ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 カポードの腰にしがみついたまま顔だけぴょっこり出していると、何故かギルラスに引き剥がされた。
 そのまま手を繋がれてしまって、多美江としてはどう対処したらいいのかわからない。
 その様子を見て、カポードは面白そうににやにやして笑っていた。
「しかし最初からこれでは、いろいろと心配だな」
 そうなのだ。問題は何も解決していない。
 多美江としては冒険をしたい。せっかくジルドになれる能力があるのだから、その状況を楽しみたい。
 誰にも披露できないのが、とても残念だけど。
 でもこのままでは魔術を使うことさえ、身を危うくする・・・・・・のか?
 まあ、何もかも何も考えずに魔術を使ってしまった多美江が悪いのだが・・・。
「シムスに戻ってきて下さいよ。修理依頼を飛ばすのも結構大変なんですから」
「だがな~、残された家が心配なんだよ。後を継いだ身としてはな」
 そうか、確かカポードは婿養子的な存在だった。大好きな冒険を止めてまで、愛した妻と結婚した。その妻が残した家が心配なんだ。結構カポードは、ロマンチストなのかもしれない。顔に似合わず・・・。
「引越祝いに工房がついた家を用意しますから。ターミャが心配なら越してきて下さい」
「お前ねぇ~、そういう言い方するか?」
 またもカポードに迷惑をかけているようだ。
 しばらくシムスの街にいるつもりだったが、これは魔獣の森に少しばかり隠れていた方がいいのかもしれない。
「あの・・・・・・冒険者登録もしましたし、私・・・街を離れても」
「「それは駄目だ」」
 何故間髪入れずに、二人で拒否する?
「ん~・・・」
 唇を噛んで唸っていると、ギルラスの指が解す。
「噛むな、傷になる」
「んむ~・・・」
 今度は噛まずに唸っておいた。
「よし、越してくるか。良い家頼むぞ、ギルラス。ターミャちゃんも住むんだからな」
「はい」
 おいおいおい、本人無視して決定かいっ!?
「んんむぅ~・・・・・・」
 一応、不満の唸り声も出しておく。
「そんな顔しても、可愛いだけだからな。ターミャちゃん」
 カポードがまたも笑った。
「とりあえずしばらくはこれで大丈夫だと思うが、本当にジェリオの手が開いた時が勝負だな」
「結界修復に・・・一週間というところ、ですか」
「普通の魔術師なら一月はかかるだろうがな・・・。化けもんだからな、あいつは」
 ジェリオって確か、検問の時にこちらをじっと見ていたあの人か?
 ちょっと真剣な瞳をしていて、怖かったイメージがある。
「俺もこっちにくるのはいろいろ整理があるから、一週間はかかる。その間、頼んだぞ」
「はい」
 カポードは今度こそ行ってしまった。
「帰ろうか」
 多美江が頷くと、何故か手を繋いだまま街まで戻る。
「あ・・・、ターミャちゃん」
 大丈夫だったのか? というような心配そうな顔を、アルドリッチに向けられる。
「アルドリッチ、今日帰ったらマリリーネに殴られるのを覚悟しておけよ」
「・・・・・・それはないよ、ギルラスさん」
 ちょっとアルドリッチが可哀想になって、多美江はペコッと頭を下げて門を抜けた。
 ギルドの中に入って、ようやく多美江の手は解放される。
「あらあら、ターミャちゃん。大変だったわね~」
 マリリーネの豊満な胸に抱き込まれてしまった。もう噂はギルドにも届いていたらしい。
「残念でしたね~、ギルド対騎士団ってもろ楽しめる状況だったのに」
「馬鹿なこというな」
 茶化す声にもギルラスは冷静だ。
「久しぶりに元ギルドマスターの戦いが見られるかもって、結構な数の冒険者たちが見物に行ってましたよ」
「お前もだろうが~」
「ははは、見逃せないよ」
 元ギルドマスター。あの状況から見て、それはカポード?
 やはりカポードはただの人じゃなかった。
 現ギルドマスターであるギルラスも敬語で話しているから、何かあるなと察していた多美江だったが。
「あ、ギルラスさん。王都から至急の依頼です」
「何?」
 何となく多美江もギルラスに着いていく。
 カウンターに乗せられた依頼書らしき紙を見て、多美江は瞳を見開いた。
「皇太子様のご病気・・・・・・、結構深刻になっているみたいですね」
 この依頼書と皇太子の病気。どんな関係があるのだろう?
「・・・そうだな」
 皇太子を見知っているギルラスは、かなり複雑な心境だ。
 この世界にきたばかりの多美江には、王子様のことなど遠い世界の人の話だ。
 だから、まずは興味のあるその依頼書の方をじっと見る。
 絵つきの依頼書。昨日見たばかりの魔獣が、そこに描かれていた。本物はもうちょっと、間抜けな顔をしていたけれど。
「でもケルベルスなんて幻の魔獣と呼ばれているんですよ。どうやって捜せばいいのか・・・」
「あ・・・、そうか。ケロベロスじゃなくて、あの子ケルベルスだったんだ」
 マリリーネの話を何となく聞いていて、思わず心の中で思っていたことを口に出してしまった。もちろん言葉にして出していたなんて、依頼書に夢中な多美江は気付いていない。
「「・・・・・・・・・あの子?」」
「ん?」
 顔を上げて、気付いてしまった。声に出していたことを。
 嫌な汗がにじみ出る。
「あ、え・・・っとぉ~」
 何とか誤魔化さなければ、これは本当にヤバい。
 ガシリと両肩をギルラスの大きな手が掴む。これではさすがに逃げられない。
「・・・見たのか? ターミャ」
「見た・・・というか。あ・・・図鑑で小さい頃・・・に」
 言い訳が痛い。
「ちゃんと俺の目を見なさい」
(う~・・・、嫌だぁ~)
 恐ろしいほどの真剣な瞳から、視線を逸らすことができない。
「何処で見た?」
「ま、魔獣の森・・・・・・」
「ま、魔獣の森ぃっ!? ターミャちゃん、魔獣の森に入ったのっ?」
 入ったというか、そこで寝泊まりしましたとは口が裂けても言えない。
「う~・・・」
「唸るな。場所は解かるのか?」
 多分まだあの場所にいるとは思う。三日間拘束の魔術をかけたから。でもそれは言ってもいいのだろうか?
 慎重に行動しなければと、決意したのは昨夜のことだ。
 それを翌朝に破るなんて・・・できない、よね?
「案内できるか? 移動してはいるだろうが、痕跡は残っている可能性が大きい」
「これで王家に信頼を得れば、ターミャちゃんにも有利になるかもしれないわよ?」
 何っ!? 自分に有利になる? それはきちんと聞いておかないと。
「ど、どういった場合にっ?」
 カウンターにしがみつきながら、マリリーネに問う。
「今回の騎士団とのいざこざも王家の方々の一言があれば、即解決よっ!」
 バチリッ! と長いまつげを片方だけ瞑りる様は、とても心強く感じる。
「おいっ! B級以上集まれ、仕事だっ!」
 何だ何だと疑問に思いながらも、冒険者たちはギルラスの元に集まる。
「・・・これだけか。ではC級の冒険者もこい」
 それでも集まった人数は二十人にも満たなかった。
 そんなにいるものなのか? 多美江はそう考えて、首を捻った。
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