売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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はじまりの場所

はじまりの場所(6)

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「そんなことのために、危険な任務を引き受けたのですか!?」

 ユリウスは思わず声を荒げた。

「あの夜もいつでも突入できるよう窓の下に腹心の部下を張り込ませていたし、お前さえいなければ、さして危険な任務でもなかった」

 逆に責めるような口調で言い返され、確かに自分のせいで窮地に陥らせてしまった手前、ユリウスはそれ以上言葉を呑みこむしかなかった。

 ただ、わざわざ根回ししてもらわなくても、ユリウスは確実に売れ残っていただろう。
 そう考えると、無駄なことに命をかけさせたとしか思えず、釈然としない気分は残る。

「どうしてライニ様は選定の儀に参加されなかったのですか?」

 以前からユリウスを気にかけてくれていたのなら、選定の儀に参加して、彼がユリウスを選べばよかった話だ。

「選定の儀で選んでしまったら、お前は拒否できなくなるだろう? お前はまだ、エイギルのことが好きだと思っていたから、まずは俺のことを知ってもらって、俺を好きになってもらえたらいいと思っていた。俺がそんなだから、陛下もお前を俺の従僕にすることで後押ししようと思われたのだろう」

「だとすると、陛下が僕に、ライニ様に謀反の疑いがあるから動向を探るようお命じになったのも、そのためということですか?」

「あぁ。あれは陛下のお戯れだ。俺はユーリを自由な身にしてくれるよう頼んだだけだが、陛下が勝手に、密偵の真似事をお命じになった。お前の報告書を読んで、俺の朴念仁ぶりを笑っておられたのだろう」

 陰謀が露見する直前までラインハルトの謀反を疑い、引き留めようとしていたことを思い返せば、たちの悪いいたずらだと思った。
 だが、従僕として働けたことには感謝していた。

「ユーリの出自のことは、事前にイェーガー公と相談した上で、お前に話すかどうか決めるつもりだったんだ。だが、お前がケースダルムに連れて行かれるかもしれないと思ったら、焦ってつい口にしていた」

「つい口にしていた」という言葉で、舞踏会の夜、首に剣をあてられ、ウェルナー辺境伯に連れて行かれようとしたとき、彼が『公の正式な跡取りです』と言ったことを思い出した。
 あのときは、辺境伯を動揺させるための口からでまかせだろうとしか思っていなかった。
「出自について知りたいか?」と改めて訊かれなければ、そのことも忘れていた。けれど、そう訊かれると、知りたいという気持ちも湧いてくる。
 どうして、ユリウスを抱きしめるとき、母はいつも泣いていたのか。「ごめんね」と謝っていたのか。もしかしたら、出自と関係があるのかもしれない。

「僕は……。僕の出自になにか秘密があるのなら、知りたいです」

 聞いたところで何かが変わるとは思えない。
 ただ、秘密を知っている人達が、隠していることで苦しい思いをしているのなら、そのことをずっと知らずに生きていくのは嫌だ。


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