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湖のほとりで
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どうやって屋敷に着いて自分の部屋まで戻ったのか、全く覚えていない。途中でメイドのリンが、何か必死に話していたような気がするけどこれっぽっちも思い出せない。
ベッドに腰掛けて、ぼーっと窓の外の湖を見つめる。
湖の水面に月の光が反射して、美しく煌めいている。
そういえば、昔、レン様と同じ景色を見たことがあったなあ。
2人で窓枠に腰掛けて、クッキーを食べながら。
あの時はちょうど、満月の日だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は雲が一つもない、よく晴れた日で、満天の星空の中にぽつんと一つ、月が浮かんでいた。
湖に歪んで映っている月がまた綺麗で、せっかくレン様といたのに、何も話さず二人でただただ湖を眺めていた。
最初に口を開いたのはレン様だった。
「初めて見たけど、とても綺麗な景色だね。とても幻想的で素晴らしいよ。ルナはいつもこの湖を見ているのか。羨ましいな。」
ふふっと笑いながら、優しく褒めてくれたことが酷く嬉しくて、私もつられて微笑んだ。
「いつでもいらっしゃって下さい。私も来て頂けると、とても嬉しいです。」
「ほんとに?じゃあ遠慮なく来ようかな。」
今思えば冗談だったのだろうけど、その言葉をレン様と会える日が増える!なんて馬鹿正直に受け取った私は、約束ですよ?とかなんとか言って、指切りまでしてもらった。
風が首元をさらう。夜風は冷たい。いくら晴れていたといっても、やっぱり冷えるものは冷える。でも、それでも窓は閉めなかった。この時間が永遠に続いてほしかったから、窓を閉めたら夢が終わってしまう気がしていた。
ずっと2人でいたらどれだけ幸せなのだろう……世界で2人だけになったとしても、レン様がいる限り私は生きていられるだろう……そんな妄想じみたことを考えながら、湖を見つめるレン様を見ていた。
「そういえばルナってラテン語で月の女神って意味だったよね。」
ふとレン様がそう呟いた。
「え、ええ…。そうみたいですね……。気に入っていますが、でも女神なんて、少し差し出がましいです。」
もしも私が月の女神……だったとしたら、レン様はなんだろう。
みんなに好かれて美しくて完璧で、まるで太陽ね。
「…レン様は、太陽みたいです。何でもできて、優しくて、皆からの信頼もあって……」
まるで私とは真逆で。
そう言うと、レン様はじっと私を見つめて艶のある黒髪をさら、と靡かせ、そしていきなり窓を大きく開け放った。
「わっ!!え、レン様?どうなさいました?」
突然吹き込んでくる夜風に驚いて、クッキーがこぼれないように急いでテーブルに移すと、レン様は窓枠に腰掛けながら笑って言った。
「ルナ、さっき私はこの湖はとても美しいと言ったね。いつまでも見ていられると。でも君と話して、この景色を君も愛していると知った時、もっと美しく見えた……
君の好きなもの、君の得意なこと、きっと私はまだ知らないことが多い。だから知りたい。君のことをもっともっと知りたいんだ。なぜなら、君のことが好きだから。
こんなことを言ったら傲慢だと叱られてしまうかもしれないけれど……でも伝えたいんだ。
…ルナ、僕が好きな君のことを、君が君自身が、貶すことはしないでくれ。」
君は僕の自慢の婚約者だ。
そう言って、目を細めて笑ったレン様は、月の光に照らされて輝いていて、湖なんかとは比べものにならないくらいに綺麗だった。
そして私は、柄にもなく泣き出しそうになっていた。
大好きな人が自分を認めてくれている。
微笑んでくれている。
その事が嬉しくて嬉しくて、しょうがなかった。
古くて大好きで大切だった思い出。
もう忘れてしまおうか。大切なまま。綺麗なまま。
きっとその方が幸せだから。
ベッドに腰掛けて、ぼーっと窓の外の湖を見つめる。
湖の水面に月の光が反射して、美しく煌めいている。
そういえば、昔、レン様と同じ景色を見たことがあったなあ。
2人で窓枠に腰掛けて、クッキーを食べながら。
あの時はちょうど、満月の日だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は雲が一つもない、よく晴れた日で、満天の星空の中にぽつんと一つ、月が浮かんでいた。
湖に歪んで映っている月がまた綺麗で、せっかくレン様といたのに、何も話さず二人でただただ湖を眺めていた。
最初に口を開いたのはレン様だった。
「初めて見たけど、とても綺麗な景色だね。とても幻想的で素晴らしいよ。ルナはいつもこの湖を見ているのか。羨ましいな。」
ふふっと笑いながら、優しく褒めてくれたことが酷く嬉しくて、私もつられて微笑んだ。
「いつでもいらっしゃって下さい。私も来て頂けると、とても嬉しいです。」
「ほんとに?じゃあ遠慮なく来ようかな。」
今思えば冗談だったのだろうけど、その言葉をレン様と会える日が増える!なんて馬鹿正直に受け取った私は、約束ですよ?とかなんとか言って、指切りまでしてもらった。
風が首元をさらう。夜風は冷たい。いくら晴れていたといっても、やっぱり冷えるものは冷える。でも、それでも窓は閉めなかった。この時間が永遠に続いてほしかったから、窓を閉めたら夢が終わってしまう気がしていた。
ずっと2人でいたらどれだけ幸せなのだろう……世界で2人だけになったとしても、レン様がいる限り私は生きていられるだろう……そんな妄想じみたことを考えながら、湖を見つめるレン様を見ていた。
「そういえばルナってラテン語で月の女神って意味だったよね。」
ふとレン様がそう呟いた。
「え、ええ…。そうみたいですね……。気に入っていますが、でも女神なんて、少し差し出がましいです。」
もしも私が月の女神……だったとしたら、レン様はなんだろう。
みんなに好かれて美しくて完璧で、まるで太陽ね。
「…レン様は、太陽みたいです。何でもできて、優しくて、皆からの信頼もあって……」
まるで私とは真逆で。
そう言うと、レン様はじっと私を見つめて艶のある黒髪をさら、と靡かせ、そしていきなり窓を大きく開け放った。
「わっ!!え、レン様?どうなさいました?」
突然吹き込んでくる夜風に驚いて、クッキーがこぼれないように急いでテーブルに移すと、レン様は窓枠に腰掛けながら笑って言った。
「ルナ、さっき私はこの湖はとても美しいと言ったね。いつまでも見ていられると。でも君と話して、この景色を君も愛していると知った時、もっと美しく見えた……
君の好きなもの、君の得意なこと、きっと私はまだ知らないことが多い。だから知りたい。君のことをもっともっと知りたいんだ。なぜなら、君のことが好きだから。
こんなことを言ったら傲慢だと叱られてしまうかもしれないけれど……でも伝えたいんだ。
…ルナ、僕が好きな君のことを、君が君自身が、貶すことはしないでくれ。」
君は僕の自慢の婚約者だ。
そう言って、目を細めて笑ったレン様は、月の光に照らされて輝いていて、湖なんかとは比べものにならないくらいに綺麗だった。
そして私は、柄にもなく泣き出しそうになっていた。
大好きな人が自分を認めてくれている。
微笑んでくれている。
その事が嬉しくて嬉しくて、しょうがなかった。
古くて大好きで大切だった思い出。
もう忘れてしまおうか。大切なまま。綺麗なまま。
きっとその方が幸せだから。
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