ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 馬車はカポードの荷馬車ほど揺れず、とても快適だった。もしかして、魔術らしきもので揺れを塞いでいるのかもしれない。
(ギルラスさんのお家は、お貴族様だもんね。別邸って言ってもきっと、もの凄いんだろうな~)
 玄関には豪華でキラキラしたシャンデリア。きっと宝石が、いっぱいついているんだろう。
 ふかふかの絨毯が足を優しく包んでくれて、思わずモフりたくなるかもしれない。これは用心しないと誘惑に負けて、変態さんになってしまいそうだ。
 などと妄想を楽しんでいると、馬車が停まった。
「・・・・・・ちっ。着くのが早いな」
(ギルラスさん、・・・今、舌打ちしましたか?)
 多美江は驚いて、ギルラスを見上げた。
 視線を感じたのか、ギルラスが多美江を見る。
「ターミャ、覚悟しておけよ」
 何を? と問う前に、扉が開けられた。
「俺は別邸に、と言ったはずだがな」
「ご家族様が、すでに玄関でお待ちです。いつ帰ってくるのかわからない坊ちゃまを外で待つなど、何と・・・・・・」
 泣く真似もするのか・・・、今の執事は。しかも演技派だ。
「どうせ鳥でも飛ばさせたのだろう? いや、デュークか」
 デュークとは誰ぞや? 多美江の頭はプチパニックだ。
「別邸へ行かれるにも、まずは旦那様の許可を得て下さいまし」
「はあ・・・、仕方ない。ターミャ、一度降りるぞ」
「は、はい・・・」
 ギルラスが先に降りてターミャを抱えて降ろそうとした時、ころころした可愛らしい声が響いた。
「まあ、なんて大きなお人形さんかしら。私へのお土産? 少しこちらへお貸しなさい」
 ギルラスはその声に、多美江を抱いたまま振り返る。
「・・・母上」
「まあまあ、可愛らしい。こちらにいらっしゃい」
 この人がギルラスのお母さん? ちょっと若くないか? こんな美しい人からこんな子ができるとは・・・、想像できない。
「軽いわね。本当にお人形さんみたい」
 無理やり、ギルラスから多美江を奪い取る。
「本当に可愛らしいですね。黒い髪に黒い瞳。どちらも黒い組み合わせなど、私は見たことがありません。母上・・・、私にも抱っこさせて下さい」
「何を言うのよ。私も今抱っこしたばかりなのよ」
 どう突っ込みを入れればいいのか。多美江は激しく動揺していた。
「一人締めはよくないですよ。私だって妹は欲しかったのですけどね」
「無茶を言わないでおくれ、デューク。私だって頑張るつもりだったのだが・・・ね。どれ、こっちにおいで」
 ギルラスが三人の会話を聞いて、呆れ返っている。大きなため息をつきながら、多美江を父親の腕から奪い返す。
 たらいまわしにされていた多美江は、目が回っていた。
「一応ターミャは人形ではないですからね。繊細な生き物なのですから、いつものようには扱わないで下さい」
「「「・・・・・・」」」
 思わずギルラスの首に腕を絡める多美江。
 懐いているように見えたのか、他の三人がとても羨ましそうにする。
「この子が今回の功労者ですね?」
「ああ・・・、ってお前。近衛隊長のお前がここにいていいのか?」
「久し振りに休みをいただきました。父上たちにお知らせする為に、魔方陣で帰ってきたのです」
 魔方陣。あったのか、ここにも。あれは便利だ。すぐに目的の場所に着けるから。
 多美江にも作れるだろうか? 一回試してみようと考える。
「もしかして、城とここを繋ぐ魔方陣を張らせているのか?」
 驚愕しながら、ギルラスは聞く。
「ええ、皇太子の容体が良くなかったですからね。何かあればすぐに駆けつけられるようにと、ウィザード殿が」
「職権乱用だな・・・」
 家の中に魔方陣を敷くとは、どれほど王家の方々から信用されているのだ。
「とにかく中へお入りなさい」
 ギルラスのお母さんの一言で、ここでの会話は終わりを告げた。
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