36 / 38
36
しおりを挟む
お昼からのリリアンヌの猛攻撃は、すさまじいものがあった。仕立て屋を屋敷に呼び、多美江のドレスの打ち合わせに時間を潰した。
リリアンヌの細かな注文に応えるのに、仕立て屋は目まぐるしく動く。
多美江はその中心に立ち、されるがままのお人形さんだ。
布の素材選び、ドレスのデザイン決め、宝石の選出、髪型、化粧。果ては仕立て屋が持ってきたレースが気に入らないと、いい出す始末。
すべて終わった時には、多美江はぐったりしていた。
あまりにも注文が多いリリアンヌに、仕立て屋と宝石屋、その他の店主たちはてんてこ舞いだ。
打ち合わせが終わると急いで皆帰って行った。
これから地獄の徹夜が始まるのだろう。
何せ、舞踏会は二日後だ。
「お疲れさん」
ギルラスの労いの言葉に、じと目で睨む。
そして舞踏会の朝、ギリギリに出来てきたドレスや宝石は見事なものだった。
「・・・・・・こんなキラキラしたもの。買ってもらっても払えないよ? 着て行く場所なんて、もう二度とないだろうし」
「母上が楽しんで用意させたのだから、金は要らないだろう?」
呑気な声を出すギルラスが恨めしい。
だってもの凄く高いぞ、これは・・・。すべてオーダーメイドなんだぞ。
拘り過ぎたリリアンヌのせいで、もの凄く豪華に仕上がってしまった。細かい細工に多美江はただ感心して、唸り声を上げるだけだ。
職人さんの目の下の隈が、いかに難しい注文だったのかをもの語っている。涙ぐましい努力だ。拍手喝采を浴びせたいほどに。
(ま、いいか・・・)
思い悩んでも仕方がない。お金払えって言われたら、ギルラスにたかろう。ギルラスの母が仕出かした惨事なのだから。
上から下まで人の手でこねくり回されて、ようやく仕度が整う頃には陽が落ちかけていた。
「行こうか」
ちろりと視線を多美江へ送っただけのギルラスが、エスコートなのか手を差し出す。
ギルラスはさすがお貴族様だ。見事に正装を着こなしている。上質の男前が出来上がっていた。
「くそ・・・・・・」
「女の子が、そんな言葉を使うな」
悔し紛れに呟いた言葉を、聞かれていたようだ。
多美江のドレスは紅色だ。金色の刺しゅう糸で細かい細工を施してある上に、宝石も縫いつけてあった。小さなとも布で小花を作り、それも縫いつけてある。とても可愛らしくて、華やかな仕上がりだった。
「・・・可愛いぞ?」
何故に疑問形なのだ。
「むむ・・・・・・」
ぎゅむと眉を顰めると、指で解される。その余裕に、何だか余計に腹が立つ。
仕方がないのでギルラスの腕にぶら下がり、エスコートを受ける。
前を歩くのは、ギルラスのご両親。もの凄く絵になるお二人だった。
独り者のデュークは、多美江とギルラスの後ろについてきていた。
「お化粧して大人になったね。ターミャちゃん」
普段はすっぴんの多美江だ。こちらの世界にきて、初めて化粧をした。その初めてが、こんなにこってりしたものになるなんて・・・。これでは厚化粧お化けだ。
「ちゃんと十五歳に見えるな」
そこは肯定するな、ギルラス。
いつもは何歳に見えているのだ・・・とは、聞かないでおこう。
二台の馬車が玄関先で待っていた。どうやら別れて乗るらしい。
美しい所作でドレスをさばくリリアンヌはもちろん一人で乗車する。
多美江は引きずるような裾の長いドレスは初めてで、歩くだけで精一杯だ。
なのでいつものようにギルラスに抱えられての乗車だ。
「過保護だね・・・、結構」
今までの兄では、考えられないほどの過保護さだ。どんなに見目麗しい令嬢からの熱い視線も、すべて無視していたというのに・・・。どういう心境の変化か。
そして嫌な予感しかしない、舞踏会へ一同は出発したのだった。
リリアンヌの細かな注文に応えるのに、仕立て屋は目まぐるしく動く。
多美江はその中心に立ち、されるがままのお人形さんだ。
布の素材選び、ドレスのデザイン決め、宝石の選出、髪型、化粧。果ては仕立て屋が持ってきたレースが気に入らないと、いい出す始末。
すべて終わった時には、多美江はぐったりしていた。
あまりにも注文が多いリリアンヌに、仕立て屋と宝石屋、その他の店主たちはてんてこ舞いだ。
打ち合わせが終わると急いで皆帰って行った。
これから地獄の徹夜が始まるのだろう。
何せ、舞踏会は二日後だ。
「お疲れさん」
ギルラスの労いの言葉に、じと目で睨む。
そして舞踏会の朝、ギリギリに出来てきたドレスや宝石は見事なものだった。
「・・・・・・こんなキラキラしたもの。買ってもらっても払えないよ? 着て行く場所なんて、もう二度とないだろうし」
「母上が楽しんで用意させたのだから、金は要らないだろう?」
呑気な声を出すギルラスが恨めしい。
だってもの凄く高いぞ、これは・・・。すべてオーダーメイドなんだぞ。
拘り過ぎたリリアンヌのせいで、もの凄く豪華に仕上がってしまった。細かい細工に多美江はただ感心して、唸り声を上げるだけだ。
職人さんの目の下の隈が、いかに難しい注文だったのかをもの語っている。涙ぐましい努力だ。拍手喝采を浴びせたいほどに。
(ま、いいか・・・)
思い悩んでも仕方がない。お金払えって言われたら、ギルラスにたかろう。ギルラスの母が仕出かした惨事なのだから。
上から下まで人の手でこねくり回されて、ようやく仕度が整う頃には陽が落ちかけていた。
「行こうか」
ちろりと視線を多美江へ送っただけのギルラスが、エスコートなのか手を差し出す。
ギルラスはさすがお貴族様だ。見事に正装を着こなしている。上質の男前が出来上がっていた。
「くそ・・・・・・」
「女の子が、そんな言葉を使うな」
悔し紛れに呟いた言葉を、聞かれていたようだ。
多美江のドレスは紅色だ。金色の刺しゅう糸で細かい細工を施してある上に、宝石も縫いつけてあった。小さなとも布で小花を作り、それも縫いつけてある。とても可愛らしくて、華やかな仕上がりだった。
「・・・可愛いぞ?」
何故に疑問形なのだ。
「むむ・・・・・・」
ぎゅむと眉を顰めると、指で解される。その余裕に、何だか余計に腹が立つ。
仕方がないのでギルラスの腕にぶら下がり、エスコートを受ける。
前を歩くのは、ギルラスのご両親。もの凄く絵になるお二人だった。
独り者のデュークは、多美江とギルラスの後ろについてきていた。
「お化粧して大人になったね。ターミャちゃん」
普段はすっぴんの多美江だ。こちらの世界にきて、初めて化粧をした。その初めてが、こんなにこってりしたものになるなんて・・・。これでは厚化粧お化けだ。
「ちゃんと十五歳に見えるな」
そこは肯定するな、ギルラス。
いつもは何歳に見えているのだ・・・とは、聞かないでおこう。
二台の馬車が玄関先で待っていた。どうやら別れて乗るらしい。
美しい所作でドレスをさばくリリアンヌはもちろん一人で乗車する。
多美江は引きずるような裾の長いドレスは初めてで、歩くだけで精一杯だ。
なのでいつものようにギルラスに抱えられての乗車だ。
「過保護だね・・・、結構」
今までの兄では、考えられないほどの過保護さだ。どんなに見目麗しい令嬢からの熱い視線も、すべて無視していたというのに・・・。どういう心境の変化か。
そして嫌な予感しかしない、舞踏会へ一同は出発したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜
As-me.com
恋愛
事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。
金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。
「きっと、辛い生活が待っているわ」
これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。
義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」
義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」
義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」
なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。
「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」
実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!
────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる