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番外編 執事の受難

1話

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執事は暗闇の中で目を覚ました。
彼は主人が訪れるのを待つ間、自分の人生を振り返っていた。



執事の名はガイヤという。
先祖代々、マルクの家に使える執事である。
彼の祖父はマルクの祖父に、彼の父はマルクの父に、そして彼はマルクに使えている。

「はじめまして、マルク様」

ガイヤがマルクに出会ったのはマルクが生後間もないころだった。
マルクよりも五つも年が上のガイヤは弟ができたような感覚だった。

「あー、あー」

「マルク様、危ないですよ」

ガイヤは自身が幼いながらも精一杯、マルクのお守をした。
マルクの近所にはグレンも住んでおり、家族ぐるみで仲が良かったので、幼いころから二人はよく遊んでいた。
しかしガイヤは執事なので屋敷を出てグレンと一緒に遊んだり、近所の子供と交流を持つことを禁じられていたのだ。

「いいなぁ」

ガイヤは窓から近所の子供たちが遊んでいる姿やマルクとグレンがはしゃいでいる様子をいつも羨ましそうに見ている。



月日は流れ、ガイヤが12歳になった時のことである。
祖父に連れられて、マルクの祖父が使用している、本館とは別の屋敷に連れてこられたのだ。

「お爺様、ここはどこですか?」

「いいか、ガイヤ。お主もこの屋敷に使える身として知らなければならぬことがあるのだ」

屋敷の玄関を入ると、階段横の部屋に連れてこられた。
部屋の中にはマルクの祖父が既にいた。
そして周りに飛び散った大量の血とその中には見知らぬ男がいたのだ。

「ひっ」

ガイヤは思わず手で口を覆った。

「うろたえるでない」

ガイヤの祖父が耳元で鋭く言い放った。

「おお、来たのか」

返り血を浴びたマルクの祖父が振り向いた。
その向こうの血だらけの男がガイヤを朧げに見つめている。

「タスケテ」

男の口が動いた。
音は出ない。

「もう終わられますか」

「うむ、聞きたい情報も得られたことだしのう」

マルクの祖父が近づいてくる。

「しかしこやつを連れてくるとは思わなんだ」

マルクの祖父はガイヤの祖父が手渡したタオルで返り血を拭っている。

「教えなければならないことがあります故」

ガイヤの祖父はガイヤの背中を押して血だまりに近づかせる。

「そうじゃのう。マルクはわしに似ているからのう」

マルクの祖父はそう呟くと部屋を出て行った。






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