売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
28 / 83
過保護な主

過保護な主(9)

しおりを挟む



 都に来て初めての発情期ヒートのときだ。
 その日、かすかなフェロモンの匂いを自覚したユリウスは、食料と水を持って、地下蔵に籠ろうとした。家の中にいれば、扉を閉めていても多少はフェロモンが漏れる。ラインハルトに迷惑をかけないためにはそれが一番いいと思っていた。
 しかし、エレナからその必要はないと言われた。
 ユリウスが発情期ヒートになった際には兵営に知らせに来るよう、以前から言われていたのだそうだ。ユリウスの発情期ヒート中、ラインハルトは兵営で寝泊まりする心づもりのようだった。

 ユリウスは自分が地下蔵で過ごすと言い張ったが、聞き届けてもらえず、ギルベルトが一週間分の着替えを持って兵営に知らせに行った。結局、ユリウスの発情期ヒートが終わるまで、ラインハルトは屋敷に戻ってこなかった。

 発情期ヒートが治まった翌日にトマスに会ったとき、彼は『一週間兵営で過ごせる人間なんていないから、きっと娼館に泊まってたんだよ』などと軽口を叩いていた。
 それが真実かどうかはともかくとして、ラインハルトが一週間外泊するほどに、発情期ヒート中のユリウスとの接触を避けたことは事実であった。
 ユリウスはラインハルトにとって、従兄の義弟で、使用人。彼のほうにはそれ以上のじょうは微塵もなかったのだ。

 娼婦以上に相手にされない存在だったことに、発情期ヒート中は毎日枕を涙で濡らしたけれども、それでも発情期ヒートが終わってしまえば、それなりに吹っ切れた気分になった。
 今回は、近くで見ていることが辛くなったときは、使用人をやめるという選択肢がある。エイギルや姉のように、一生付き合っていかなければならない相手ではない。
 そう思えば、一度目より気楽でもあった。

 その頃には料理や洗濯も今より上手くなっているだろうし、使用人をやめたとしてもきっと働き口は他にも見つかるはずだ。密偵の役目を果たせなかったことで貴族に下賜されるならそれでもいいし、許されるなら故郷に帰って、自分にできる仕事をさせてもらえばよい。
 何より、ラインハルトには今は妻も妾もいないため、エイギルのときのように好きでいるだけで誰かを裏切るわけでもない。

 ラインハルトの人となりも、今は少しだけ理解している。
 彼が選定の儀に一度も参加したことがないのは、きっと皆が噂しているように単純に平民のオメガが嫌いだからではない。現にユリウスにも、人として対等に接してくれている。

 彼は平民のオメガであっても、結婚の自由がなく、ただ選ばれるだけの存在であることをよしとしていない。だから、ユリウスに自由をくれて、やりたいことを探すよう言ったのだろう。それは選定の儀で選んでもらうよりも、ずっとずっとありがたいことだ。
 自分にできることは、従僕として仕えている間、彼の役に立てるように、精一杯働くことだけだ。そう思ったら、気持ちを自覚する前と何も変わらないように思えた。

 ラインハルトに頭を撫でられても、あからさまに喜びを顔に出さないように。彼を熱っぽい視線で見つめないように。それだけ気をつけて、毎日を懸命に過ごしているうちに、いつのまにか都に来て三か月が経っていた。



しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

処理中です...