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第13話

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 文化祭が終わり、それに合わせるように残暑が引いていく。
 来週からは、体育祭に向けた準備がはじまり、体育祭が終わると試験期間がやってくる。さらに試験が終われば修学旅行だ。もう、ソーシャルゲームかなって勘違いしそうなレベルのイベントラッシュ。正直もうちょっと間隔おいてやってほしい。
 そんなイベントラッシュに与えられた僅かな休みももう最終日。祝日に振替休日と、それなりに長い休みだと思っていたのにあっという間だった。タイムリープしたんじゃないか、とさえ思った。どうせなら今から休みの初日にタイムリープしたかった。けれど、そんな莫迦なことを思ったところで、現実は変わらない。せめて、そういうのは胡桃っぽいやつを理科準備室で拾ってから考えるべきだ。

「お兄ちゃんってば聞いてるの?」
「ああ、うん。で、なんだって?」
「全然聞いてないじゃん」
「いや、こう、居心地が悪い場所だと、とりあえず関係ないこと考えて現実逃避したくなるんだよ」

 俺らは、明日から修学旅行に行く祐奈の、必要なものの買い出しとして、大型商業施設に来ていた。

「で、お兄ちゃん、どっちが似合うと思う?」
「まあ、強いて言うなら右だな。そっちの方が秋っぽいし、祐奈が持ってる羽織るシャツにも合うと思う」

 祐奈が俺の言葉に目を丸くする。

「なんだよ」
「お兄ちゃんがまともな感想を。これも芽衣さんのおかげかな」
「まあ、そうかもしれんな」
「でも、似たの持ってるんだよねぇ。こっちにしよ」
「ねえ、ちょっと、決まってるならわざわざ聞かなくてよくない?」
「試験だよ、試験。ちゃんとお兄ちゃんがまともな感想を言えるかの。この間みたいに適当言って、芽衣さんに愛想つかされたら、もうおわりだよ」
「おわりってなんだよ。まあ、いいや。いや、愛想つかされるのはよくないけど。決まったなら次行こうぜ」
「あいあいさー」

 ビシッと敬礼する祐奈から、服を受け取って会計を終えれば、また俺の手に荷物が増える。


 さらに何件か店を回り、小腹がすいてきたところで、フードコートで昼食を取ることになった。

「そういえばお兄ちゃん」
「どうした?」
「せっかくの連休なのに芽衣さんとデートしなくていいの?」
「芽衣は友達と遊んだり、家族と出かけたりだと」

 文化祭前と当日は、ほとんど俺と一緒にいたし、友達や家族との時間も大事だろう。まあ、俺には遊ぶような友達がいないから、家でのんびり映画とか見て過ごしてたり、祐奈の荷物持ち兼財布になったりするんだけど。

「なるほどねぇ。おかげでお兄ちゃんを使えるからいいんだけど」

 あんまり使うとか物みたく言うなよ、お兄ちゃんショック受けちゃうだろ。

「で、午後は何するの帰宅?」
「特に決まってないなぁ。でも帰宅の提案はマイナスだー」
「あれ、雨音さん?」

 チェーン店のハンバーガーを齧りながら、祐奈と話していると、声を掛けられる。誰だ? と思って首を動かすと見覚えのない女子が2人。

「祐奈の知り合いか?」
「うん、同じクラスの子」
「雨音さんデート中だった?」
「違うから、これはお兄ちゃん」

 どうも、と軽く頭を下げておく。

「お兄さんって、あの料理上手な?」
「優しくて、頭が良いっていう?」
「ちょっ、なに言ってんの」

 友達の言葉に慌てふためく祐奈を横目に、ハンバーガーを食べる。ここでなんか喋れば、祐奈に八つ当たりされるのは分かってるし、大人しく食べるのに徹するのがいいのだ。ハンバーガーは美味しいなー。

「友達と回るなら、俺は荷物持って帰るけどどうする?」

 祐奈が少し落ち着いたようだし、ハンバーガーはなくなったので、そう声をかけてみる。

「じゃあ、お願い」
「はいよ。じゃあ、代わりにこれ。まだ足りないものがあったり、欲しいものがあれば使え」

 財布から一万円を取り出し祐奈に渡して、荷物を持つ。

「明日早いんだし、あんまり遅くなるなよ」
「分かってるって」
「それならいいんだが」

 じゃあ、と言って、フードコートを後にする。帰る前にどっか寄って行こうかな。スーパーはしばらく祐奈がいないから、家にあるもので当分足りるだろうし、新刊が積まれてるであろう書店だな。
 吸われるように、書店の方へと足が動く。


「雨音さん」

 平積みされた新刊を眺め、気になるものを探していると、本日2回目の雨音さん呼び。振り返ると、今度は芽衣の妹の唯織ちゃんがいた。

「おお、久しぶり」
「はい、お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「妹の荷物持ちだよ。明日から修学旅行に行くから、そのために必要なものをそろえるんだと。まあ、その祐奈も友達見つけて、友達と回ってるから、荷物と暇だけが俺に残されたんだけど」
「なるほど。妹さんはどこ行くんですか」
「俺と一緒で京都だよ。母さんが、同じとこに行くんじゃ、お土産が被りそうねって嘆いてた」
「確かに、2か月としないうちに今度は雨音さんが行くんですもんね」
「そうなんだよ。で、唯織ちゃんはどうしたの?」
「家族で買い物ですよ。ほら、噂をすれば」

 唯織ちゃんの視線を追うと、芽衣たちのお母さんと廣瀬家の末っ子、そろそろ5歳になろうという朱莉ちゃんがいた。

「おにいちゃんだ!」
「おう、おにいちゃんだぞ」

 朱莉ちゃんの視線に合わせてるようにしゃがんで、頭を優しくなでてから、お母さんにあいさつする。

「雨音君、こんにちは」
「こんにちは」
「久しぶりね」
「そうですね」

 唯織ちゃんに会ったのも、お母さんに会ったのも、もちろん朱莉ちゃんに会ったのも廣瀬家の面々と一緒に遊園地に行った時ぶりだ。つまり芽衣の彼氏になる前の事なのだ。2人は知っているんだろうか? 何となく知ってそうだけど、ちゃんと話さなきゃだよなぁ。

「うちの子が迷惑かけてないかしら?」
「いや、全然ですよ。むしろ僕が迷惑かけてるんじゃないかってくらいで」
「ならいいんだけど。そうだ、良かったらカフェでお茶でもしない? 芽衣の話も聞きたいし」
「えーっと」
「何か予定があるなら、無理にとは言わないけど」
「いえ、予定は特にないですが」
「じゃあ、決まりね」

 相変わらず、ふわっとした押しの強さは健在らしい。
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