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4章 闇底で交わす小指
決断 13
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鬼の関節が外れ、チューブの尾が捻じ曲げられた。鬼は支えをなくし、その身体は子取りの上に乗りかかる重さに耐えられない子取りは深く地に伏せた。
そこへもう1体の鬼が子取りを襲おうとし、それを別の大蛇が阻止する。
白糸を引っ張りなんとか子取りを誘導しようとしてもぴくりとも動かない。
「生きたいならここから出るのっ!」
叫んだあたしに呼応して子取りが僅かに動く。
小さくても反応があった。更に強く引こうとする。胴に絡まっていた大蛇が力なく、地に伏せる。
その地響きのせいでバランスが崩れる。
転びそうになったあたしを咄嗟にカンダタが支えた。
カンダタは後ろから腕を回してあたしの身体を支え、もう片手で白糸を引っ張る。
思いもしなかった出現に目を丸くする。
「清音は?」
カンダタの背には清音がいない。
あたしの強い疑念にカンダタは「置いて来た」とだけ答えた。
廃病院の子も蠍の鬼もこの場に集まっている。あの病院には危険になるものはないと判断したようだった。そうして、病院の通路に清音を置いてきてから走って戻って来た。
カンダタの額や頬には汗が滲んでいる。
「あともう少しだ。頑張れ」
その怒声はあたしにも子取りにも向けられていた。
カンダタはあたしから腕を放し、両手で白糸を握る。あたしも両脚を踏ん張る。
「出てこい!そこから!」
叫んだあたしの言葉は命令ではなく、願望だった。
これまであたしは子取りに願望を言っていたんだと気付いた。
胚羊水の胎児たちを解放したいのも、酷な身体に鞭を打つのもあたしの願望。
無意識に胎児たちと自分を重ねていた。
産まれたかったのに生きられない。産まれたいのに闇底から出ようとしない。
そんな胎児たちの姿は死んだように生きていたあたしに似ていた。
「出てこい!」
生きたいと求めて欲しい。身体中が痛くても闇底から這い出る勇気を持っていてほしい。
子取りの身体が少しずつ動き出した。
「頑張れ!」
あたしと同じ願望を乗せてカンダタも叫ぶ。
子取りは肥満し、垂れる肉を引き摺り、白糸を辿る。乗り掛かっていた鬼の死骸がずるりと落ちる。
離れようとする子取りに蠍の鬼が脚を摘もうとして、それを大蛇が阻止する。
垂れる肉を引き摺って、大声で泣く元気もない。それでも這いずって進むのはちゃんと望んでいる証。
腹を蹴られても親に拒絶しても世界が残酷だと知っても生きたいと願ってくれている。
子取りは最後の力を絞って蠍の鬼と大蛇の乱闘から距離をとる。
「行け!瑠璃!」
あとはあたし次第だとカンダタが怒声で背中を押す。
白糸をカンダタに任せ、あたしは傘の形となった十手を携えて走る。子取りの横を抜け、怪物たちの乱闘へと脚を進める。
子取りを捕らえようと蠍の鬼が天地を薙ぎ払う。あたしはそいつの前に立ちはだかった。
十如十廻之白御霊は所有者が必要となる形に変わると光弥は話していた。
あたしが父への殺意を表したらサバイバルナイフになって、日常に戻ればペンになった。その理屈は未だにわかっていないし、十手を使いこなす方法を見出していない。
銃や刀の使い方はわからない。けれど、今のあたしは胚羊水を破壊したいと願い、十手は傘に変形した。傘の使い方ならよく知っている。
蠍の鬼に立つあたしは小人当然で、小石ぐらいの障害しかない。それを自覚していても怯まずに仁王立ちになって胎盤鉗子の鬼を睨む。
「道具の分際で命を間引くな」
感情のない道具に悪態をついても、何も伝わらなくとも、言わずにいられなかった。あたしの訴えは誰にも届かず、胚羊水の闇底に消える。
そこへもう1体の鬼が子取りを襲おうとし、それを別の大蛇が阻止する。
白糸を引っ張りなんとか子取りを誘導しようとしてもぴくりとも動かない。
「生きたいならここから出るのっ!」
叫んだあたしに呼応して子取りが僅かに動く。
小さくても反応があった。更に強く引こうとする。胴に絡まっていた大蛇が力なく、地に伏せる。
その地響きのせいでバランスが崩れる。
転びそうになったあたしを咄嗟にカンダタが支えた。
カンダタは後ろから腕を回してあたしの身体を支え、もう片手で白糸を引っ張る。
思いもしなかった出現に目を丸くする。
「清音は?」
カンダタの背には清音がいない。
あたしの強い疑念にカンダタは「置いて来た」とだけ答えた。
廃病院の子も蠍の鬼もこの場に集まっている。あの病院には危険になるものはないと判断したようだった。そうして、病院の通路に清音を置いてきてから走って戻って来た。
カンダタの額や頬には汗が滲んでいる。
「あともう少しだ。頑張れ」
その怒声はあたしにも子取りにも向けられていた。
カンダタはあたしから腕を放し、両手で白糸を握る。あたしも両脚を踏ん張る。
「出てこい!そこから!」
叫んだあたしの言葉は命令ではなく、願望だった。
これまであたしは子取りに願望を言っていたんだと気付いた。
胚羊水の胎児たちを解放したいのも、酷な身体に鞭を打つのもあたしの願望。
無意識に胎児たちと自分を重ねていた。
産まれたかったのに生きられない。産まれたいのに闇底から出ようとしない。
そんな胎児たちの姿は死んだように生きていたあたしに似ていた。
「出てこい!」
生きたいと求めて欲しい。身体中が痛くても闇底から這い出る勇気を持っていてほしい。
子取りの身体が少しずつ動き出した。
「頑張れ!」
あたしと同じ願望を乗せてカンダタも叫ぶ。
子取りは肥満し、垂れる肉を引き摺り、白糸を辿る。乗り掛かっていた鬼の死骸がずるりと落ちる。
離れようとする子取りに蠍の鬼が脚を摘もうとして、それを大蛇が阻止する。
垂れる肉を引き摺って、大声で泣く元気もない。それでも這いずって進むのはちゃんと望んでいる証。
腹を蹴られても親に拒絶しても世界が残酷だと知っても生きたいと願ってくれている。
子取りは最後の力を絞って蠍の鬼と大蛇の乱闘から距離をとる。
「行け!瑠璃!」
あとはあたし次第だとカンダタが怒声で背中を押す。
白糸をカンダタに任せ、あたしは傘の形となった十手を携えて走る。子取りの横を抜け、怪物たちの乱闘へと脚を進める。
子取りを捕らえようと蠍の鬼が天地を薙ぎ払う。あたしはそいつの前に立ちはだかった。
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あたしが父への殺意を表したらサバイバルナイフになって、日常に戻ればペンになった。その理屈は未だにわかっていないし、十手を使いこなす方法を見出していない。
銃や刀の使い方はわからない。けれど、今のあたしは胚羊水を破壊したいと願い、十手は傘に変形した。傘の使い方ならよく知っている。
蠍の鬼に立つあたしは小人当然で、小石ぐらいの障害しかない。それを自覚していても怯まずに仁王立ちになって胎盤鉗子の鬼を睨む。
「道具の分際で命を間引くな」
感情のない道具に悪態をついても、何も伝わらなくとも、言わずにいられなかった。あたしの訴えは誰にも届かず、胚羊水の闇底に消える。
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