~っ!!!」
後ろを見るのも怖くて逃げるのに集中した結果、一時間ほどで人が通りそうな道に辿り着いた。
木の影からその道を見る。明らかに人の手が入ったと思われる整備された道。
そして誰もいない。
こんな魔獣の森のすぐ側に、人が通る道など作っても大丈夫なのか?
それとも何か目に見えない魔法的な加護とかあるのか?
「まさか、魔獣の罠って・・・わけ、ないよね?」
果たして魔獣と言われる生き物に、そこまでの知識があるのかわからないけど。
でも仕方がないので、一応道に出てみる。
魔獣の森と道の境目で、ちょっと身体がピリッとしたのは気のせいか?
多美江は首を捻りながら、魔獣の森を振り返る。
今のは何だったのか、考えてもわからない。
「矢印~、えっと第三の街・・・何だったっけ? ああ、そうだっ! シムスだ。シムスはどっち?」
矢印が方向を示し点滅する。
何となくだが、会話ができているように感じる。
一人なんだけど、一人じゃないような気分になるのが嬉しい。
「さて、とりあえずさっきみたいに飛んで行こう。人がきたら止めればいいし」
疲れるのは嫌だし・・・。は、心の中に留めておこう。
三十分ほどふよふよ浮きながらシムスに向かっていると、ガラガラと何かの音が背後から近付いてきた。
多美江は浮くのを止めて、その音がくるのを待つ。
ロバらしき生き物に引かせた荷馬車が見えた。ちょっとくたびれた感じのおじさんが御者台に座っている。
おじさんは多美江に気付いて馬車を止めた。
「お~、お譲ちゃんの一人旅って珍しいな。シムスまでかい?」
「はい」
人の良さそうな感じのおじさんだ。乗せてくれないかな~と思っていると、指をくいっとして自分の隣を示した。
「まだ少し距離があるし、乗っていくかい?」
「はいっ!」
この世界に来て初めて遭遇した人間が、この人の良さそうなおじさんでよかった。
何しろ初めて遭遇した生き物が魔獣だった為、少々怖くなっていたのだ。
「よいしょ」
多美江には少々高い御者台に必死によじ登り座る。
おじさんは微笑ましそうに幼く見える多美江を眺めていた。
「出すよ~」
「はい」
ロバのカポカポと長閑な足音。それに荷馬車のガラガラとなる音しかない。
晴れた空は澄んでいて、緑が多いからか空気は美味しい。
緑と言っても魔獣の森だけど。
「お譲ちゃんはどこからきたんだい?」
「クリシャーナ山脈からです」
北の最果ての山脈の名に、おじさんは驚いたように多美江を見る。
「また偉く遠くからだね~。一人では大変だっただろう」
そんなには旅らしいものもしていないので、多美江は曖昧に微笑んで誤魔化した。
「シムスには誰かを訊ねにきたのかい?」
「いいえ、冒険者登録しようと思って」
またもおじさんの目が丸くなる。
「冒険者? お譲ちゃんが? まだ成人前だろう? いくつなんだい?」
「十五歳です」
思っていたより歳を重ねていて、またもおじさんは驚愕する。
「そうかい、そうかい。じゃあ、シムスで一番のギルドまで乗せて行ってあげるよ」
「ありがとうございますっ!」
おじさんは何の屈託もない多美江を見て、「本当にこの子、大丈夫だろうか?」と思ったことは内緒にしておいた。
「騙されそうで、おじさん心配だよ」
と小さく呟いておく。
「ちょ、ちょっと待ってっ」
矢印も多美江に反応し、めちゃくちゃ早く先に進もうとするので追うのに必死になり過ぎた。あんな魔獣を一番最初に見た為か、恐怖心もある。
「身体は普通に疲れるって言われてたの・・・忘れてた」
両膝に手を当てて、ゼイゼイなる息を整える。
魔獣の森を抜けるのに何日、何時間かかるかもわからない。焦っても仕方がない。
「こんな時にいい道具があればいいのに・・・」
某アニメの青くて丸いロボットを思い出す。頭に小さなプロペラ乗せたい。
「ん? でも魔法で浮くこと、できないかな? 魔力は底なしで、疲れ知らずって言ってたし」
背筋を伸ばして、気を引き締める。意識を集中して浮くイメージを作った。
「浮上」
あんまり高いのは怖いので、地面から十センチほど浮く感じにイメージを固定する。
身体が急に軽くなって、ふわんと浮いた。
「お、おぉ~」
この状態で進めればいいのだけど・・・。
先を急がせるように赤く点滅する矢印を睨みつける。
「訓練の最中なんだから、もう少し待って」
そう言うと点滅が止まった。
でもすぐに何故矢印が急がせるのかがわかった。
ガサ・・・、ガサガサ。
背後でなる不気味な音。
「ひゃっ! す、進め~っ!!!!」
「ぎゃうっ」
今まで多美江がいた場所に何かが飛びかかるが、すんでの所で回避する。
「怖い~っ! 魔獣の森、怖い~っ!!!」
後ろを見るのも怖くて逃げるのに集中した結果、一時間ほどで人が通りそうな道に辿り着いた。
木の影からその道を見る。明らかに人の手が入ったと思われる整備された道。
そして誰もいない。
こんな魔獣の森のすぐ側に、人が通る道など作っても大丈夫なのか?
それとも何か目に見えない魔法的な加護とかあるのか?
「まさか、魔獣の罠って・・・わけ、ないよね?」
果たして魔獣と言われる生き物に、そこまでの知識があるのかわからないけど。
でも仕方がないので、一応道に出てみる。
魔獣の森と道の境目で、ちょっと身体がピリッとしたのは気のせいか?
多美江は首を捻りながら、魔獣の森を振り返る。
今のは何だったのか、考えてもわからない。
「矢印~、えっと第三の街・・・何だったっけ? ああ、そうだっ! シムスだ。シムスはどっち?」
矢印が方向を示し点滅する。
何となくだが、会話ができているように感じる。
一人なんだけど、一人じゃないような気分になるのが嬉しい。
「さて、とりあえずさっきみたいに飛んで行こう。人がきたら止めればいいし」
疲れるのは嫌だし・・・。は、心の中に留めておこう。
三十分ほどふよふよ浮きながらシムスに向かっていると、ガラガラと何かの音が背後から近付いてきた。
多美江は浮くのを止めて、その音がくるのを待つ。
ロバらしき生き物に引かせた荷馬車が見えた。ちょっとくたびれた感じのおじさんが御者台に座っている。
おじさんは多美江に気付いて馬車を止めた。
「お~、お譲ちゃんの一人旅って珍しいな。シムスまでかい?」
「はい」
人の良さそうな感じのおじさんだ。乗せてくれないかな~と思っていると、指をくいっとして自分の隣を示した。
「まだ少し距離があるし、乗っていくかい?」
「はいっ!」
この世界に来て初めて遭遇した人間が、この人の良さそうなおじさんでよかった。
何しろ初めて遭遇した生き物が魔獣だった為、少々怖くなっていたのだ。
「よいしょ」
多美江には少々高い御者台に必死によじ登り座る。
おじさんは微笑ましそうに幼く見える多美江を眺めていた。
「出すよ~」
「はい」
ロバのカポカポと長閑な足音。それに荷馬車のガラガラとなる音しかない。
晴れた空は澄んでいて、緑が多いからか空気は美味しい。
緑と言っても魔獣の森だけど。
「お譲ちゃんはどこからきたんだい?」
「クリシャーナ山脈からです」
北の最果ての山脈の名に、おじさんは驚いたように多美江を見る。
「また偉く遠くからだね~。一人では大変だっただろう」
そんなには旅らしいものもしていないので、多美江は曖昧に微笑んで誤魔化した。
「シムスには誰かを訊ねにきたのかい?」
「いいえ、冒険者登録しようと思って」
またもおじさんの目が丸くなる。
「冒険者? お譲ちゃんが? まだ成人前だろう? いくつなんだい?」
「十五歳です」
思っていたより歳を重ねていて、またもおじさんは驚愕する。
「そうかい、そうかい。じゃあ、シムスで一番のギルドまで乗せて行ってあげるよ」
「ありがとうございますっ!」
おじさんは何の屈託もない多美江を見て、「本当にこの子、大丈夫だろうか?」と思ったことは内緒にしておいた。
「騙されそうで、おじさん心配だよ」
と小さく呟いておく。
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