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第2話
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「えーっと、何の用ですかね?」
とりあえず思っていたことをそのまま口にする。
「芽衣と付き合い始めたって聞いたんだけど」
夏休みが終わってしまったというのに、いつもと変わらない目力に若干ビビりつつも、はい、一応、と答えておく。
俺が答えてから体感では5分ほど、実際には10秒ほど、鋭い眼光でじっくりと見られる。冷汗が止まらないような気分になる。
これが肉食動物に捕食される寸前の、草食動物の気持ちか。周りからはカツアゲの現場に見えてるんじゃない? と、ようやくいつもの感じの思考が戻ってきたところで、ようやくあーしさんは口を開いた。
「分かってるだろうけど、芽衣泣かすようなことがあったら許さないから」
許さないどころか、海に沈めるくらいなら普通にやるんじゃない? と思えるくらいには圧を感じたが、芽衣を思っての発言だということが分からない訳じゃないので、屁理屈ではなく本音で答えるとしよう。
「芽衣を泣かせるようなことをする気は無いし、裏切るようなこともしねぇよ」
「まあ、それならいいし。あーしはあんた達のこと悪い組み合わせだとは思ってないし」
それだけ言うと、あーしさんは学校へと向かっていった。
ラスボスと対峙した村人のような気分を味わった時間は、長すぎる気がしたが、実際は2分といったところらしい。緊張感から解放され、脱力から座り込みそうになるのをぐっとこらえる。すると、待ち合わせの時間にはまだ5分あるのに、芽衣がやってきた。
「おはよっ、壮太。早いね」
「おう、おはようさん。まあ、待たせるのもあれだしな」
綺麗な金髪に太陽の光を反射させ、笑顔を向けてくる芽衣に、思わず心を奪われそうになる。
「行こっか」
「あっ、ああ」
駅前からまっすぐ伸びる大通りをともに歩く。周りには、俺や芽衣と同じ制服に身を包んだ生徒ばかりなので、芽衣の右手を取るのは何というか気恥ずかしく、少し伸ばした左手は、羞恥心によって空を切る。それを誤魔化すように、何か話そうかと思うが話題が浮かばない。
それでも何かないか、と考えていると、芽衣が口を開いた。
「ねえ、今日のお昼なんだけど、一緒に食べない?」
「ああ、いいよ。購買行ってからになるけど」
「あのね、壮太の分もお弁当作ってきたから。その、購買には行かないで大丈夫だよ」
そうか、と返すと、会話が途切れそうになるので、何とか続けようと言葉を探すがよさげな言葉は見つからない。
また芽衣が話題を振ってくれたので、それに乗っかる形で話していると、ようやく学校が見えてきた。
周りを歩く制服姿はさらに増え、こちらに向く視線も増える。男からの射殺すような視線は想定していたが、女子からも凝視されることになるとは思わなかった。芽衣の人気は俺が想像していた以上に、しかも、男女を問わず高いらしい。
「ねえ、手、繋いでいい?」
そう言いながら、芽衣は俺の左手を握ってくる。
俺、まだ返事してなくない? いや、まあ、いいんだけどさ。とりあえず答える代わりに、握り返しておくと、芽衣は満足気にこちらを見てきた。
向けられた視線? もちろん強くなったよ。
過去に経験をしたことのない量の視線を浴びつつ、何とか教室前までたどり着いた。扉のあたりでは、あーしさん一派がいつものように話しているので、正直手をつないだまま教室に入るのは億劫だが、俺が手の力を抜いても手が解かれることはない。
「お、おはよう芽衣」
教室の前でどうしたものか、と思っていると、あーしさんがこちらに気付いて、芽衣に声をかけてきた。
「おはよ」
その一言ともに、あーしさん一派全員の視線を浴びて手が解かれる。ひとりで自分の席に移動するまでも、教室内からたっぷりと視線を浴びた。
自分の席に着くと、倒れるようにエアコンの冷たい風を浴びてひんやりとした机の天板に頬を置き、削れた精神力を癒そうと試みる。
「随分と疲弊してるな」
先に来ていた篠崎が声をかけてくる。
「もう、一生分の視線を浴びた気がするぜ」
「あんなに仲良さそうに登校してればそうなるだろ」
「見てたのかよ」
チラッとな。それに、随分話題になってたぜ、と笑う篠崎。
まだ登校してから5分と経っていないのに話題になるとは、さすが情報化社会だ。
「見られるのが分かったんだし、今日みたいにちゃんと髪セットしろよな」
「分かってる。でだ、今度セットの仕方でも教えてくれ」
「いいぜ。しかし、あの寝癖すら直そうとしなかった雨音が、ついに髪形を気にするようになったか。なんというか感慨深いな」
「さようで。お前が言ってきたんだけどな。まあ、言われずともやったが」
そう言いながら視線を、扉の方、要するに芽衣の方へとやると、視線に気づいた芽衣が胸元で小さく手を振ってくる。その様子を見ていたあーしさんと若宮さんからは、視線を向けられたが登校中に浴びたものとは違ったので、とりあえず一安心だ。
とりあえず思っていたことをそのまま口にする。
「芽衣と付き合い始めたって聞いたんだけど」
夏休みが終わってしまったというのに、いつもと変わらない目力に若干ビビりつつも、はい、一応、と答えておく。
俺が答えてから体感では5分ほど、実際には10秒ほど、鋭い眼光でじっくりと見られる。冷汗が止まらないような気分になる。
これが肉食動物に捕食される寸前の、草食動物の気持ちか。周りからはカツアゲの現場に見えてるんじゃない? と、ようやくいつもの感じの思考が戻ってきたところで、ようやくあーしさんは口を開いた。
「分かってるだろうけど、芽衣泣かすようなことがあったら許さないから」
許さないどころか、海に沈めるくらいなら普通にやるんじゃない? と思えるくらいには圧を感じたが、芽衣を思っての発言だということが分からない訳じゃないので、屁理屈ではなく本音で答えるとしよう。
「芽衣を泣かせるようなことをする気は無いし、裏切るようなこともしねぇよ」
「まあ、それならいいし。あーしはあんた達のこと悪い組み合わせだとは思ってないし」
それだけ言うと、あーしさんは学校へと向かっていった。
ラスボスと対峙した村人のような気分を味わった時間は、長すぎる気がしたが、実際は2分といったところらしい。緊張感から解放され、脱力から座り込みそうになるのをぐっとこらえる。すると、待ち合わせの時間にはまだ5分あるのに、芽衣がやってきた。
「おはよっ、壮太。早いね」
「おう、おはようさん。まあ、待たせるのもあれだしな」
綺麗な金髪に太陽の光を反射させ、笑顔を向けてくる芽衣に、思わず心を奪われそうになる。
「行こっか」
「あっ、ああ」
駅前からまっすぐ伸びる大通りをともに歩く。周りには、俺や芽衣と同じ制服に身を包んだ生徒ばかりなので、芽衣の右手を取るのは何というか気恥ずかしく、少し伸ばした左手は、羞恥心によって空を切る。それを誤魔化すように、何か話そうかと思うが話題が浮かばない。
それでも何かないか、と考えていると、芽衣が口を開いた。
「ねえ、今日のお昼なんだけど、一緒に食べない?」
「ああ、いいよ。購買行ってからになるけど」
「あのね、壮太の分もお弁当作ってきたから。その、購買には行かないで大丈夫だよ」
そうか、と返すと、会話が途切れそうになるので、何とか続けようと言葉を探すがよさげな言葉は見つからない。
また芽衣が話題を振ってくれたので、それに乗っかる形で話していると、ようやく学校が見えてきた。
周りを歩く制服姿はさらに増え、こちらに向く視線も増える。男からの射殺すような視線は想定していたが、女子からも凝視されることになるとは思わなかった。芽衣の人気は俺が想像していた以上に、しかも、男女を問わず高いらしい。
「ねえ、手、繋いでいい?」
そう言いながら、芽衣は俺の左手を握ってくる。
俺、まだ返事してなくない? いや、まあ、いいんだけどさ。とりあえず答える代わりに、握り返しておくと、芽衣は満足気にこちらを見てきた。
向けられた視線? もちろん強くなったよ。
過去に経験をしたことのない量の視線を浴びつつ、何とか教室前までたどり着いた。扉のあたりでは、あーしさん一派がいつものように話しているので、正直手をつないだまま教室に入るのは億劫だが、俺が手の力を抜いても手が解かれることはない。
「お、おはよう芽衣」
教室の前でどうしたものか、と思っていると、あーしさんがこちらに気付いて、芽衣に声をかけてきた。
「おはよ」
その一言ともに、あーしさん一派全員の視線を浴びて手が解かれる。ひとりで自分の席に移動するまでも、教室内からたっぷりと視線を浴びた。
自分の席に着くと、倒れるようにエアコンの冷たい風を浴びてひんやりとした机の天板に頬を置き、削れた精神力を癒そうと試みる。
「随分と疲弊してるな」
先に来ていた篠崎が声をかけてくる。
「もう、一生分の視線を浴びた気がするぜ」
「あんなに仲良さそうに登校してればそうなるだろ」
「見てたのかよ」
チラッとな。それに、随分話題になってたぜ、と笑う篠崎。
まだ登校してから5分と経っていないのに話題になるとは、さすが情報化社会だ。
「見られるのが分かったんだし、今日みたいにちゃんと髪セットしろよな」
「分かってる。でだ、今度セットの仕方でも教えてくれ」
「いいぜ。しかし、あの寝癖すら直そうとしなかった雨音が、ついに髪形を気にするようになったか。なんというか感慨深いな」
「さようで。お前が言ってきたんだけどな。まあ、言われずともやったが」
そう言いながら視線を、扉の方、要するに芽衣の方へとやると、視線に気づいた芽衣が胸元で小さく手を振ってくる。その様子を見ていたあーしさんと若宮さんからは、視線を向けられたが登校中に浴びたものとは違ったので、とりあえず一安心だ。
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