ヒロインはヒーローに憧れる~五分間だけ英雄になれる能力をいただきました~

如月美樹

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 お昼からのリリアンヌの猛攻撃は、すさまじいものがあった。仕立て屋を屋敷に呼び、多美江のドレスの打ち合わせに時間を潰した。
 リリアンヌの細かな注文に応えるのに、仕立て屋は目まぐるしく動く。
 多美江はその中心に立ち、されるがままのお人形さんだ。
 布の素材選び、ドレスのデザイン決め、宝石の選出、髪型、化粧。果ては仕立て屋が持ってきたレースが気に入らないと、いい出す始末。
 すべて終わった時には、多美江はぐったりしていた。
 あまりにも注文が多いリリアンヌに、仕立て屋と宝石屋、その他の店主たちはてんてこ舞いだ。
 打ち合わせが終わると急いで皆帰って行った。
 これから地獄の徹夜が始まるのだろう。
 何せ、舞踏会は二日後だ。
「お疲れさん」
 ギルラスの労いの言葉に、じと目で睨む。
 そして舞踏会の朝、ギリギリに出来てきたドレスや宝石は見事なものだった。
「・・・・・・こんなキラキラしたもの。買ってもらっても払えないよ? 着て行く場所なんて、もう二度とないだろうし」
「母上が楽しんで用意させたのだから、金は要らないだろう?」
 呑気な声を出すギルラスが恨めしい。
 だってもの凄く高いぞ、これは・・・。すべてオーダーメイドなんだぞ。
 拘り過ぎたリリアンヌのせいで、もの凄く豪華に仕上がってしまった。細かい細工に多美江はただ感心して、唸り声を上げるだけだ。
 職人さんの目の下の隈が、いかに難しい注文だったのかをもの語っている。涙ぐましい努力だ。拍手喝采を浴びせたいほどに。
(ま、いいか・・・)
 思い悩んでも仕方がない。お金払えって言われたら、ギルラスにたかろう。ギルラスの母が仕出かした惨事なのだから。
 上から下まで人の手でこねくり回されて、ようやく仕度が整う頃には陽が落ちかけていた。
「行こうか」
 ちろりと視線を多美江へ送っただけのギルラスが、エスコートなのか手を差し出す。
 ギルラスはさすがお貴族様だ。見事に正装を着こなしている。上質の男前が出来上がっていた。
「くそ・・・・・・」
「女の子が、そんな言葉を使うな」
 悔し紛れに呟いた言葉を、聞かれていたようだ。
 多美江のドレスは紅色だ。金色の刺しゅう糸で細かい細工を施してある上に、宝石も縫いつけてあった。小さなとも布で小花を作り、それも縫いつけてある。とても可愛らしくて、華やかな仕上がりだった。
「・・・可愛いぞ?」
 何故に疑問形なのだ。
「むむ・・・・・・」
 ぎゅむと眉を顰めると、指で解される。その余裕に、何だか余計に腹が立つ。
 仕方がないのでギルラスの腕にぶら下がり、エスコートを受ける。
 前を歩くのは、ギルラスのご両親。もの凄く絵になるお二人だった。
 独り者のデュークは、多美江とギルラスの後ろについてきていた。
「お化粧して大人になったね。ターミャちゃん」
 普段はすっぴんの多美江だ。こちらの世界にきて、初めて化粧をした。その初めてが、こんなにこってりしたものになるなんて・・・。これでは厚化粧お化けだ。
「ちゃんと十五歳に見えるな」
 そこは肯定するな、ギルラス。
 いつもは何歳に見えているのだ・・・とは、聞かないでおこう。
 二台の馬車が玄関先で待っていた。どうやら別れて乗るらしい。
 美しい所作でドレスをさばくリリアンヌはもちろん一人で乗車する。
 多美江は引きずるような裾の長いドレスは初めてで、歩くだけで精一杯だ。
 なのでいつものようにギルラスに抱えられての乗車だ。
「過保護だね・・・、結構」
 今までの兄では、考えられないほどの過保護さだ。どんなに見目麗しい令嬢からの熱い視線も、すべて無視していたというのに・・・。どういう心境の変化か。
 そして嫌な予感しかしない、舞踏会へ一同は出発したのだった。
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